欧州バンクローン市場、月次アップデート 2024年10月
2024年9月の欧州バンクローン市場は、相対的に高く安定したインカムがプラスに寄与し、月間トータル・リターンは+0.41%となりました。
Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index(以下「CS WELLI」または「指数」)の2024年9月のトータル・リターンは+0.41%となり、内訳は価格変動が▲0.28%、金利収入が+0.69%となりました1 。
9月の世界の金融市場は堅調な展開となり、8月に見られた一時的な調整から反転して、米国の潜在的な景気後退懸念も沈静化しました。その要因として、以下が挙げられます。
① 中央銀行が緩和的な金融政策に転換したこと。
② 9月の4週間平均の米新規失業保険申請件数が数カ月ぶりの低水準となったこと。
③ 中国政府が新たな景気刺激策を導入したこと。
なお、原油価格は月間で約9%下落しました(2024年7-9月期に17%下落し、1バレル=72ドルの水準で着地)。しかしながら、それがインフレの抑制に寄与することから中央銀行の追加利下げの可能性を高める結果となり、原油価格の下落はプラス材料と見られました。
かかる環境下、9月のバンクローン市場堅調に推移し、月間トータル・リターンは+0.41%となりました。これは主に金利収入(+0.69%)が牽引したもので、CS WELLI構成銘柄の平均価格は前月から0.24ユーロ下落して97.16ユーロとなりました。平均価格の下落は、ファンダメンタルズの悪化や需要の軟化を反映したものではなく、むしろ市場機能がバランスよく働いた結果と思われます。つまり、ここ数週間、バンクローン市場が堅調だったことでいくつかの発行体がリプライシングを行った結果、ファンドなどの投資家は額面以上でのローン取引に消極的になり、バンクローン価格が全体的に軟調となったものと思われます。
9月のバンクローンの新規発行は活発で、例年通りに減速が見られた8月の新規発行水準から増加しました。新規発行額は68.1億ユーロ(前年同月比で約20億ユーロ増加)となり、2024年の平均月間発行額(9月までの新規発行額累計は582億ユーロ)とほぼ同水準でした。また、年末までの新規発行も堅調となることが予想されています。2025年に向けて中央銀行の追加利下げがあれば、企業買収の増加やそれによるローンの新規発行の増加が見られると思われます。
バンクローンへの需要(特にCLOからの需要)は堅調であり、安定して好ましい裁定取引ができる環境のなかでCLOの新規発行が促されました。年初来の欧州のCLO発行額は82件/346億ユーロとなり、2023年の発行額(48件/182.3億ユーロ)を超えました。また、これは2021年に最高となった発行額まで、あと36億ユーロに迫っています。CLOノート(AAA格)はEURIBOR+130bp前後の水準で安定しています(年初はEURIBOR+180bp~200bpの水準)。現在の市場価格を活用して、2022年と2023年にプライシングされたCLOのリファイナンスやリセットが活発化しています。
2024年10-12月期のバンクローン市場を取り巻く投資環境は、次のようなものになると思われます。
① マクロ経済の成長率はゼロ%以上ながら低水準であり、追加利下げにより借入企業の金利負担が軽減。
② バンクローンの新規発行のパイプラインは堅調。
③ バンクローンの新規発行の増加は、新旧様々なマネジャーが組成する多くのCLOからの需要によって吸収。
これらはいずれも、バンクローンの流通市場における価格を下支えすると見られます。
リターン:2024年9月
9月のCS WELLIのセクター別リターンでは、小売が+0.80%と最も高いパフォ-マンスとなり、続いて情報技術の+0.69%、サービスの+0.64%となりました1。最も低いパフォーマンスとなったセクターは、食品・製薬の-1.71%、続いて航空宇宙・防衛の-0.20%、不動産の-0.10%となり、これら以外にマイナスリターンとなったセクターはありませんでした1。
9月のCS WELLIの格付別リターンでは、「CCC」格が+1.38%と最も高く、 「BB」 格が+0.55%、 「B」 格が最も低い+0.32%となりました1。
9月末におけるCS WELLI構成銘柄の平均価格は、前月末比で0.24ユーロ下落して97.16ユーロとなりました1。CS WELLIの3年ディスカウント・マージンは4.80%となり、前月末比で0.10%拡大しました1。
ファンダメンタルズ
今月、欧州中央銀行(ECB)は、予想通りに政策金利を0.25%引き下げて3.50%としました。データに基づいて定例理事会ごとに政策金利を決定する従来の方式が踏襲された一方で、今後も継続的な利下げを行うとは明言しませんでした。しかし、ラガルドECB総裁は、政策金利の方向性は「かなり明白」かつ「低下方向」と述べ、10月の追加利下げの可能性(および12月の追加利下げのさらに高い可能性)を示唆しました。なお、ECBは、その見通しで経済成長率を若干下方修正し、2024-25年のコアインフレ率を若干上方修正しました。
ユーロ圏の製造業は依然低迷しています。7月のユーロ圏鉱工業生産指数(除く、建設業)は前月比0.3%減少し、製造業生産高は前月比1.1%減少しました。ユーロ圏景況感調査でも、これらが近い将来に改善する兆しはほとんど見られていません。
9月のユーロ圏総合購買担当者景気指数(PMI)速報値は48.9となって8月の51.0から低下し、予想を下回りました。これは前月良好であったフランスのサービス業PMIの内容にやや反するものでした。ユーロ圏全体では各国PMIの乖離が広がりました。総合PMI速報値(除く、フランスとドイツ)は8月の51.8から51.1と小幅な低下にとどまった一方で、ドイツは48.5から47.2に低下、フランスは53.1から47.4に低下しました。2024年7-9月期の総合PMIは平均で50となりましたが、ECBによる2024年7-9月期および10-12月期のGDP成長率予想(両期とも+0.2%)を下回るような緩やかな経済成長に見合う水準と思われます。
9月のユーロ圏消費者物価指数(速報値)は1.8%となり、8月の2.2%から低下しました。コアインフレ率も2.8%から2.7%に低下しました。総合インフレ率がECBのインフレ率目標である2%を下回った要因は、昨年と比較した場合の大きなベース効果のほか、9月の燃料価格の下落によって、エネルギー関連のインフレ率が-6%まで低下したことです。
インフレ率の鈍化が進む一方で、経済成長見通しが低調となっているため(PMIによる示唆)、金融市場ではECBの利下げサイクルが早まるとの見方が高まっています。月初にはECBによる0.25%の利下げが10月と12月に連続して実施される可能性は低いと見られていたものの、月末時点では両月の利下げが織り込まれました。
9月末現在、モーニングスター欧州レバレッジドローン指数における過去12カ月のデフォルト率(額面ベース)は0.79%でした3。過去平均は年率2.80%となりました3 。
投資機会
資金調達コストの低下は、クレジット市場を下支えすると考えられます。また、CLOによるバンクローン需要は引き続き堅調と思われます。中期的にはM&Aの増加が見込まれ、LBOローン組成に影響するでしょう。全体的にはバンクローンの需給環境は引き続き良好です。図2で示すようにバンクローンはボラティリティが低いことから、リスク調整後リターンが高くなり、バンクローンにとって好ましい状況となっています。
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1.
Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index (CS WELLI)、ユーロ建てヘッジ付き、2024年9月30日現在。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。指数に直接投資することはできません。
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2.
Pitchbook Data Inc. より、2024年9月30日現在。
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3.
Morningstar European Leveraged Loan Index。過去の平均デフォルト率は、2007年9月1日から2024年9月30日までを対象に集計しています。
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G2024-09-011
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