インベスコの視点

プライベート・クレジット市場に関する現在の混乱:ディストレスト・デット

Invesco Fixed Income Special Report

先般開催されたインベスコ・アジア・パシフィック・フォーラムにおいて、インベスコのプライベート・クレジット・プラットフォームに属するディストレスト・クレジット運用チーム・ヘッドのポール・トリジアーニに対して、シニア・クライアント・ポートフォリオ・マネジャーのジェフリー・リーマーが、ディストレスト・デット市場をめぐる状況が近年どのように進化してきたか、また、運用チームはこの市場でどういった投資機会を見出しているのかなどについて質問しました。以下は、当セッションから抜粋したものです。

 

質問:ディストレスト・デット市場での投資機会にはどのようなものがあると考えていますか?具体的には、どこに注目していますか?

回答:足元の経済環境では、引き続きインフレ率の高止まりや鉱工業生産の縮小がグローバルで見られ、また、英国や欧州の景気見通しは米国やアジアよりかなり悪くなっています。金利は上昇を続け、レバレッジを効かせた既存の借り手の多くは大幅な金利上昇に直面しており、今日ではほとんどの企業が昨年対比で2倍以上の利息を支払っています。企業は、人件費、賃金、家賃、光熱費、エネルギー費、輸送・物流費、原材料・資材投入、そして前述の借入コストなど、コスト構造のほぼすべての部分でインフレが残っています。

同時に、企業が需要の減少を補うために上昇したコストを自社製品の価格に転嫁することははるかに難しくなっています。製造業のグローバルでの減速に見られるように、鉱工業生産が縮小しているだけでなく、消費者は生活に不必要な買い物を先延ばしして、できる限り低価格の日用品で代用するようになっています。これらすべての要因があらゆる地域のあらゆる業種に影響を及ぼしており、グローバルでのマージン縮小をもたらしています。このような状況は、ディストレスト投資家にとって、安定した業種に属している堅実でビジネス自体は問題のない企業に注目する投資機会をもたらすと考えます。

私たちのチームは、特にスモールキャップのディストレスト・デット(債務の時価総額が5億米ドル以下、EBITDAが1億米ドルをかなり下回るもの)に焦点を当てています。私たちは優先担保付ローンへの投資から始めますが、地方銀行の大規模なクラブ・ディール、一部のダイレクト・レンディング、あるいは10~20のCLOが参加するような小さめのシンジケート・ローンなど、非効率的な投資家が保有するローンを探します。資本構造上、優先担保付であることはダウンサイド・リスクの軽減に役立ちます。さらに、先に述べたような投資家は時に強制売却を強いられるため、潜在的には割安な価格で投資を開始できるのです。

スモールキャップのディストレスト・デット市場はいくつかの理由で特に興味深い点があります。第一に、スモールキャップ市場ではそもそも恒常的に投資機会が発生しやすく(エバーグリーン)、そのため市場サイクルに左右されにくくなります。スモールキャップ企業は、マクロ環境とはまったく関係のない、各企業の個別の事情で資金繰りの問題に直面することが多いのです。この点は、景気サイクルに沿って投資機会が顕在化するようなラージキャップ企業のディストレスト・デット市場と大きく異なります。

スモールキャップのディストレスト・デット市場は、信じられないほど不透明で非効率な市場でもあります。これらはすべて、財務情報が公開されない非上場企業です。企業情報にアクセスするには秘密保持契約を結ぶ必要があります。また、スモールキャップ企業は幅広い投資家にカバーされておらず、割安な価格でこうした優先担保付ローンを購入することができるのです。

質問:潜在的な景気後退の可能性があるかもしれませんが、こういった場合にどのように投資機会を発掘するのですか?

