欧州バンクローン市場、月次アップデート 2024年8月
2024年7月の欧州バンクローン市場は、相対的に高く安定したインカムがプラスに寄与し、月間トータル・リターンは+0.97%となりました。
Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index(以下「CS WELLI」または「指数」)の2024年7月のトータル・リターンは+0.97%となり、内訳は価格変動が+0.22%、金利収入が+0.75%となりました1 。
欧州中央銀行(ECB)の利下げに続き、米連邦準備制度理事会(FRB)が9月に利下げを行うとの観測を背景に、月初は多くの株式市場が史上最高値を更新する力強い展開となりました。しかしながら、主要経済指標(米ISM非製造業景況感指数、雇用統計、インフレ率など)が予想を下回ったため、月後半にセンチメントが悪化しました。米国経済のソフトランディング見通しに懸念が生じて金融市場は軟調な展開となり、また、人工知能(AI)関連のハイテク株から他セクターにシフトする動きも見られました。
株式市場のボラティリティが高まった一方で、ローンの持つ抵抗力やCLOからの需要などを背景にしてバンクローン市場は底堅く推移しました。
流通市場において、CS WELLI構成銘柄の平均価格は97.43ユーロとなり、月間で0.33ユーロ上昇しました。発行体の堅調な企業業績がバンクローン価格を下支えしていますが、足元で株式と金利のボラティリティが高まっていることを踏まえると、当面はバンクローン市場にも多少の影響が考えられます。CLOの新規発行ベースは減速する可能性があるものの、市場環境次第でCLOのウエアハウスからのバンクローンへの旺盛な需要が見られると思われます。
7月のバンクローンの新規発行総額は26億ユーロにとどまり、6月の131億ユーロを下回りました。新規発行の低下は、8月の休暇シーズンを控えているためです。夏季は新規発行量が減少するため、今後数週間は目立った新規発行は少ないと思われます。
7月は、CLOの新規発行が活発でした。7月の新規発行(13件、約56億ユーロ)は、3月(14件、59.2億ユーロ)の新規発行の高い水準とほぼ並ぶものでした。また、CLOノートのスプレッド水準(AAA格でEURIBOR+130bp前後)が低いことで、7月は9件のリセットが行われました。今後、CLOノートのスプレッドは他のリスク資産と同様に多少拡大する可能性があり、CLOの新規発行はやや減速すると思われます。
リターン:2024年7月
7月のCS WELLIのセクター別リターンでは、非耐久消費財が+1.65%と最も高いパフォ-マンスとなり、続いて食品・製薬の+1.53%、不動産の+1.50%となりました1。最も低いパフォーマンスとなったセクターは、耐久消費財の-1.10%で、他にマイナスリターンになったセクターはありませんでした。 1。
7月のCS WELLIの格付別リターンでは、「CCC」格が+2.16%と最も高く、 「B」 格が+0.99%、 「BB」 格が最も低い+0.84%となりました1。
7月末におけるCS WELLI構成銘柄の平均価格は、前月末比で0.33ユーロ上昇して97.43ユーロとなりました1。CS WELLIの3年ディスカウント・マージンは4.71%となり、前月末比で0.19%縮小しました1。
ファンダメンタルズ
7月のユーロ圏総合購買担当者景気指数(PMI)速報値は0.8ポイント低下して予想を下回る50.1となりましたが、3カ月ぶりの低水準でした。サービス業PMIは0.9ポイント低下して51.9となったものの、依然サービス業の景気拡大を示唆する水準でした。製造業PMIは0.2ポイント低下して45.6となり、7カ月ぶりの低水準となりました。英国の総合PMI速報値は、製造業の力強い改善に牽引されて52.7に上昇しました。
2024年4-6月期のユーロ圏域内総生産(GDP)速報値は前期比0.3%増(予想は0.2%増)となりました。スペインとフランスは予想を上回り、イタリアは予想通りで、ドイツは予想を下回りました。このユーロ圏GDP速報値は2四半期連続で市場予想を上回るサプライズとなり、2024年上半期で予想を上回ったことになります。しかしながら、PMIが低下傾向にあることを踏まえると、ユーロ圏経済は減速する可能性があります。PMIが50前後で推移すればGDPは横ばいとなりますが、一方で労働市場が堅調であることから、個人消費が引き続きGDPを下支えすると思われます。
7月のユーロ圏消費者物価指数(速報値)は、若干予想を上回るサプライズとなり、前年同月比2.6%上昇しました。一方、コアインフレ率は前年同月比2.9%増と安定して推移しました。足元のコアインフレ率はECBの予想を上回っている可能性がありますが、ECBは個々のインフレ率のデータよりも、景気の減速がもたらす幅広いディスインフレの行方に注目するようになっています。ECBの利下げは今後9月および12月に実施される可能性が高く、利下げ幅は最近高まった金融市場のボラティリティを踏まえたものになると思われます。ECBの金融緩和も、いずれは投資の反転に寄与すると思われます。懸念点として、外部要因がマイナスの影響を与える可能性があり、世界貿易に関するリスク(特に米国の大統領選やその後に出される方針)やユーロ圏各国の輸出市場におけるシェア低下のリスク(特にドイツ)などが挙げられます。
月初はフランス議会選挙が重要な政治イベントとなり、独仏10年債スプレッドは月間で9bp縮小しました。議会選挙は膠着した結果となり、どの政党も政策を実施することが難しいことから、大きな政策変更が回避され、結果的に金融市場に安心感を与えました。
8月初に行われた金融政策委員会(MPC)で、イングランド銀行(BOE)は5対4で0.25%の利下げを決定しました。しかしながら、今後の利下げの予定について明確な方針は示されず、会合ごとに決定される予定です。今回の利下げは、微妙なバランスで決定されました。
7月末にかけて、いくつかの米国経済指標が弱含みました。特に、6月の米ISM製造業およびサービス業景況感指数がともに景気後退を示唆する水準になったこと、米雇用統計で失業率が2021年11月以来の高水準となる4.1%となったこと、米消費者物価指数(CPI)のコアインフレ指数が(直近3カ月の年率換算で)2021年3月以来最低となる2.1%となったことなどが上げられます。
7月末現在、モーニングスター欧州レバレッジドローン指数における過去12カ月のデフォルト率(額面ベース)は0.79%でした3。過去平均は年率2.83%となりました3 。
投資機会
マクロ経済動向を反映してバンクローン市場は堅調に推移しています。欧州の経済成長は(プラス圏であるものの)横ばいになる可能性がありますが、今後は資金調達コストが低下することで、クレジットの支援材料になると思われます。CLOによるバンクローン需要は引き続き堅調であり、年後半にはM&Aも増加すると思われます。全体的にはバンクローンの需給環境は引き続き良好です。図2で示すようにバンクローンはボラティリティが低いことから、リスク調整後リターンが高くなり、今年もバンクローンにとって好ましい状況となっています。
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1.
Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index (CS WELLI)、ユーロ建てヘッジ付き、2024年7月31日現在。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。指数に直接投資することはできません。
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2.
Pitchbook Data Inc. より、2024年7月31日現在。
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3.
Morningstar European Leveraged Loan Index。過去の平均デフォルト率は、2007年7月1日から2024年7月31日までを対象に集計しています。
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G2024-08-012
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