インベスコの視点

戦術的資産配分:2023年9月号

Tactical Asset Allocation September 2023
労働市場が短期的に「ゴルディロックス」シナリオの可能性を裏付けており、ベンチマーク対比でリスクをオーバーウェイト。
新興国株式、バリュー株、中小型株、クレジットを選好。

 

要約
  • 経済データ、市場センチメント、中央銀行によるコミュニケーションは、2023年後半は「ゴルディロックス(適温)」シナリオが優勢になるとの最近の見方を裏付けています。ソリューションの世界経済のマクロレジーム(市場局面)のフレームワークフは回復期を維持し、米国は拡大期に移行すると示唆しています。
  • グローバル戦術的配分モデル1 において、ポートフォリオのリスクをオーバーウェイトし、債券、新興国市場、バリュー株、中小型株、シクリカル・セクターに対して株式を選好します。低格付けクレジットをオーバーウェイト、デュレーションを中立、米ドルをアンダーウェイトとします。

 

マクロ・アップデート

世界経済は、先月号でご説明したゴルディロックス・シナリオに沿った安定した推移を続けています。金融市場と世界の中央銀行は、良好な資産リターンと最近の経済見通しの上方修正に反映されるように、短期的な景気後退の可能性に関するそれぞれの見方を修正しました。2023年8月の米雇用統計は、労働参加率の着実な上昇と、緩やかではあるものの依然として健全な雇用の伸びを背景に、賃金の伸びが緩やかに低下している状況を表しています。平均時給は前年同期比4.3%増と、ピークだった2022年第1四半期の6%増から低下し、労働参加率は62.8%まで着実に上昇しています。その結果、失業率は3.4%の低水準から3.8%へと徐々に上昇し、賃金圧力を低下させるのに十分である一方、需要に大きなショックを与える懸念は高まっていません。この労働市場のリバランスは今後数四半期において続く可能性があります。

パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は先日のジャクソンホール・シンポジウムでの講演で、現在の成長率対インフレ率のバランスにおいてこのような動きを確認し、歓迎する一方、今後の不確実性と金融政策が必要に応じて軌道修正する必要性を強調しました。特に次のように述べています、「・・・我々は、経済が予想通りに冷え込んでいない可能性の兆候に注意を払っている。今年に入ってGDP(国内総生産)の伸びは予想を上回っており、最近の個人消費は特に好調である。さらに、過去1年半の間に急減速した住宅セクターは、回復の兆しを見せている。トレンド以上の成長が持続するという新たな証拠があれば、インフレのさらなる進展がリスクにさらされ、金融政策のさらなる引き締めが正当化される可能性がある。」

ソリューションのマクロ指標は、世界経済の先行指標が長期トレンドを下回るものの、概ね安定しており、通年では横ばいであることから、総体的な成長サイクルの安定を裏付けています。世界的なリスク選好のバロメーターに組み込まれている成長期待は引き続き改善傾向にあり、世界的な業績予想の修正、ひいてはシクリカル資産の上振れリスクを示唆しています。ソリューションの世界経済のマクロレジーム(市場局面)のフレームワークでは、引き続き回復期を示している一方、米国は製造業受注、住宅指標、消費者マインド調査の改善に牽引され、トレンドを上回る拡大期に移行しています。(図表1a、1b、図表2、図表3をご参照)。

ソリューションの世界経済のマクロレジーム(市場局面)のフレームワークでは、引き続き回復期を示している一方、米国は製造業受注、住宅指標、消費者マインド調査の改善に牽引され、トレンドを上回る拡大期に移行しています。
図表1a:マクロ・レジーム認識は引き続き回復期を示す

出所:ブルームバーグ、マクロボンド、Invesco Solutions調査・試算。Invesco Solutionsの独自先行経済指標。マクロ局面のデータは2023年8月31日現在。景気先行指数(LEI)は、経済成長の水準を示す独自の先行指標。グローバル・リスク選好度サイクル指数(GRACI)は、市場のリスクセンチメントを示す独自の指標。先進国(除く米国)には、ユーロ圏、英国、日本、スイス、カナダ、スウェーデン、オーストラリアが含まれる。新興国市場には、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、台湾、中国、韓国、インドが含まれる。

