グローバル・ビュー

2022年のグローバル経済

Invesco Global View
要旨
欧米がグローバル景気をけん引する構図が22年前半まで続く

今年夏場以降のデルタ株による感染拡大は、多くの国々に予想しなかった打撃をもたらしました。しかし、経済再開の見通しが後ろ倒しになったことで、先進国の多くでは、2022年前半まで比較的強い景気モメンタムが維持され、その後の2022年後半に景気が潜在成長率程度の拡大ペースに落ち着いていくと見込まれます(図表1をご参照ください)。

インフレは2022年半ばにはグローバルに低下基調に転じる公算

経済回復の中で懸念を呼んでいるインフレの上振れは、財需要の世界的拡大に伴う需要面のインフレ圧力と、半導体などの供給不足問題や米国などでの労働力供給の回復の遅れという供給面のインフレ圧力の両方によって生じています。当面はインフレがさらに上振れする可能性が残りますが、2022年半ば以降には需要・供給の両面においてインフレ圧力が和らいでいくと見込まれます。

(図表1)主要地域の景気モメンタムについての見通し

 本稿では、2022年におけるグローバル景気の見通しを主要地域について考察するとともに、金融市場の焦点として直近で重要度を増しているインフレの行方について考えたいと思います。

欧米がグローバル景気をけん引する構図が22年前半まで続く

 グローバル経済が過去数カ月間において直面した課題のうち、デルタ型変異株のまん延ほど大きな悪影響をもたらした問題はなかったと思われます。私は今年前半の時点では、先進国の多くでワクチン接種が普及することで多くの国々では今年後半中に経済再開に伴う景気のピークが訪れ、2022年は景気の減速感が強まるとの見方をしていました。しかし、夏場に入るとデルタ株による感染が全世界で拡大し、多くの国・地域で7-9月期の景気モメンタムが潜在成長率を下回る事態となりました。もっとも、欧米諸国の多くはその例外であり、感染者数は大きく増加したものの、人口のかなりの割合にワクチン接種が普及していたこともあり、重症のコロナ患者が入院できない(いわゆる「医療崩壊」の)状況を回避することに成功しました。特に、ユーロ圏では、景気の強さが維持され、実質GDP成長率が4-6月期の8.7%(前期比年率ベース、以下同様)に続いて7-9月期も9.1%という高水準を記録しました。米国では、ワクチン接種の普及が相対的に遅れた地域が足を引っ張る形で7-9月期の実質GDP成長率が比較的大きく減速しましたが、それでも2.0%という、潜在成長率程度の成長を確保することができました(図表1をご参照ください)。 

 今後についてグローバルにみると、デルタ株のまん延によって2021年後半の経済再開ペースが減速したことが、2022年の景気を押し上げる効果をもたらすと見込まれます。これは、経済再開の動きが後ずれする結果、グローバル経済が潜在成長率を上回る経済成長を達成する時期が2022年前半まで延びるとみられるためです。新たな変異株がまん延して景気に下押し圧力がもたらされるリスクは依然として存在するものの、そのリスクが回避されるのであれば、グローバル経済は徐々に明るさを増すと考えられます。

<米国>

 米国経済については、夏場の減速局面の後、10月以降に景気が再加速している模様です。9月までは、デルタ株のまん延に伴う不透明感が強かったことで、雇用の増加ペースが抑制されていましたが、失業保険からの追加給付措置の終了や企業が就業員に対してオフィスに出勤させる姿勢を強めたことを受けて、10月から就業者の増加ペースが上向いてきました。コロナ感染の状況が現状よりも悪化しない限り、人手不足に直面する企業による労働力需要の強さにけん引される形で、比較的高いペースでの就業者の増加が2022年半ばまで続くとみられます。直近で承認されたコロナ治療薬の普及もこの流れを強めると見込まれます。財政面での景気へのサポート力は今後さらに低下するとみられるものの、2022年前半までの米国経済は就業者の増加に伴う総需要拡大の恩恵を受けて高めの成長を維持する公算が大きいと考えられます。こうして経済再開に伴う労働力不足の問題が2022年半ばまでに和らいだ後は、就業者の増加ペースは再び低下し、2022年後半には経済成長率がより緩やかな、潜在成長率程度の水準に落ち着いていくとみられます

