IGSAMS2024 インベスコ グローバル・ソブリン・アセット・マネジメント・スタディ2024
第12回目となるインベスコ グローバル・ソブリン・アセット・マネジメント・スタディによると、地政学的緊張がインフレを上回るソブリン投資家の主な懸念事項となり、新興国市場に関する投資への関心が高まっていることが分かりました。
世界各地で選挙が行われる極めて重要な年を迎え、
中央銀行は複雑で不確実な環境に直面している状況にあります。
結果の予想がつかない米国の大統領選から、欧州やアジアなどでの重要な選挙戦まで、その結果には世界の経済的・政治的秩序の形を変える潜在性があります。
これに関連して、世界の主な準備通貨としての米ドルの優位性に関して、精査する動きが強まっています。というのも、中央銀行が債務水準の上昇、ライバル通貨が出現する可能性、米ドルへのアクセスの武器化に関連したリスクについての懸念に対応しているからです。特に米国の選挙結果は、米ドルの安定性と世界金融システムにおける役割に大きな影響を及ぼすかもしれません。
経済政策の転換、地政学的緊張のさらなる激化、または自国の債務を管理する米国の能力に対する信頼喪失のいずれもが米ドルの地位低下につながる可能性があります。結果として、先行きの予想がより困難になった世界において、中央銀行が米ドルへの過度の依存に関連したリスクを緩和しようとするなか、一部の間で不安が広がり、分散化を望む動きが見られます。
準備金の増加
今年の調査で得られた主な結果の1つは、中央銀行の間で、潜在的リスクを緩和し、市場が混乱した場合に介入する能力を確保する方法として準備金の規模を増大する意欲が見られたことでした。回答者の過半数(53%)が今後2年で準備金の規模を増大させる意思を示した一方、わずか6%が規模削減を計画していると回答しました(図5.1)。
こうした準備金積み増しの動きを駆り立てている要素の1つは、特にこれから世界各地で実施される選挙を考慮して、世界の経済・政治環境の不確実性が高くなっていることです。中央銀行は、選挙結果が市場のボラティリティ、通貨の変動、投資家センチメントの転換のきっかけになる潜在性に気を配っていました。
回答者は、準備金を積み増すことで、これらリスクに対するバッファーを作り、混乱が起きる可能性を前にして必要な対応力を確保しようとしていたと明かしました。ある欧米の中央銀行は、「現在、あらゆることが極めて不確実です。これが準備金を積み増しする理由です」と述べました。 この考えについて、中東の中央銀行も「想定外の政治的危機またはマクロ危機に備えて準備金を増強することに決めました」と話し、同様の見解を示しました。
利回りが上昇する環境は、中央銀行が準備金を積み増すもう1つの動機を与えています。世界的に金利が上昇するなか、中央銀行は準備資産からより高いリターンを創出する機会を認識しています。また中央銀行は、欧米の準備資産に対する利回り上昇は、金利収入を増加させるだけでなく、準備金保有コストを減少させ、そして世界の金利が構造的に上昇している環境は、準備金保有コストがゼロ金利時代よりも持続的に低くなる可能性があることを示唆しているとも指摘しました。
ある中東の中央銀行は、「今日の市場で得られる、より高い利回りのために、準備金を増強する魅力が増しています。私たちはこの機会を利用して、リターンを増やし、財務状況を強化しています」と話しました。アジアの中央銀行は、「現在の高利回り環境は、準備金を積み増してポートフォリオを分散するのにより高い柔軟性を与えてくれます。私たちはより高いリターンを創出する機会を積極的に探しています」と述べ、同様の見解を示しました。こうした積み増しの動きは、国際通貨基金(IMF)が発表した最新のデータで明らかです。これによると、世界の公的外貨準備高は2022年第4四半期から2023年第4四半期の間に3%増加しました(図5.2)。
回答者の約3分の2が、米国の債務水準の上昇は米ドルが世界で担う役割にとってマイナスだと考えます(図5.3)。一方、世界の準備通貨としての米ドルの地位は5年後には弱くなると回答した中央銀行の割合は18%で、昨年の11%から上昇しました(図5.4)。
ところが、米国の財政状況と債務関連のリスクが米ドルへの信頼感を損なう可能性について懸念があるにもかかわらず、大半の中央銀行は米ドルの短期的な見通しに関して楽観的な姿勢を崩していません。ある欧米の中央銀行は、「米国の財政状況は確かに懸念材料ですが、私たちはそれを米ドルの優位性を直ちに脅かすものとはみていません。米国経済は依然として世界で最も規模が大きくダイナミックであり、世界の準備通貨としての米ドルの役割は深く根付いています」と述べました。