ソリューションのマクロ指標は、世界経済の先行指標が長期トレンドを下回るものの、概ね安定しており、通年では横ばいであることから、全体的な成長サイクルの安定を裏付けています。
図表1b:米国の成長率はトレンドを上回るが、欧州と中国の成長は減速を続ける

出所:ブルームバーグ、マクロボンド、Invesco Solutions調査・試算。Invesco Solutionsの独自先行経済指標。マクロ局面のデータは2023年8月31日現在。景気先行指数(LEI)は、経済成長の水準を示す独自の先行指標。グローバル・リスク選好度サイクル指数(GRACI)は、市場のリスクセンチメントを示す独自の指標。過去のパフォーマンスは、将来の運用成果を保証するものではありません。

世界的なリスク選好のバロメーターに組み込まれている成長期待は引き続き改善傾向にあり、世界的な業績修正、ひいては景気循環資産の上振れリスクを示唆している。
図表2:過去1カ月の市場センチメントは安定、依然として成長率の上方修正を示唆

出所:ブルームバーグ、MSCI、FTSE、Barclays、JPMorgan、Invesco Solutions調査・試算。1992年1月1日から2023年8月31日までのデータ。Invesco Investment Solutionsの独自先行経済指標。景気先行指数(LEI)は、経済成長の水準を示す独自の先行指標。グローバル・リスク選好度サイクル指数(GRACI)は、市場のリスクセンチメントを示す独自の指標。過去のパフォーマンスは、将来の運用成果を保証するものではありません。

図表3:先行きの業績予想は底を打ち、世界のリスク選好度はさらなる上方修正の可能性を示唆

出所:ブルームバーグ、MSCI、FTSE、Barclays、JPMorgan、Invesco Solutions調査・試算。出所:ブルームバーグ、MSCI、FTSE、Barclays, JPMorgan, Invesco Solutions、調査・試算、1992年1月~2023年8月31日のデータ。グローバル・アーニング・リビジョン(業績予想の修正)は、12カ月先業績予想の上方修正/下方修正の正味割合を測定。グローバル・リスク選好度サイクル指数(GRACI)は、市場のリスクセンチメントを示す独自の指標。過去のパフォーマンスは、将来の運用成果を保証するものではありません。

米国、ユーロ圏、英国のインフレ・モメンタム・インディケーターで明らかなように、インフレ率は緩やかなペースで鈍化すると予想します。
図表4:全地域でインフレの勢いはごくわずかか低下傾向

出所:ブルームバーグ、2023年8月31日現在のデータ、Invesco Solutions調査・試算。米国のインフレ・モメンタム・インディケーター(IMI)は、消費者物価や生産者物価、インフレ期待調査、輸入物価、賃金、エネルギー価格などの指標を対象に、過去3カ月間のインフレ統計の変化を測定します。プラス(マイナス)は、過去3カ月の平均でインフレ率が上昇(低下)していることを示します。

米国、ユーロ圏、英国のインフレ率モメンタム指標からも明らかなように、インフレ率は緩やかなペースで鈍化すると予想します(図表4をご参照)。全体として、2023年末までの期間は安定した経済環境が続くと予想され、低成長ながら改善傾向にあり、インフレ率は徐々に低下し、金融政策は据え置かれているため、戦術的資産配分の観点からシクリカル資産にとって有利な状況となっています。

 

投資ポジショニング
今月はポートフォリオのポジショニングを最小限に変更しました。グローバル戦術的配分モデルもベンチマーク対比でリスクをオーバーウェイトするスタンスを維持します。新興国市場、シクリカル・セクター、バリュー株、中小型株を選好し、債券に対して株式をオーバーウェイトしています。米国株にはモメンタムを追加します。低格付けセクターを通じたクレジット・リスクを高め、デュレーションは中立を維持する一方、米国のインフレ・モメンタムが再び低下したことを受け、先月導入したインフレ連動債へのエクスポージャーを解消しました。米ドルのアンダーウエイト・エクスポージャーを維持します(図表5~8をご参照)。
米国経済が回復期から拡大期に移行する中、米国株式のモメンタムへのエクスポージャーを高めます。このような移行期には、歴史的にモメンタム・ファクターがよりシクリカルな特性を持ち、バリューやスモールサイズの特性との良好な相互作用効果をもたらします。
インフレ・モメンタム・インディケーターが再び低下したことを受け、先月導入したTIPSのオーバーウェイト・エクスポージャーを解消し、再び先進国全体の一般債へのエクスポージャーを選好しました。

