インベスコの視点

資本市場の長期の前提(期待リターン、リスク) 2020年第2四半期アップデート

資本市場の長期の前提(期待リターン、リスク) 2020年第2四半期アップデート

はじめに

インベスコ・インベストメント・ソリューション(IIS)では、資本市場の長期の期待リスク/リターンの前提(Capital Market Assumptions, CMA)を世界の150以上の資産クラスを対象に開発し四半期ごとにアップデートを行っております。

今回のレポートでは、COVID-19のアウトブレイクの影響の大きさを勘案し、CMAのビルディングブロックに対して行った具体的な調整についてもご説明してます。 

11年かかりましたが、歴史上最も長く続いた強気相場は終焉を迎えました。数年後改めて振り返ってみると、COVID-19の世界的なアウトブレイクは、中国の国境を越えたらすぐに来るべきものと考えるべきだった、とわかるでしょう。武漢で起こった経済封鎖は、ウイルスが広がった先ではどこでも起こりうるもので、米国や欧州の経済閉鎖という、本レポートが前回リリースされたころには想像することすらできなかった概念も全く不可避のものであることを知るべきでした。しかし、後知恵が常に過去についてはるかに饒舌に語ることができるのは当然のことです。

実際には、アウトブレイクは金融市場に衝撃を与えました。過去に起こったパンデミックの事例は、これから何が起こるかについてほとんど参考になりませんでした。投資家がかつて経験したことのないイベントや対応策の効果の不確実性によって、金融市場に歴史上最も激しく、大幅な変動がもたらされました。実際、多くの人が私たちは初めて経験する世界的な景気後退に陥っている、あるいは危機に瀕していると主張するでしょう。その背景を踏まえ、インベスコ・インベストメント・ソリューション(IIS)ではリスクを強く意識したポートフォリオを開発を続けながら、今後数ヶ月から数年の間に期待される資産クラスのパフォーマンスについて結論を導いていきます。今回のアップデートでは、過去数ヶ月間の変化の大きさを勘案し、リターン予測の通常のシステマティックな手法にファンダメンタルズに基づく調整を組み込み、これにより現在の市場ダイナミクスをより正確に捉えられると弊社では考えています。具体的には、U字型の景気後退の期待をベースケースとして組み込んでいます。その見通しが資産クラスのリターンに与える影響、CMAのビルディングブロックに対して行った具体的な調整については、以下のページでご説明します。

COVID-19関連の医療の進歩について予測することは不可能ですが、IISではパンデミックの持続期間に関するシナリオや、経済データや成長期待への影響に注力しています。表1に、3 つのシナリオ(悲観、基本、楽観)の簡単な説明を示しました。我々の目的は、最も可能性の高いシナリオを特定し、今後12ヶ月間にそれに応じたポートフォリオの配分を行うことではありません。むしろ、市場の成果について最も可能性の高いレンジを示し、それに関連するリスク、投資への影響を評価することです。

表1: パンデミックの展開について仮定した3つのシナリオ

まずベースシナリオは、我々がすでに見てきたもの、すなわち伝統的な経済指標では捉えられないほど急激な経済活動の停止、そして年内の急速な回復が見られるまで極めて高いレベルの不確実性が続く、というところから始まります。これは伝統的な不況期の姿ではなく、医療の研究開発の進展による楽観シナリオへの移行するか、あるいは第二のアウトブレイクの波により悲観シナリオに移行するか、依然非常に不透明です。このため、我々の見通しが変わった場合、他のシナリオに沿った資本市場の期待リターン/リスクの前提(Capital Market Assumptions、CMA)を提供すべく準備をしています。

