テーマ1 新型コロナウイルス感染症により流動性が焦点に。資金引き出しにより保有資産が減少し、現金資産が倍増
新型コロナウイルスの世界的な大流行(パンデミック)により、当面の資金引き出しニーズと将来の投資機会を捉えるため、流動性が焦点になりました。低利回り環境とインフレ懸念を背景に債券への資産配分が削減され、株式とプライベート資産が増加しました。また、バリュエーションへの懸念はあるものの、アクティブ戦略の活用の増加や投資期間の長期化によってそれが一部低減する形で株式配分は増加しています。
世界141名のソブリン投資家をインタビュー
回答者が運用する資産総額19兆米ドル(約2000兆円)
コロナと流動性、中国投資、ESG投資、不動産投資と気候変動、中央銀行
ソブリン投資家の投資期間は、2020年9.4年から2021年9.7年と、引き続き長期化の傾向にあります。これは、主に新型コロナウイルスにより生じた市場の混乱のため、投資ソブリン、債務ソブリンおよび開発ソブリンの投資期間が長期化したことを反映するものです。一方で、パンデミックの対応に資金を提供したために保有資産が減少した流動性ソブリンの投資期間は2.9年と、ほぼ変化はありませんでした。
厳しい市場環境にもかかわらず、2020年のパフォーマンスは前年に続き良好でした。ソブリン投資家の2020年のリターンの平均値は7.3%と、前年の平均値の7.6%からわずかながら低下しました。
投資家セグメント別では、前年はセグメント間で差が見られましたが、2020年はほぼ同水準となりました。開発ソブリンと流動性ソブリンのリターンの平均値はそれぞれ前年から0.6%、1.2%上昇し、特に流動性ソブリンは債券利回りの低下により資本が増価しました。一方で、投資ソブリンと債務ソブリンのリターンの平均値は、それぞれ1.0%と0.8%低下しました。
債券への配分は、前年の34%から2021年は29%に減少しました。これは、金利の低下を受けたソブリン投資家が、他の資産でのリターンの確保を目指したためです。一方、株式は、2020年1-3月期に市場の急落を経験しましたが、その後力強い反発を示しました。その結果、ソブリン投資家の株式への配分は、2020年の26%から2021年は28%に上昇しました。
過去12カ月間、ソブリン投資家は、ポートフォリオの流動性を維持し、将来の資金の引き出しに備えましたため、現金資産の配分は2020年の4%から9%に増加しました。また、2015年から配分が増加していた流動性の低いオルタナティブ資産は、2021年は初めて減少しました。
新型コロナウイルスの世界的な大流行(パンデミック)により、当面の資金引き出しニーズと将来の投資機会を捉えるため、流動性が焦点になりました。低利回り環境とインフレ懸念を背景に債券への資産配分が削減され、株式とプライベート資産が増加しました。また、バリュエーションへの懸念はあるものの、アクティブ戦略の活用の増加や投資期間の長期化によってそれが一部低減する形で株式配分は増加しています。
新型コロナウイルスにより、特に中央銀行の間でESGへの注目が高まっています。気候変動は市場価格に完全には織り込まれていないとの見方が一般的となり、それによりESGインテグレーションの目的が投資リターンの改善へと変化しました。特に開発ソブリンの間でインパクト投資への関心が高まっていますが、規模があり投資可能な機会を見つけることが課題として残っています。
魅力的な内需によるリターンと多様な投資機会に支えられ、中国の投資妙味は過去4年間で着実に高まっています。ソブリン投資家は、中国の経済的重要性の高まりと、株価指数と債券指数における中国採用の増加に着目しています。一方で、政治的リスクはますます大きな課題となっており、ソブリン投資家は投資に対する重要な障害として米国との政治的緊張の高まりを指摘しています。
ソブリン投資家は引き続き不動産を大きな投資機会を見出しており、北米と欧州先進国がその投資地域として注目されています。投資機会は不動産タイプによって異なっており、産業施設(物流倉庫)、住居、データセンターが最も魅力的な利回りを提供すると見なされています。また、気候変動はポートフォリオに対する最も重要なリスクと見なされており、ソブリン投資家は不動産の評価とデューデリジェンスの際に気候リスクの考慮を強めています。
新型コロナウイルスによりリスクに関する議論が高まり、準備金が増加し、流動性資産への配分が増加しました。中央銀行は、単一資産レベルのリスクからポートフォリオ・レベルでのリスクを注視するようになっており、非伝統的な「リスク資産」への配分はポートフォリオ・レベルのリスクを低下させると認識されています。株式の重要性は高まり続けていますが、広範なインデックスやETFという最も流動性の高い選択肢が注目されています。また、米ドルからの資金移動が続いており、その主な受益者は中国人民元となっています。
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