グローバル・ビュー

「ウォーレン大統領」の可能性

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要旨

ウォーレン候補への注目度が高まる

2020年11月3日に実施される予定の米国大統領選挙に向けた候補者争いが徐々に本格化してきました。現在の情勢をみると、ウォーレン氏が指名争いでトップに躍り出る可能性は決して低くありません。サンダース氏が脱落する場合には、考え方が近いウォーレン氏に票が流れる公算が大きいためです。

ウォーレン氏の選挙公約

ウォーレン氏の選挙公約には、①従来の左派系候補の主張から一歩踏み込んだ主張をしている、➁詳細を明らかにすることで、左派的政策に対する懸念の払しょくを図っている、➂草の根での支持につながりやすい、といった特徴があります。今後、広範な議論につながる可能性に注目したいと思います。

短期的にはブルームバーグ氏の動向にも注目

大きな資金力を有するとみられるブルームバーグ氏は、「トランプ氏に本選挙で勝てる候補」として民主党の指名争いで支持を伸ばす可能性があり、出馬についての決断が、政策の中身とともに注目されます。

(図表1)民主党大統領候補の支持率比較(10月27日~11月5日)
ウォーレン候補への注目度が高まる

 2020年11月3日に実施される予定の米国大統領選挙に向けた候補者争いが徐々に本格化してきました。共和党では現職のトランプ氏が圧倒的に有利であり、現在米下院で調査が進められている大統領弾劾のための調査が実際の弾劾につながらない限り、トランプ氏が党の大統領候補に指名される可能性が高いとみられます。その一方、今回の選挙でより注目されるのは民主党の候補者争いであり、過去数カ月においてエリザベス・ウォーレン上院議員に対する注目度が上昇してきました。候補者争いが本格化して以降、民主党陣営では中道派と考えられるジョー・バイデン前副大統領が各種世論調査で継続的にリードを保ってきました。2番手グループがウォーレン氏とバーニー・サンダース上院議員という、左派系の2人です。2人への支持率は今年7月以降、9月半ばまではほぼ拮抗していましたが、9月後半以降はウォーレン氏の支持率がサンダース氏のそれを上回るようになりました。足元での世論調査での支持率は、バイデン氏の28.3%に対して、ウォーレン氏が20.6%、サンダース氏が17.6%でした(図表1)。

 一方、トランプ氏と民主党のこれら3候補それぞれを比較した世論調査では、いずれも民主党候補がトランプ氏を上回っています(図表2)。このことから、今後、民主党が2020年の大統領選挙を制する可能性が徐々に金融市場で意識されることになりそうです。当レポート先週号(「FRBが2020年に利下するリスク」2019年11月6日号)で触れた通り、民主党の大統領候補指名選における代議員の獲得競争は2月3日のアイオワ州での党員集会に始まり、3月3日のスーパー・チューズデーを経て、3月末までに全体の69.1%の代議員が選ばれる状況となります。仮に、バイデン氏のような中道系候補でなく、ウォーレン氏あるいはサンダース氏のような左派系候補が指名争いでの当選確率を高めることになれば、株価調整や長期債券利回り低下を促す要因になりかねないため、注意が必要です

 ウォーレン氏が指名選でのトップに躍り出る可能性は決して低くありません。民主党候補者選は州などの地域ごとに行われる長丁場であることから、支持が十分に集まらない候補者は途中で脱落することが多いですが、仮にサンダース氏が脱落する場合にはその票が考え方が近いウォーレン氏に流れる公算が大きいためです。現時点でのウォーレン氏への支持率にサンダース氏への支持率を合わせると、バイデン氏への支持率を10ポイント程度上回ります。①現時点でウォーレン氏への支持率がサンダース氏への支持率を上回っていること、➁サンダース氏は10月上旬に心臓発作で入院しており、健康問題を抱えているとの見方が強いこと、➂サンダース氏が自身を民主社会主義者としていること―などを踏まえると、指名争いではサンダース氏がウォーレン氏よりも先に脱落する可能性が高いとみられます。