さらに、別の通貨が米ドルの正当な競合相手として台頭するまでの期間について尋ねられると、中央銀行の17%が20年超と回答し、37%は予見しうる未来にそのようなことが起こる可能性は低いとの考えを示しました(図5.5)。このことは、米ドルへの挑戦者が直面するであろう参入障壁の高さを強調します。
支える主な要素の1つが、それに代わる信頼性の高い通貨が存在していないことです。中国の経済力と地政学的な力は近年急速に発達しましたが、調査では、中央銀行の9%が人民元が5年以内に真の準備通貨になると予想したことが明らかになりました(図5.6)。
中国の経済成長軌道、金融市場の発展、地政学的リスクは世界の投資家の見通しに影響を及ぼす要素であるかもしれません。
米ドルの明確な後継者が存在しないことは、多極的な通貨制度への広範な転換に関する見通しについて、中央銀行の間に懐疑的な見方があることによってさらに強調されます。金に裏付けられる共通のBRICS通貨が創設される可能性について尋ねられると、回答者の26%のみが今後10年で実現する可能性がかなり高い、またはやや
高いと答えました(図5.7)。BRICS諸国の間で
経済的・地政学的関心に違いがあることや、新たな準備通貨創設を調整する実務的問題が、進展の大きな障害になると考えられました。
しかしながら、米ドルの優位性は今のところ崩れることがないように思われる一方で、一部の中央銀行の間で米ドルへの過度な依存に関連したリスクについて不安が高まっていることが調査から明らかになりました。具体的には、ドルへのアクセスが武器化される可能性が重大な懸念として浮かび上がっています。回答者の45%はそれを米ドルの継続的な優位性に対する主要なリスクとして挙げました。このリスクは、アジアと新興国市場の中央銀行の間で特に深刻であるとみなされています(図5.8)。
回答者は、現在は凍結されているロシアの準備資産が没収され、復興目的でウクライナに配分されるのならば、こうした行動が作り出す前例のために、自らの見解が相当に強化される可能性が高いと指摘しました。
ある中東の中央銀行は、「ドルの武器化は私たちにとって現実的な懸念です。米国が地政学的目標を達成するために自らの財政的優位性を使ってきた様子を目にしてきました。このことから、私たちは準備金として米ドルに依存しすぎることについてより慎重になっています」と述べました。
しかしながら、これらの懸念にもかかわらず、調査からは、米ドルに代わる信頼性の高い通貨が存在しないため、米ドルの優位性は短中期的に維持される可能性が高いことが示唆されます。この要因の1つは、準備金の増強と分散化という両立できない目標の問題が、増強を優先して解決されてきたことです(その後に米ドル保有を増やす必要性が生じます)。
ある欧米の中央銀行は、「米ドルは快適な逃避先ではないかもしれませんが、私たちにとって最良の逃避先であることに変わりはありません」と総括しました。
現在の先行き不透明感と現実的に米ドルに代わることのできる通貨を見つける困難さから、準備金の分散化とさまざまなリスクに対するヘッジを試みる中央銀行にとって、金がますます魅力的な選択肢になってきました。調査では、中央銀行の56%が、準備金が武器化される可能性によって金がより魅力的になっているとの見方に同意し、48%が米国債務水準の上昇が金の魅力を高めているとの考えを示しました(図5.9)。
3分の1超の中央銀行は、準備金の中での金の配分割合を増やしています(図5.10)。
金の大きな強みの1つが、特定の国または通貨に結びついていない、政治と無関係な有形資産としての地位です。あるアジアの中央銀行は、「金は変動が小さい安全な逃避先であり、信頼を醸成する資産です。
通貨の武器化に対するヘッジとしての役割を果たします」と述べました。この見解は、地政学的リスクと市場のボラティリティからの隔離を試みる中央銀行にとって、戦略資産としての金の重要性が増していることを強調します。
調査では、回答者の70%が金をインフレに対するヘッジとして、60%が地政学的混乱に対するヘッジとして認識していることも明らかになりました。このことは、中央銀行の間で持続するインフレに関して懸念が高まっていること、地政学的な衝撃が金融市場を混乱させる可能性があることを反映します。どちらも伝統的な準備資産の価値を傷つける恐れがあります。ある中東の中央銀行は、「金は政府または組織にとって、特に保有義務はありません。そのことが認識された安全性と信頼性を強めているのです」と説明しました。
