欧州バンクローン市場、月次アップデート 2024年7月
2024年6月の欧州バンクローン市場は、相対的に高く安定したインカムがプラスに寄与し、月間トータル・リターンは+0.09%となりました。
Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index(以下「CS WELLI」または「指数」)の2024年6月のトータル・リターンは+0.09%となり、内訳は価格変動が-0.55%、金利収入が+0.64%となりました1 。
2024年4-6月期、いくつかのリスク資産に投資が集中したことで、金融市場のパフォーマンスは市場によって異なる展開となりました。株式市場は上昇を続け、マグニフィセント・セブン(米国大型テクノロジー企業7社)に牽引されたS&P500指数は史上最高値を更新しました。しかし株式が幅広く上昇したわけではなく、S&P500均等ウェイト指数は当該四半期に下落しました。
債券市場も難しい展開となりました。欧州中央銀行(ECB)は5年ぶりの利下げを実施し、政策金利を25bp引き下げて3.75%としたものの、年内に複数の利下げが更に実施されることは見込まれていません。また、フランスのマクロン大統領が国民議会選挙の実施を発表したことで地政学リスクが浮上し、フランスの金融資産は下落しました。
かかる環境下、バンクローン市場は比較的堅調に推移しました。2024年1-3月期に+2.1%のリターンとなった後、6月はやや低調となったものの、金利収入に牽引されたトータル・リターンは+0.09%となりました。一方、CS WELLI構成銘柄の平均価格は97.22ユーロから97.10ユーロへとやや下落しました。バンクローン市場の弱含みの主な背景は、6月に144億ユーロに及ぶ機関投資家向けローンが新規発行され、ローンの供給が増えたことです。6月の新規発行額は2021年6月以来の高水準となり、5月の49億ユーロを大幅に上回りました。バンクローンのアレンジャーと発行体は、月初の堅調な市場環境を好機と捉え、リファイナンス、リプライシング、追加発行を相次いで行いました。また、PEによるいくつかの企業買収があったことで、LBO案件のローンが新規発行されました。
6月末にかけて新規発行ペースは低下しましたが、年内の新規発行はさらに抑制された水準に落ち着くと思われます。新規発行ローンの利回りは8.51%程度まで低下し、B2/B格のバンクローンはEURIBOR+425bp〜450の水準(0.5〜1.0ポイント程度の小幅のOID)で発行されています2 。
欧州のCLO市場は引き続き堅調で、CLO2.0以降では年初来で過去最高の発行額となりました。セルサイドのアナリストは2024年のCLO新規発行額を約400~450億ユーロと予想しており、これまでの最高発行額である2021 年2 の386 億ユーロを上回ります。また、年初に予想されていた200億ユーロ程度よりも高い水準となります。
CLOノート(AAA格)は、今年はこれまで概ねEURIBOR+140bp〜150bpの水準で推移していましたが、足元ではEURIBOR+135bp前後となっています2 。スプレッドは縮小したものの、CLOノート(AAA格)は、他のAAA格の資産クラスと比較して、引き続き魅力的な相対価値を提供しています。バンクローン市場と他資産クラスとの相対価値の差は十分に大きく、また、再投資期間後はCLOの償還が発生しますが、CLOの堅調な新規発行を支える投資資金が引き続き潤沢にあることを意味します。
リターン:2024年6月
6月のCS WELLIのセクター別リターンでは、食品・製薬が+1.15%と最も高いパフォ-マンスとなり、続いて林産品/パッケージングの+0.65%、ゲーム/レジャーの+0.36%となりました1。最も低いパフォーマンスとなったセクターは、耐久消費財の-0.93%、続いて不動産の-0.24%、メディア・通信の-0.20%でした 1。
6月のCS WELLIの格付別リターンでは、 「BB」 格が+0.16%と最も高く、 「B」 格が+0.11%、「CCC」格が最も低い-0.17%となりました1。
6月末におけるCS WELLI構成銘柄の平均価格は、前月末比で約0.12ユーロ下落し、97.10ユーロとなりました1。CS WELLIの3年ディスカウント・マージンは4.90%となり、前月末比で0.15%拡大しました1。
ファンダメンタルズ