(図表2)民主党大統領候補別にみた大統領選挙での支持率
ウォーレン氏の選挙公約

ウォーレン氏はどのような政策を主張しているのでしょうか。ウォーレン氏の政策は自身の選挙用ウェブサイトで明らかにされている通りです(図表3にポイントをまとめています)が、私は3つの特徴があると感じました。第1は、従来の左派系候補の主張から一歩踏み込んだ主張をしている点です。経済面での公約の柱は、公的な健康保険のカバレッジ拡大や学費ローンの一部返済免除、住宅価格安定のための住宅投資の拡大、といった低中所得者層向けにアピールする政策を主張する一方で、そのコストを、5000万ドル以上の純資産を保有する富裕層からの資産課税や大企業向けの法人税引き上げによってファイナンスするというものです。これらの左派的な政策は、これまでの経済政策の考え方に大きな変更を迫るものと言えますが、その一方で、貧富の格差が近年大きく拡大したアメリカ社会において低中所得者層に訴える内容であると思われます。また、金融業界や巨大テック企業への規制強化についても大きな議論を呼びそうですが、プライバシー保護や公正な競争の推進などの観点から大手テック企業への規制を強化する必要があるとの考え方は世界的に力を増しており、その流れに乗ったものと言えます。  

 第2は、政策の詳細を明らかにすることで、左派的政策に対する懸念の払しょくを図っている点です。従来、民主党左派系候補の公約というと、財政支出の拡大をうたう一方、そのファイナンスは財政赤字の拡大に頼るという、マクロ的政策として健全でない面がありましたが、ウォーレン氏の政策はファイナンス方法をかなり詳しく明らかにしており、財政赤字を増やさずに政策を実行する方向性が打ち出されています。私は1992年にワシントンにおいて大統領選挙の分析を始めて以降、多くの候補者の掲げる政策提案を分析してきましたが、ウォーレン氏が公約に掲げる政策は包括性と詳細さという意味で群を抜いていると思います。詳細な政策にまで踏み込んでいるという点では、大統領候補者の討論会で説得力を持った議論を展開することができる反面、揚げ足をとられかねない面もあります。今後ウォーレン氏の政策に対しては、規制強化に直面する産業が擁するロビイストが反論を展開し、他の候補者がそれを材料としてウォーレン氏に議論を挑む局面が予想されます。ウォーレン氏がそうした反論に対してどのように切り返していくかが注目されます。

(図表3)エリザベス・ウォーレン上院議員の大統領選挙公約①
(図表3)エリザベス・ウォーレン上院議員の大統領選挙公約②
短期的にはブルームバーグ氏の動向にも注目

 第3は、草の根での支持につながりやすい政策である点です。2016年の大統領選挙では、トランプ候補が右派の立場から草の根レベルでの低中所得者層へのアピールに成功し、これまで投票したことがない有権者の票を多く獲得できたと判断できます。ウォーレン氏の政策は左派の立場から低中所得者層にターゲットを絞った政策であると言えます。このため、今後の選挙活動方針にもよりますが、ウォーレン氏の政策が草の根レベルでの広い支持を得られる可能性があります。2016年選挙においてトランプ大統領の得票率が各種世論調査での支持率を上回ったのは、草の根レベルでのトランプ支持者が多くいたことが影響しているとみられます。仮に2020年選挙がトランプ氏とウォーレン氏の一騎打ちになるとすれば、投票率が従来よりも高めで、世論調査の結果だけでは結果が予想しにくい選挙になるかもしれません。

 以上で述べた民主党候補者争いの図式を変えてしまいかねないのが、最近一部メディアでその可能性が報道されている、マイケル・ブルームバーグ氏による民主党候補者指名選への出馬です。仮にブルームバーグ氏が出馬するとなれば、バイデン氏と同様に経済面では中道派的な政策を掲げる公算が大きいと思われます。大きな資金力を有するとみられるブルームバーグ氏は、「トランプ氏に本選挙で勝てる候補」として民主党の指名争いで支持を伸ばす可能性があり、出馬についての決断が、政策の中身とともに注目されます

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MC2019-130