<欧州>

 欧州経済は7-9月期までは高速成長を達成したことから10-12月期以降の減速は避けられません。しかし、今後コロナ治療薬の普及とともに、経済活動がサービス分野を中心にもう一段活発化するとみられることから、2022年前半までは比較的強い景気モメンタムを維持するとみられます。2022年半ば以降はこの一時的な景気サポート要因が剥落し、経済成長率は潜在成長率に近い水準に低下すると予想されます。

<日本>

 当レポート先週号「日本株はキャッチアップ局面へ」で触れた通り、9月末の緊急事態宣言終了以降の日本では、サービス分野を軸とした経済活動が徐々に活発化しつつあると考えられます。岸田政権による大規模な経済対策や大規模イベントに関する規制緩和措置の実施などにより、景気モメンタムは今年10-12月期から2022年前半にかけてかなり強まるとみられます。この間には、コロナ治療薬の普及やアジアにおけるサプライチェーンの正常化、半導体不足問題の緩和等も景気をサポートする役割を果たすでしょう。2022年後半には、日本経済の成長率は他の先進国と同様に潜在成長率程度まで低下すると見込まれます。

<中国>

 世界で最も早くコロナ禍から回復した中国経済の景気モメンタムは4-6月期から7-9月期にかけて大きく弱まり、世界経済のけん引役としての座は欧米に移ることになりました。中国政府は2008年のグローバル金融危機以降、積極的な財政政策に依存した経済運営を続けてきましたが、コロナ禍にあって2020年にかなり無理をした積極財政策を採用したことから、2021年には成長率にネットでプラス効果をもたらすような財政政策を採用する余裕がありませんでした。これに加えて、2021年は不動産市場の引き締め政策が本格的に効力を発揮したことで、政策面からの景気への下押し圧力が強まりました。現在の中国景気は、力強い輸出と回復感を強める民間消費がサポートする一方、財政や不動産政策に起因する下押し圧力が強いことから、全体として緩やかに減速しています。今後については、不動産投資の減速による経済への下押し圧力は2022年末まで続く可能性が高く、特に10-12月期と2022年1-3月期には成長率の下振れリスクが強まるとみられます

 しかし、①コロナ問題の改善による民間消費の回復、➁先進国の巣ごもり需要の強さがデルタ株のまん延の影響から2022年前半まで継続することで中国からの輸出の堅調に結びつくこと、➂当局が金融・財政両面である程度の景気対策を講じること―が景気を支えると予想されます(当レポートの10月21日号、「中国:成長鈍化を受け入れる時」もご参照ください)。これらを背景として、2022年の中国経済は5%前後の成長を達成すると見込まれます。

<中国以外の新興国>

 中国以外の新興国については、アジア地域とアジア地域以外の主要新興国で景気パターンが分かれると予想されます(当レポート10月14日号、「二極化しつつある新興国経済」をご参照ください)。アジア地域の主要新興国・地域では、比較的強めの行動制限措置が採用される中、ワクチン接種の普及ペースが遅かった国が多かったことから、2021年前半の段階ではコロナ禍が経済活動を大きく制約する状況となりました。7-9月期に入ると状況はさらに悪化し、デルタ株のまん延による景気へのダメージが拡大しました。もっとも、直近数週間においては多くの地域でデルタ株の感染状況が改善し始めており、足元では緩やかな経済再開軌道をたどり始めています。2022年前半には、これまでワクチン接種が遅れていた地域でも接種率が比較的高水準に達するとみられることから、アジア地域の新興国・地域は経済再開に伴う経済成長の加速を享受すると見込まれます。また、欧米における巣ごもり需要が比較的強いまま継続するとみられることも、アジア地域からの輸出にプラスの効果を及ぼすとみられます。

 これに対して、ブラジル、メキシコ、ロシア、トルコなどアジア域外の主要新興国では、政府がコロナ対策のために採用したロックダウン措置が比較的緩かったことから、2021年前半の段階で景気が加速する局面が訪れました。しかし、景気の回復に商品市況の上昇が重なり、中央銀行の設定する目標を超えてインフレが上振れたことから、中央銀行は積極的な利上げ姿勢に転じました。2022年前半にかけて、これらの国々でもコロナ感染の落ち着きによる効果が見込めるものの、金融政策当局の引き締めによる景気への悪影響が一定のラグをおいて顕在化すると見込まれることから、世界の他地域と比べると景気が弱めに推移すると予想されます。一方で、2022年前半まで資源価格が高水準で推移するとみられる点は、資源輸出が多い国の景気には追い風になると見込まれます。

