グローバル・ビュー

東アジアの製造業景況格差が拡大―今後の回復プロセスは?

Invesco Mountain

要旨

中国・台湾・韓国における製造業の回復が際立つ

製造業の回復傾向がグローバルに強まっていますが、主要国・地域を比較すると、中国・台湾・韓国における回復が際立っています。感染問題を早期に抑制できたことや、エレクトロニクス分野での世界的な需要拡大の恩恵を受けたことが共通の背景です。

短期的には自動車生産の回復が鍵に

今後については、短期的には自動車生産の回復が鍵になると考えられます。自動車生産の回復に伴って、鉄鋼や化学、エレクトロニクス分野への波及効果も見込めます(下図参照)。日本は自動車生産の回復による効果が特に大きいと考えられます。ただし、企業は設備投資に慎重化していることから、鉱工業生産の回復は短期的には緩慢なペースにとどまり、本格的な回復はワクチンの普及後になると見込まれます。
(図表1)主要国の鉱工業生産水準を左右する諸要因
中国・台湾・韓国における製造業の回復が際立つ
 製造業の回復傾向がグローバルに強まっています。主要先進国がロックダウン状態に入った4月のグローバル鉱工業生産伸び率は前年同月比で-13.2%に沈み、5月も-11.8%と低迷しました。しかし、ロックダウンや外出自粛措置の解除で企業の生産体制が正常化するとともに、消費の底打ちが明確になっており、6月のグローバル鉱工業生産は前年比でみたマイナス幅を大きく改善させたとみられます。
 こうしたなかで、製造業の回復が際立っているのが、中国と台湾、韓国です(図表2)。これら3カ国・地域に共通しているのが、コロナ危機に伴うロックダウンや外出自粛措置を早期に解除したことで内需が回復してきた点です。これらに日本を加えた東アジア4カ国・地域における鉱工業生産の動きを分野別にみると、中国では鉱工業生産が全ての主要な分野でプラスの伸びを確保していることがわかります(図表3)。「新たな日常」の下で、中国の民間消費は依然として前年比でマイナス圏にあるものの(当レポート6月24日号「中国経済の現状を整理」)、不動産・インフラ分野をけん引する形で投資の伸びが回復するとともに、デジタル化と巣ごもり需要によって世界的なエレクトロニクス製品へのニーズが盛り上がっており、鉱工業生産の安定的な回復傾向が維持されています。
(図表2)グローバル:鉱工業生産の伸び率
(図表3)東アジア4カ国・地域:鉱工業生産の分野別伸び率
(図表3)東アジア4カ国・地域:鉱工業生産の分野別伸び率
 
 エレクトロニクス分野の需要の盛り上がりは台湾や韓国でもみられ、両地域の鉱工業生産の増加を主導しています。特に台湾では、エレクトロニクス関連分野が鉱工業生産額の5割弱を占めるなど重要度が高く、他の主要分野の伸び率がマイナス圏にあるにもかかわらず生産の伸びが全体でプラス圏にあります。一方、日本では半導体や携帯電話関連部品、PC関連部品の需要は堅調であるものの、自動車や設備投資関連のエレクトロニクス需要が低迷していることからエレクトロニクス分野の生産は前年割れの状況が続いています。
 鉄鋼を含む金属分野や化学分野では、日本、韓国、台湾の生産は前年割れが継続しています。これは、①中国における輸入需要の伸びが力強さに欠けること、②鉄鋼分野において中国で薄型鋼鈑の生産能力が増強されてきたこと―による悪影響が大きいとみられます。他方、自動車分野では世界的な自動車販売の低迷が、機械分野ではコロナウイルス危機に直面した企業の設備投資意欲の後退が、それぞれ足を引っ張りました。
 
短期的には自動車生産の回復が鍵に
 今後については、短期的には自動車生産の回復が鍵になると考えられます(図表1)。世界の自動車販売台数は、多くの国がロックダウン措置を講じた4月には前年同月比で40%程度減少しましたが、その後は徐々に回復傾向を強めてきており、今年の下半期には前年同期比ベースでの減少率が一桁台に改善するとみられます。中国では、既に自動車販売台数が前年同月比でプラスとなっています。
 今後、グローバルな自動車生産は、①今年前半の購入が抑制されたことに伴うペントアップ需要、②コロナ問題が継続する中で通勤のために自動車を購入する需要、③コロナ問題によって旅行などのサービス消費が抑制される中で代替需要が強まること―によって押し上げられると考えられます。自動車産業のすそ野が広いことを踏まえれば、自動車生産の回復に合わせて鉄鋼、化学、エレクトロニクス分野の需要も回復傾向を強めることが予想されます。日本においても、自動車生産の増加による恩恵が顕在化するとみられます。
 その一方で、ほぼ全ての主要地域において負の需給ギャップが拡大している(総需要が総供給を下回る度合いが拡大)点はグローバルに設備投資の抑制につながるとみられます。アフター・コロナ時代を見据えたデジタル化投資やコロナ禍の中でのバイオ分野の投資を別とすれば、企業が設備投資に対して消極的な姿勢を続けることで、短期的な鉱工業生産の回復は緩慢なペースにとどまると見込まれます。本格的な鉱工業生産の回復は、多くの国・地域で新型コロナウイルスのワクチンが普及してからになると思われます。効果的にコロナウイルスを防げる、副作用の少ないワクチンの普及が視野に入れば、設備投資のペントアップ需要が強まり、鉱工業生産が加速するでしょう。
 以上の見通しに対するリスクとしては、第1に、コロナウイルスの感染拡大によって主要国の景気が再び悪化するリスクが重要です。米国のフロリダ州など、感染拡大が著しい地域での新規感染者数増加ペースは直近でやや鈍化してきたものの、重症患者の増加によって集中治療室(ICU)が不足する、いわゆる「医療崩壊」の状況が生じる可能性がなくなったわけではありません。また、秋以降に他の主要国でも感染拡大によって景気が停滞するリスクがあります。第2に、①新型コロナウイルスに対するワクチンの開発が遅れる、②ワクチンを使っても感染を十分に抑制できない、③ワクチンによる副作用がその普及を妨げる―ような場合には、設備投資の本格的な回復が遅れるとみられます。こうしたリスクが顕在化する場合、①サービス業の業況が悪化して景気が落ち込み、所得効果を通じて消費者のモノに対する需要が減少、②株価の調整によって負の資産効果が生じる―という複数の経路で悪影響が及ぶとみられます。

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MC2020-120

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