興味深いことに、金について特に明るい見通しを立てている地域として中東が際立っています。同地域の中央銀行では、金への配分を増やすこと、そして米国の債務水準やインフレ、地政学的混乱などさまざまなリスクに対するヘッジとして金を認識することを検討する傾向がかなり高くなっています。このことは、同地域で長年培われてきた金に対する文化的・歴史的親近感に加えて、地政学的な衝撃が石油市場を混乱させる恐れについて懸念が高まっていることを反映します。
ある中東の中央銀行は、「金は極めて重要です。長期的な資産であり、売却しようなど考えもしません」と説明しました。
地域の経済的・金融的状況のなかで、富の保全とリスク軽減を目指すを中央銀行にとって、戦略的資産としての金の重要性は増しています。
中央銀行の準備資産を構成する重要な要素としての金の復活は、これを売却するよりも保有しようとする傾向とあいまって、重要な意味合いを持ちます。このトレンドが続くならば、欧米の法定通貨建ての外貨準備の保有高が絶対的に増加する可能性が高いこと、また、これらの通貨に配分されるポートフォリオのウェイトが、金などの他の資産に比べて減少したとしても、この増加が起きるかもしれないことが示唆されます。
今年の調査で見られたもう1つの顕著なトレンドは、中央銀行の間で新興国市場、特にアジアに準備金の配分を分散することへの関心が高まっていることです。調査結果からは、新興国市場(中国を除く)への配分が今後5年間で大幅に増加する見通しであることが明らかになりました(図5.11)。
2022年に新興国市場に配分を行っていない中央銀行の割合は53%でしたが、この数字は5年後には34%に低下する見通しです。反対に、配分比率が5%以上の中央銀行の割合は7%から5年間で34%に上昇すると見込まれています。
準備金での新興国市場への配分を増加させる意向は、地政学的混乱に対するバッファーとして準備金を積み増したいとする全体的な意欲を考えれば、特に注目に値するものです。このことは、
規模を増す全体的な準備金のプールにおいて、新興国市場に関連する資産が占める割合が大きくなる可能性が高いことを示唆します。
新興国市場への関心の高まりは、国際通貨基金(IMF)が発表した最新のデータにも反映されています。これによると、伝統的な準備資産以外の通貨への配分が着実に伸びています。米ドル、ユーロ、円、英ポンド、人民元、豪ドル、カナダ・ドルに分類されない通貨を含む「その他」のカテゴリーが世界の総外貨準備高に占める割合は、2022年第4四半期の3.2%から2023年第4四半期の3.6%に上昇しました(図5.12)。
新興国市場資産への関心の高まりは、中央銀行の間で、これらの市場と伝統的な準備資産を組み合わせると、より高いリターンと追加的な分散化の便益をもたらす可能性があると認識されていることを指し示します。
ある中東の中央銀行は、「新興国市場資産と伝統的な準備資産を組み合わせることで、より堅固で強靭なポートフォリオを作ることができると考えます」と述べました。
新興国市場の中では、インド、韓国、インドネシアがエクスポージャーを増やす上で最も魅力的な国々であると見られています(図5.13)。
特にインドは多くの中央銀行の注目の的として浮上しており、その強い経済成長見通し、拡大する消費市場、地政学的影響力の高まりによって、準備資産配分先として重要度を増しています。ある欧米の中央銀行は、「インドには、拡大し続ける多くの人口、急速な経済成長、増大する国内消費という特徴があります」と説明しました。
韓国とインドネシアも、新興国市場へのエクスポージャーの分散化を図る中央銀行にとって、魅力的な選択肢として認識されています。
先進経済、強い輸出セクター、世界クラスのテクノロジー産業により、韓国は比較的安定した低リスクの準備金配分先になっています。
一方、インドネシアは、多くの人口、豊富な天然資源、東南アジアにおける戦略的位置により、世界経済においてますます重要な国になっています。
興味深いことに、調査では、アジアの中央銀行が今後数年で新興国市場への配分を増やす可能性が極めて高いことが明らかになりました(図5.14)。これは、アジアにおける地域内投資と経済統合のトレンドが高まっていることを反映します。地域の国々は先進市場経済国への依存を弱め、隣国との連携を強化しようとしています。
あるアジアの中央銀行は、「アジアの中に成長と投資の膨大な機会があります。私たちは地域の極めて力強く、有望な経済国へのエクスポージャーを増やそうと積極的に取り組んでいます。経済的なつながりを強化することで、私たち皆にとって、より安定的で繁栄した未来を作り出すことができると考えます」と説明しました。