回答:私たちはスモールキャップ市場を選好しているため、景気後退が起こるかどうかについてはあまり関心がありません。ベースケースシナリオとして景気後退を想定していますが、それは新しい投資を検討する際には非常に重要です。しかし、それよりもこういった金利環境で何が起こるかを考えることが重要と考えています。金利が高止まりしている中で、満期の近い債務を持つ企業はリファイナンスでかなり苦労すると思います。

こうした問題は、あらゆる業種で見られるかもしれません。興味深いことに、今後36ヶ月間に満期を迎えるシニア・ローンおよびハイ・イールド債のほぼ半数がスプリットB格となっており、減速する景気の中でディストレスト状況や格下げになる企業が増えるかもしれません。私たちにとって重要なことは、これらの企業の40%以上は負債残高が5億米ドル未満であることです。これらは私たちのターゲットとするスモールキャップ市場にその多くが含まれることを意味します。加えて、最近の新規発行におけるかなりの割合(30-40%)がB3/B-格または無格付けのスモールキャップ企業によって発行されています。大幅な格下げが起こる局面では、当初の投資家もしくは「パー」近辺で投資した投資家)の多くに売り圧力がかかるでしょう。特に、レバレッジド・ローン市場の約70%を占めるCLOでは、保有できるCCC格の投資額に制限があります。

質問:現在のディストレスト・デットへの投資機会は、過去のサイクルと比べて違いはありますか?

回答:現在の投資環境は、このアセットクラスがこれまで経験してきたものとは大きく異なっています。過去20年以上のサイクルについて考えてみると、そのほとんどが特定の業種に依存するものでした。2001年の不況は、ハイテク、テレコム、ブロードバンドが中心でした。そして2005年と2006年では、欧州の自動車セクターの市場サイクルが見られました。2008年の金融危機時は、金融、住宅ローン、住宅建設業者、建築製品など、2015年はエネルギー関連など、明らかに特定の業種でした。さらに、過去10~15年間は、e-コマースの巨大企業が伝統的な小売業者に取って代わったため、小売セクターで問題が発生しました。最近では、COVIDの大流行が人工的な景気サイクルを作り出し、そこでは経済の扉が閉ざされて2年半後に再開されました。このため、旅行、クイックサービス・レストラン、映画館など、特定の業種が大きな影響を受けました。

これらとは対照的に、現在の投資機会はより広範囲に及んでいます。特により大きな影響を受けるような業種は見当たりません。ディストレスト・デット投資家としては、耐久力のある企業や業種における最も魅力的な投資に注力したいと思います。興味深いことに、そしておそらく過去にも増して、私たちの投資機会では、ビジネス運営上の問題がある企業が少なくなっています。つまり、私たちは投資先企業が本来的に持つ強い事業への投資や、投資先企業の負債の削減と流動性の改善により多くの時間をかけることができます。その結果、今後2、3年の市場環境は、リスク調整後ベースで見た場合、以前のディストレストの局面と比べてはるかにリスクが低くなると思われます。

 

当資料ご利⽤上のご注意

  • 当資料は情報提供を⽬的として、弊社グループが作成した英⽂資料をインベスコ・アセット・マネジメント株式会社(以下、「弊社」)が抄訳し、要旨の追加などを含む編集を⾏ったものであり、法令に基づく開⽰書類でも⾦融商品取引契約の締結の勧誘資料でもありません。抄訳には正確を期していますが、必ずしも完全性を弊社が保証するものではありません。また、抄訳において、原資料の趣旨を必ずしもすべて反映した内容になっていない場合があります。また、当資料は信頼できる情報に基づいて作成されたものですが、その情報の確実性あるいは完結性を表明するものではありません。当資料に記載されている内容は既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。当資料には将来の市場の⾒通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における作成者の⾒解であり、将来の動向や成果を保証するものではありません。また、当資料に⽰す⾒解は、インベスコの他の運⽤チームの⾒解と異なる場合があります。過去のパフォーマンスや動向は将来の収益や成果を保証するものではありません。弊社の事前の承認なく、当資料の⼀部または全部を使⽤、複製、転⽤、配布等することを禁じます。

     