インフレは2022年半ばにはグローバルに低下基調に転じる公算

 欧米や新興国の多くでは、過去数カ月間にインフレの上振れが目立ってきており、グローバル金融市場では、金融政策当局による早期の引き締めや企業業績への悪影響に対する懸念が強まっています。インフレ率が上振れているのは、供給サイドと需要サイドの両面からインフレ圧力が強まってきたためです。

 7-9月期においてグローバル経済の実質GDP規模は、コロナ前の水準を既に2.5%程度上回っていると考えられます。コロナ禍でサービス分野の需要が未だに十分に回復していない中、総需要の増加は巣ごもり需要を含む財分野の需要がけん引してきたとみられます。財分野において需要超過による価格上昇圧力が生じたことが、この分野でのグローバルなインフレ圧力をもたらしました。半導体の不足は、巣ごもり需要の高まりに伴って供給能力を超える大きな需要が生み出されたことがそもそもの背景にありました。商品市況が多くの分野で大きく上昇してきたのも、財に対する需要が伸びたことが大きかったと考えられます。また、コロナ禍特有の需要が増加したことも、特定分野での一時的なインフレ圧力をもたらしています。コロナ禍の初期においては、マスクや消毒液はもちろんのこと、在宅勤務の増加に伴うPCや各種通信関連機器などへの需要が増えましたが、経済再開時に出勤のための衣料品や通勤で使う自動車への需要も増加し、それらの分野でのインフレ圧力をもたらしました。

 一方、供給サイドでは、米国における労働力不足がより深刻な問題となりました。コロナ禍で多くの雇用者が解雇された米国では、経済再開のタイミングを迎えても、解雇された人々や失職後に求職活動をあきらめた人々がすぐには職に戻ってこないという問題が生じ、労働市場のタイト化による賃金上昇圧力が強まりました。その背景としては、コロナ感染への不安や緊急経済対策で失業手当が大幅に増額された点が広く指摘されています。

 また、東南アジアにおけるコロナ感染の拡大で半導体工場の稼働率が低下し、半導体不足問題がさらに深刻化したことも供給サイドの問題と言えます。半導体不足は自動車の減産や一部エレクトロニクス製品の供給の制約をもたらし、新車や中古車、一部エレクトロニクス製品の価格上昇につながりました。さらに、原油や天然ガスなどエネルギー分野では、将来的な温暖化ガス排出削減の動きが強まる中、生産業者が設備投資に慎重となり、その結果として需要の拡大に合わせた増産が困難となるケースが増えました。これら多くの出来事が、供給サイドからのインフレ圧力の高まりをもたらしています。

 それでは、グローバルにみた今後のインフレはどうなっていくのでしょうか。短期的には需要サイドからのインフレ圧力が強まる公算が大きいと言わざるを得ません。上述したように、2022年前半まではグローバル経済の成長率が潜在成長率を上回る水準で推移する可能性が高いことから、その面からのインフレ圧力は強い状態が続くとみられます。エネルギーについても、産油国が供給を抑制する中、需要の増加が価格の上振れをもたらす可能性があります。しかし、2022年半ば以降には、グローバル経済の成長が潜在成長並みに落ち着くことで、インフレ圧力が和らいでいくと見込まれます。供給サイドでの様々な問題が、徐々に解決に向かうとみられることも、インフレ圧力の低下をもたらすでしょう。先に触れたように、米国の労働力供給は今後増加に向かうとみられ、それに伴って賃金上昇圧力は軽減されると見込まれます。半導体の一部分野では供給制約問題が中期的に重石になるとみられますが、それ以外の多くの分野では企業が供給制約を和らげるために設備投資努力を強めることで、徐々に供給能力が向上していくと考えられます。商品市況についても、供給の増加がいったん視野に入れば、市況の上昇を見込んでいた投機的な資金が流出し、2022年後半には商品市況が全体として下落に転じると予想されます。このように高インフレには今後転機が訪れるとみられますが、グローバル経済を見通す上では、短期的にインフレが上振れるリスクがある点には引き続き注意が必要です。本レポート来週号では、今週号で議論した景気やインフレについての見通しを踏まえ、2022年のグローバル金融市場の行方やリスクについて検討したいと思います。

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MC2021-194