これらの国々が成長し成熟し続けるなかで、また、その金融市場がより洗練されて世界経済に統合されるなかで、準備金の分散化と長期的な投資目標の達成を試みる中央銀行にとって、こうした国々はより魅力的な提案先となる可能性が高いでしょう。
米ドルは依然として支配的な準備通貨ですが、調査では、米国の債務水準の上昇と継続的な優位性に関連した潜在リスクについて懸念があることが明らかになりました。しかしながら、現実的な代替通貨を見つけることは困難であることが証明され、共通のBRICS通貨を創設する見通しは懐疑的な目で見られています。
こうしたなか、さまざまなリスクに対するヘッジと準備金の分散化を試みる中央銀行にとって、金がより魅力的な選択肢になっています。この貴金属の安定的で、信頼性が高く、政治と無関係な資産としての地位は、不確実な世界において特に魅力を持ちます。
一方、新興国市場、特にアジアへの関心の高まりは、さらなる分散化に向けた広範なトレンドとより高いリターンの追求を反映します。これらの市場への投資には特有のリスクと問題が付随しますが、全体的な軌道は明瞭であり、中央銀行は変わりゆく世界情勢に対処するため、伝統的な準備通貨以外のものに目を向けるようになっています。
第12回目となるインベスコ グローバル・ソブリン・アセット・マネジメント・スタディによると、地政学的緊張がインフレを上回るソブリン投資家の主な懸念事項となり、新興国市場に関する投資への関心が高まっていることが分かりました。
予測不能なマクロ環境下にあって、ソブリン・ウェルス・ファンドはポートフォリオの再調整を行い、株式やプライベート・クレジット、ヘッジファンドに軸を移しています。
新興国市場が勢いを増すなか、ファンドは選択的なアプローチを取り、インドを選好しています。
ソブリン・ウェルス・ファンドにとってプライベート・クレジットの魅力が増しており、多くがファンドおよび直接取引を通じて投資を行っています。ソブリン・ウェルス・ファンドは先進国市場を選好しますが、新興国市場の開拓も行っており、ディフェンシブ戦略とオポチュニスティック戦略のバランスを取って競争の激しい環境を乗り切ろうとしています。
ソブリン投資家は投資プロセスへのAI導入を進めており、必要不可欠なツールになるAIのポテンシャルを認識しています。課題は存在しますが、ファンドは障壁を乗り越えるためにトレーニングとパートナーシップへの投資を行っています。
中央銀行の間ではESGの導入が進んでいますが、ソブリン・ウェルス・ファンドは市場が成熟するなかで自らのアプローチを精緻化しています。
気候リスクは重大な要素として認識されており、投資家はポートフォリオを世界的な気候目標に整合させようとしています。
エネルギー転換を促す方策として、エンゲージメントと再生可能エネルギーへの配分は、完全なダイベストメントよりも好まれています。
世界的に先行き不透明感が広がるなか、中央銀行は準備金の積み増しと分散化を行っています。準備金の武器化と米国債務水準の上昇に関する懸念のために、金の魅力は高まっています。中央銀行がリターン強化とリスク削減を試みるなか、新興国市場への配分が増えています。
当資料は、一般もしくは個人投資家向けに作成されたものではありません。当資料は、情報提供を目的として、インベスコ・グループの海外拠点において作成され、英文でリリースされた「Invesco Global Sovereign Asset Management Study 2024」をインベスコ・アセット・マネジメント株式会社(以下、「弊社」)が入手してご提供するものであり、法令 に基づく開示書類でも金融商品取引契約の締結の勧誘資料でもありません。当資料は信頼できる情報に基づいて作成されたものですが、その情報の確実性あるいは完結性を表明するものではありません。また過去の運用実績は、将来の運用成果を保証するものではありません。当資料に記載された一般的な経済、市場に関する情報およびそれらの見解や予測は、いかなる金融商品への投資の助言や推奨の提供を意図するものでもなく、また将来の動向を保証あるいは示唆するものではありません。また、当資料に示す見解は、インベスコの他の運用チームの見解と異なる場合があります。本文で詳述した当資料の分析は、一定の仮定に基づくものであり、その結果の確実性を表明するものではありません。分析の際の仮定は変更されることもあり、それに伴い当初の分析の結果と重要な差異が生じる可能性もあります。当資料について事前の許可なく複製、引用、転載、転送を行うことを禁じます。
3890795 -JP