7月初旬に、フランス議会下院選挙の決選投票が行われました。6月後半、金融市場は極右政党が完全に政権を獲得する可能性と不安に影響されましたが、左派連合の新人民戦線が最大勢力となる驚きの結果となりました。極右政党とその同盟勢力は143議席を獲得しましたが、過半数には届きませんでした。極右政党の政権奪取を阻止するための戦術的な投票によって、どのグループも過半数を占めることなく、振り子が逆方向に振れた形となりました。表面上は今回の選挙での明確な勝者がおらず、特に改革案の内容で大きな妥協がなく、単独で政権を担う「極右政党」も生まれなかったことで市場に安心感がもたらされ、大規模な政治変動のリスクは弱まりました。
6月のユーロ圏総合購買担当者景気指数(PMI)速報値は、市場予想の52.5を下回り、前月比1.3ポイント低下して50.8となりました。11月から5月までの累積では約6ポイント上昇していましたが、反転しました。製造業が主なマイナス要因となり、生産指数は3.4ポイント低下して46.0となりました。国別では、地域別指数の下落が広範囲に及びました。
6月のユーロ圏の消費者物価指数(速報値)は、前年同月比0.1%ポイント低下して市場予想と同じ2.5%となりました。これはエネルギー(前年同月比0.1ポイント低下して0.2%)と食品価格(前年同月比0.1ポイント低下して2.5%)の低下によるものです。コアインフレ率は前年比と同じ2.9%となり、市場予想の2.8%を下回りました。コアインフレ率のうち、財・サービスのインフレ率はそれぞれ前年比0.6%、4.1%となり、横ばいで推移しました。
予想通り、欧州中央銀行(ECB)は6月の定例理事会で、2019年以来初めて、政策金利の中銀預金金利を4.0%から3.75%に引き下げました。ラガルド総裁は、引き締め的な金融政策の巻き戻しが始まった「可能性が高い」とコメントしたものの、ECBのコメントの表現はよりタカ派的な基調でした。ECBは引き続き「データを重視し、理事会ごとに適切な金利水準と抑制期間を決定する」方針であるとしています。また、「金融政策の決まった経路を約束するものではない」とも繰り返しています。
6月末現在、モーニングスター欧州レバレッジドローン指数における過去12カ月のデフォルト率(額面ベース)は1.29%でした3。過去平均は年率2.84%となりました3 。
投資機会
マクロ経済動向の改善により、バンクローン市場は堅調に推移しています。しかしながら、多くのローン供給による需給要因と、フランス議会下院選挙の結果に対する懸念が高まったことで、ここ数カ月はバンクローン価格は上値が重い展開となっています。ローンへのCLOからの需要は引き続き旺盛であり、発行体の資金調達コスト(ベース金利+クレジット/マージン・スプレッド)は低下すると思われます。6月はローンの新規発行の動きが活発化する兆しが見られ、今年下半期のM&Aも(6月の水準と比べれば低くなる可能性が高いとはいえ)増加するものと思われます。全体として、バンクローンの需給は引き続き良好です。バンクローンは、底堅い企業業績(デフォルト・リスクの低下)や金利環境などを背景に、投資家の投資対象として引き続き注目されています。図3に示すように、年初来で見ると、バンクローンのボラティリティは低く推移(高いリスク調整後リターン)しており、今年も優れたリターンをもたらすことが期待されています。
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1.
Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index (CS WELLI)、ユーロ建てヘッジ付き、2024年6月30日現在。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。指数に直接投資することはできません。
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2.
Pitchbook Data Inc. より、2024年6月30日現在。
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3.
Morningstar European Leveraged Loan Index。過去の平均デフォルト率は、2007年6月1日から2024年6月30日までを対象に集計しています。
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G2024-07-010
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