詳細:

  • 株式では、バリュー株や中小型株など、営業レバレッジが高く、成長期待の反発に対する感応度が高いシクリカル・ファクターをオーバーウェイトする一方、低ボラティリティ、クオリティ、大型株などのディフェンシブ・ファクターをアンダーウェイトします。米国経済が回復期から拡大期に移行する中、米国株式のモメンタムへのエクスポージャーを高めます。このような移行期には、歴史的にモメンタム・ファクターがよりシクリカルな特性を持ち、バリューやスモールサイズの特性との良好な相互作用効果をもたらします。同様に、ヘルスケア、生活必需品、公益事業、テクノロジーよりも、金融、資本財・サービス、素材、エネルギーなどのシクリカル・セクターへのエクスポージャーを選好します。地域的には、リスク選好度の改善と米ドル安期待に支えられ、引き続き新興国市場をオーバーウェイトします。欧州の成長モメンタムが依然として弱まっているため、米国株と先進国株(除く米国)の中立スタンスを維持します。
  • 債券では、信用スプレッドの縮小とボラティリティの低下が続いています。ハイ・イールド債、バンクローン、新興国ハード・カレンシー債を通じ、クレジット・リスク2のオーバーウェイトを維持しています。スプレッドは現在、過去の長期平均を大きく下回っていますが、ボラティリティは引き続き抑制され、クレジット市場は良好なマクロ環境を背景に安定した利回りを提供すると予想されます。現在では、クレジット資産のケースはキャピタルゲインよりもむしろ、国債に対するインカムの優位性に限定されています。インフレ・モメンタム・インディケーターが再び低下したことを受け、先月導入したTIPSのオーバーウェイト・エクスポージャーを解消し、再び先進国全体の一般債へのエクスポージャーを選好しました(図表4をご参照)。
  • 為替では、景気回復局面では通常、リフレーションによる米国以外の資産への力強い資金フローを伴うため、米ドルをアンダーウェイトとします。利回り格差は依然として外国通貨に対する米ドルを支えていますが、安全資産への資金流入が弱まる局面では、割高なバリュエーションが逆風となります。先進国では、ユーロ、英ポンド、ノルウェークローネ、スウェーデンクローナ、シンガポールドルを、スイスフラン、日本円、豪ドル、カナダドルに対して選好します。新興国市場では、韓国ウォン、メキシコペソ、タイバーツ、中国人民元のような低利回りで割高な通貨に対し、コロンビアペソ、ポーランドズロチ、南アフリカランドのような魅力的なバリュエーションを持つ高利回りの通貨を選好しますが、米ドル安シナリオではこれらの通貨が良好に推移すると予想されます。
米国株式にモメンタムを追加しました。低格付けセクターを通じたクレジット・リスクを高め、デュレーションは中立を維持する一方、米国のインフレ・モメンタムが再び低下したことを受け、先月導入したインフレ連動債へのエクスポージャーを解消しました。
図表5:戦術的資産配分のポジショニング(相対比較)

出所:Invesco Solutions、2023年9月1日。米ドル以外の通貨は、MSCI ACWIインデックスの通貨構成に代表される外国為替エクスポージャーで示されています。例示的目的のみ。

図表6:戦術的資産配分のポジショニング(ファクター)

出所:Invesco Solutions、2023年9月1日。例示的目的のみ。ニュートラルとは、均等に加重されたファクター・ポートフォリオを指します。

図表7:戦術的資産配分のポジショニング(セクター)