債券および株式の全般で、勝者と敗者の区別は、将来の需要の構成、政府と企業のバランスシートの強さ、経済成長の外需への依存度によって決まります。株式は今後数年間で実質利益成長率が低下する可能性が高く、各資産クラスのセクター構成に基づいて下方調整されています。過去の景気後退期の検証より、1年目の利益成長率がマイナス、2年目が横ばい、3年目に回復し、以降、5年目までに長期平均成長率へ向かって回帰していく姿を見込んでいます。これらの調整がなければ、ほとんどの株式の期待リターンは有意に上昇したものと考えられます。一方で総合利回り(配当利回り+自社株買い利回り)については、利益成長期待が下方修正されたことによって分子の配当および自社株買いが分母の株価の下落に見合って減少することを見込んでいるため、大きく変わっていません。債券での我々の期待の中には、デフォルト率が今後4年間は過去の平均を上回る可能性が高いという現実が反映されています。これらの調整はすべて弊社の見通しがベースケースから外れて上下にシフトした場合、さらに大きくなります。

株式の期待リターンが大幅調整にもかかわらず顕著に上方にシフトしなかったことは意外なことかもしれません。ドルベースの観点から見ると、米国は、米国以外の地域と比べて企業業績の回復力が強くなると見られることから、調整後においても前四半期と比べて予想リターンが上昇した数少ない国の1つです。特に米国の小型株は、極端なバリュエーションのディスカウントにより追加的な追い風を受けています。米国以外では、中国のような内需が大きい経済は、外需に大きく依存している先進国やその他の新興国と比べて、今後数年間で利益成長が強くなる可能性が高いと考えられます。ただし、内需の大きさ以上に、中国株式は他の新興国市場と比べてバリュエーションが過大評価されていることは期待リターンの引き下げ要因となっています。

債券の中で、クレジットの感応度が高い資産が最も興味深い投資機会を示しているのに対し、金利の感応度の高い資産は現在では投資の魅力が大きく低下しています。グローバルのハイイールド社債は、デフォルト率の調整を反映した上でも、イールドカーブのスティープ化とクレジットスプレッドの拡大によりの期待リターンが上昇しています。歴史的に低い金利のために国債の期待リターンは依然として低迷しています。

オルタナティブの中では、ヘッジファンドはリスク調整後ベースで魅力的であり、小型株やハイイールド社債などの資産へのエクスポージャーを反映して期待リターンが増加しています。ヘッジファンドが伝統的資産クラスへのエクスポージャーを超えてアルファを提供する可能性は、今日のように資産間、個別銘柄間のリターンの格差が大きい期間には高くなる傾向があります。

これまで述べてきたように、慎重な資産配分には規律が求められ、とりわけ市場が落ち着いて分散効果が当たり前に思えるときには特に注意が必要です。最近起こった出来事によって、以前から投資家を悩ませてきた高いバリュエーション、低い利回り、高い不確実性といった環境は変わるどころかより顕著となり、投資のかじ取りがさらに難しくなっています。今回の景気後退は過去とまったく同じようになる可能性は低く、次の10年のリターンはこれまでの10年のリターンと同じである可能性は低いと考えられます。当社の戦略的視点は、シナリオが急速に変化し、ボラティリティの上昇に直面する中で有効な分散投資に注力し、戦略的見通しに合わせて合理的なレベルのリスクを受け入れ、短期的な収益機会に備えてタクティカルに方向転換する備えを維持することです。

2020 Capital Market Assumptions – Q2 Update
Figure 6: 10-year asset class expectations (USD)
Figure 7: CMA difference: 5-year minus 10-year assumptions (USD)
Figure 8: Equity quarter-over-quarter  change (USD),Figure 9: Fixed income quarter-over-  quarter change (USD)
Figure 10: Equity quarter-over-quarter  change attribution (USD),Figure 11: Fixed income quarter-over-  quarter change attribution (USD)
Figure 12: 10-year asset class expected returns, risk, and return-to-risk (USD)
Figure 12: 10-year asset class expected returns, risk, and return-to-risk (USD)
Figure 13: 10-year correlations (USD)
Figure 13: 10-year correlations (USD)
Figure 13: 10-year correlations (USD)
推計手法の解説
弊社の資本市場の長期の前提(CMA)の推計手法について