    当運用戦略に関する投資リスク

    当運用は、値動きのある米ドル建てなどのディストレスト・ローン等への投資を行います。組入れたディストレスト・ローン等の価格の下落や金利動向等のほか、借り手の倒産や財務状況の悪化およびそれらに関する外部評価の変化等により、ディストレスト・ローン等の価格が変動し、損失を被る可能性があります。したがって、投資家の皆様の投資元本は保証されているものではなく、投資対象であるディストレスト・ローン等の価格下落により、損失を被り、投資元本を割り込むことがあります。
    主な投資リスクは次の通りです。
    信用リスク:ディストレスト・ローン等の価格は、借入企業の財務状況の悪化などの信用状況の変化、もしくはそれが予想される場合、価格が下落することがあります。また、利息および償還金をあらかじめ決定された条件で支払うことができなくなった場合(デフォルト)、またはできなくなることが予想される場合には、ディストレスト・ローン等の価格が大きく下落することがあります。担保の状況によっては投資元本に対して担保の価値が充分でない場合もあります。
    価格変動リスク:ディストレスト・ローン等の価格は、政治・経済情勢、発行企業の業績、市場の需給等を反映して変動し、下落することがあります。また、発行企業が経営不安、倒産等に陥った場合には、投資資金が回収できなくなることもあります。
    担保価値変動リスク:通常、融資実行時には融資額と同程度以上の担保が設定されますが、市場環境の変化によって担保価値が変動し、ディストレスト・ローン等の価格が下落することがあります。
    金利変動リスク:投資するディストレスト・ローン等の大半は変動金利であるため、金利の上昇(低下)による価格の変動は固定金利の資産に比べて相対的に小さなものになると想定されますが、金利変動局面やスプレッド拡大局面では、その影響を受けてディストレスト・ローン等の価格が下落することがあります。
    流動性リスク:ディストレスト・ローン等は、一般的に流動性や市場性が低く、期待される価格や希望する数量を売却できないことがあります。
    為替変動リスク:為替レートは、各国の金利動向、政治・経済情勢、為替市場の需給、その他要因により大幅に変動する場合があります。組入外貨建資産について日本円で評価する際、当該外貨の為替レートが円高方向に変動した場合には、損失を被ることがあります。

     

    当運用戦略に関する費用と税金

    投資一任契約に基づいて外国籍私募投信に投資する場合の費用は次のとおりです。
    国内特定(金銭)信託における費用・税金
    ・投資一任契約に係る報酬:資料作成時点で受託実績がなく、料率体系が未定のため、表示することができません。
    ・特定(金銭)信託の管理報酬:当該信託口座の受託銀行である信託銀行にお支払いいただく必要があります。具体的料率については信託銀行にご確認下さい。
    ・上記の費用の合計額については、運用状況などによって変動するものであり、事前に料率、上限額などを表示することができません。
    投資先海外ファンドにおける費用・税金
    ・実際の投資は日本国外のファンドで行い、国内特定(金銭)信託口座から日本国外のファンドに投資することを想定していますが、投資先ファンドの諸条件については、当資料作成時点では詳細が決定していないため、表示することができません。
    ・投資対象ファンド管理報酬および費用 :ファンドの運用残高によって変動するため、事前に具体的な料率、金額または計算方法は記載できません。
    ・その他の費用:組入銘柄の売買時に発生する費用、外貨建資産の保管等に要する費用、監査費用 等が発生し、投資先海外ファンドの信託財産中より支払われます。これらの費用は取引量などによって変動するため、事前に具体的な料率、金額または計算方法は記載できません。
    ・上記の費用の合計額については、運用状況などによって変動するものであり、事前に料率、上限額などを表示することができません。
    費用の合計
    ・上記の費用の合計額については、運用状況などによって変動するものであり、事前に料率、上限額などを表示することができません。
    課税について
    ・非課税要件を満たした年金基金のお客様については非課税となります。
    ※外貨建資産への投資によって発生する配当、キャピタルゲインに対して、関係国で課される税金を負担する場合があります。
    投資一任契約の締結に際しましては、重要事項説明書ならびに契約締結前交付書面を必ずご確認下さい。

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