出所:Invesco Solutions、2023年9月1日。例示的目的のみ。独自のセクター分類手法に基づくファクターおよびスタイル配分から導き出されたセクター配分です。2022年11月30日現在。シクリカル:エネルギー、金融、資本財・サービス、素材。ディフェンシブ:生活必需品、ヘルスケア、情報技術、不動産、公益事業。ニュートラル:一般消費財・サービス、コミュニケーション・サービス。

図表8:戦略的資産配分のポジショニング(通貨)

出所:Invesco Solutions、2023年9月1日。例示的目的のみ。通貨配分プロセスでは、外国為替市場における次の4つの要因を考慮します。1)世界の他の地域に対する米国の金融政策、2)コンセンサス予想に対する世界の成長率、3)通貨利回り(すなわちキャリー)、4)通貨の長期的なバリュエーション。

Footnotes

  • 1.

    ベンチマークはMSCI All Country World Index 60%とBloomberg Global Aggregate Index (Hedged) 40%で構成。

  • 2.

    クレジット・リスクは、DTS(デュレーション×スプレッド)で計測。

当資料ご利用上のご注意

当資料は情報提供を目的として、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社(以下、「当社」)のグループに属する運用プロフェッショナルが英文で作成したものであり、法令に基づく開示書類でも金融商品取引契約の締結の勧誘資料でもありません。内容には正確を期していますが、必ずしも完全性を当社が保証するものではありません。また、当資料は信頼できる情報に基づいて作成されたものですが、その情報の確実性あるいは完結性を表明するものではありません。当資料に記載されている内容は既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。当資料には将来の市場の見通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における作成者の見解であり、将来の動向や成果を保証するものではありません。また、当資料に示す見解は、インベスコの他の運用チームの見解と異なる場合があります。過去のパフォーマンスや動向は将来の収益や成果を保証するものではありません。当社の事前の承認なく、当資料の一部または全部を使用、複製、転用、配布等することを禁じます。

受託資産の運用に係るリスクについて

受託資産の運用にはリスクが伴い、場合によっては元本に損失が生じる可能性があります。各受託資産へご投資された場合、各受託資産は価格変動を伴う有価証券に投資するため、投資リスク(株価の変動リスク、株価指数先物の価格変動リスク、公社債にかかるリスク、債券先物の価格変動リスク、コモディティにかかるリスク、信用リスク、デフォルト・リスク、流動性リスク、カントリー・リスク、為替変動リスク、中小型株式への投資リスク、デリバティブ.金融派生商品.に関するリスク等)による損失が生じるおそれがあります。ご投資の際には、各受託資産の契約締結前書面、信託約款、商品説明書、目論見書等を必ずご確認下さい。

受託資産の運用に係る費用等について

投資一任契約に関しては、次の事項にご留意ください。【投資一任契約に係る報酬】直接投資の場合の投資一任契約に係る報酬は契約資産額に対して年率0.88%(税込)を上限とする料率を乗じた金額、投資先ファンドを組み入れる場合の投資一任契約に係る報酬は契約資産額に対して年率0.605%(税込)を上限とする料率を乗じた金額が契約期間に応じてそれぞれかかります。また、投資先外国籍ファンドの運用報酬については契約資産額に対して年率1.30%を上限とする料率を乗じた金額が契約期間に応じてかかります。一部の受託資産では投資一任契約に加えて成功報酬がかかる場合があります。成功報酬については、運用戦略および運用状況などによって変動するものであり、事前に料率、上限額などを表示することができません。【特定(金銭)信託の管理報酬】当該信託口座の受託銀行である信託銀行に管理報酬をお支払いいただく必要があります。具体的料率については信託銀行にご確認下さい。【組入有価証券の売買時に発生する売買委託手数料等】当該費用については、運用状況や取引量等により変動するものであり、事前に具体的な料率、金額、上限または計算方法等を示すことができません。【費用合計額】上記の費用の合計額については、運用状況などによって変動するものであり、事前に料率、上限額などを表示することができません。

20230913-3109096-JP

そのほかの投資関連情報はこちらをご覧ください。https://www.invesco.com/jp/ja/institutional/insights.html