弊社では、資産クラスの期待リターンを推計するために、ファンダメンタルズに基づく「ビルディングブロック」アプローチを採用しています。各資産クラスのインカムやキャピタルゲインなどのリターンの構成要素の推計は、ファンダメンタルズデータやヒストリカルデータに基づいています。そして各構成要素を組み合わせて推計リターンを構築します。ここでは、長期 (10年)の推計を行うために使用される手法の主要なポイントの概要を提供します。リクエストに応じて5年の期待リターンの推計もご利用できます。詳細は、Invesco の資本市場の長期の期待リターン/リスクの前提の手法に関するホワイトペーパーをご参照ください。 

債券の期待リターンは次の要素から構成されます:

・  平均利回り:債券の期首の利回りと期待利回りの平均

・ バリュエーション変化(イールドカーブ):米国債のイールドカーブの変化による推計されたバリュエーションの変化

・ ロールリターン:時間の経過による債券価格への影響を反映。右肩上がりのイールドカーブを前提とすると時間の経過とともに利払いは固定されているが満期までの期間が短くなることにより債券価格は上昇するインパクトを受ける

・ クレジット調整:格下げとデフォルトによるリターンへの潜在的なインパクトを推計

株式の期待リターンは次の要素から構成されます: 

・ 自社株買い利回り:企業による自社株買いや新株の発行による発行済み株数の変化率

・ バリュエーション変化:現在の株価収益率(P/E)から長期的な平均P/Eへ回帰するとの前提に基づいて期待される株価の変化

・ 長期利益成長率:一人当たり実質GDP成長率と期待インフレ率に基づいて推計される利益成長率

通貨調整は、金利とスポットおよびフォワードの為替レートとの間の強い関係を示唆する金利パリティ(IRP)の理論に基づいています。金利パリティ理論は、外国為替市場に裁定機会が存在しないものと仮定しています。これは長期的には預金から得られる超過リターンは通貨の相対的な価値の変化によって相殺されるため、投資家は異なる通貨の預金の異なる収益率に対して無差別であるという考えに基づいています。

異なる資産クラスのボラティリティの推計には、様々な市場のベンチマークの四半期ローリングリターンを使用しています。ベンチマークは資産クラス内および資産クラス間で期間が異なることから、期間の短いベンチマークのボラティリティの推計値を正規化し、すべてのシリーズが同様の期間にわたって測定されるように調整しています。

相関の推定値は、20年間の月次リターンを使用して計算されます。最近の資産クラスの相関が将来の観測に対してより有意義な影響を及ぼす可能性があることを考慮し、計算を行う際に時系列に半減期10年を適用することで、より最近の観測値に加重しています。

算術リターンvs幾何リターン。当社のビルディングブロック法では、幾何平均(複利)の資産クラスのリターンの推定値を生成します。ただし、標準的な平均分散法によるポートフォリオの最適化では、幾何リターンではなく、算術リターンが入力値として必要となります。これは、加重和の算術平均(例:ポートフォリオ)が算術平均の加重和(例:ポートフォリオの構成要素)であるためです。この関係は幾何リターンでは成立しません。したがって、弊社では幾何リターンを算術リターンに変換しています。算術リターンと幾何リターンの両方を提供することで、前者が最適化プロセスに有用な情報を提供し、後者は資産クラス毎の長期的は期待成長率を提供します。 

当資料ご利⽤上のご注意

  • 当資料は情報提供を目的として、インベスコ・インベストメント・ソリューション(IIS)の運用プロフェッショナル(以下、「作成者」)が作成した英文資料を、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社(以下、弊社」)が抄訳したものであり、法令に基づく開示書類でも特定ファンド等の勧誘資料でもありません。抄訳には正確を期していますが、必ずしも完全性を弊社が保証するものではありません。また、抄訳では、原資料の趣旨を必ずしもすべて反映した内容となっていない場合があります。また、当資料は信頼できる情報に基づいて作成されたものですが、その情報の確実性あるいは完結性を表明するものではありません。当資料に記載されている内容は既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。当資料には将来の市場の見通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における作成者の見解であり、将来の動向や成果を保証するものではありません。また、当資料に示す見解は、インベスコの他の運用チームの見解と異なる場合があります。過去のパフォーマンスや動向は将来の収益や成果を保証するものではありません。作成者の事前の承認なく、当資料の一部または全部を使用、複製、転用、配布等することを禁じます。

MC2020-05-094

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