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欧州バンクローン市場、月次アップデート 2022年7月

欧州バンクローン市場、月次アップデート 2022年6月
2022年6月の欧州バンクローン市場は、相対的に高く安定したインカムがプラスに寄与したものの、月間トータル・リターンは▲3.80%となりました1

Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index(以下「CS WELLI」または「指数」)の2022年6月のトータル・リターンは▲3.80%となり、内訳は価格変動が▲4.16%、金利収入が+0.36%となりました。年初来のリターンは▲6.78%となっています1

インフレの高止まりや景気後退懸念が根強い中、バンクローンは変動金利であることから来る金利上昇リスクへの抵抗力によって、今月のCS WELLIのパフォ-マンスはリスク資産であるクレディ・スイス欧州ハイ・イールド債券指数やストックス欧州600指数などを大幅に上回りました2

一方で、6月の欧州バンクローン市場の平均価格は90.26となりました。これは、月間リターンとしては1998年に指数の計算が開始されてから最も低い部類に属しますが、2008年のリーマンショックのピーク時や、2020年3月(コロナ感染拡大で都市封鎖)にはより激しい売りに見舞われました。パフォーマンスが悪化した背景には、次の3つの点が上げられます。

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(1)エネルギーと食品価格の高騰を始めとするインフレ率の高止まり(ウクライナ紛争が主因)。

(2)各国中央銀行による金融引き締め政策(インフレ抑制のための利上げにより、資金調達コストが上昇)動向。欧州中央銀行(ECB)や他の中銀が、今後どのようにインフレ抑制と経済成長のバランスを取るのかに焦点。

(3)特にドイツでガス不足となるリスクが顕在化。冬にはエネルギーの配給制が実施される可能性。

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これらのマイナス要因を背景に6月のバンクローン新規発行市場は低調に推移し、新規発行額は僅か約13億ユーロとなりました(年初来の発行額は、前年同期比約70%下回っています)。

新規発行予定額は、今のところ200億~300億ユーロの規模を維持しています。バンクローンのアレンジャーはボラティリティが高い市場環境を考慮して、取引開始のより良いタイミングを待っています。

足元では、B格の新規発行バンクローンはEURIBOR+500bp程度、 90ユーロ前後のディスカウント価格で発行されています。また、市場は、利上げによって2023年までにEURIBORは少なくとも0.5%程度に上昇すると予想しています。

CLO新規発行市場も低調で、6月の新規発行CLOは2件、約8億ユーロとなりました。負債投資家の動きは依然として慎重になっています。新規発行CLO (AAA格)のスプレッドは、EURIBOR+160bp台に拡大しました。しかしながら、流通市場でのCLO(AAA格)はEURIBOR+200bp程度のディスカウント・マージンで取引されていることから、今後新規発行CLOのスプレッドがさらに見直される可能性があります。

そういったAAA格の動向にも関わらず、ローン価格の低下は組入れ水準の低いウェアハウスにとって魅力的な機会を創出しており、さらなるCLO発行をサポートすると思われます。その場合、購入対象となるローン価格もサポートされることになります。

月末のCS WELLI の額面価格合計(市場規模)は約4,130億ユーロとなり、年初来で7%増加しました1

リターン

6月のCS WELLIのセクター別リターンは、いずれのセクターもマイナス・リターンとなりました。原油価格高騰の恩恵を受けているエネルギーが▲2.27%と最も高いパフォ-マンスとなった一方で、最も低いパフォ-マンスとなったのは食品/タバコの▲5.79%、続いて不動産が▲5.11%、ゲーム/レジャーが▲4.83%となりました 1

格付け別では、6月はBB格が▲2.52%と最も高く、B格が▲4.23%1 、CCC格が最も低い▲5.19%となりました1

6月末におけるCS WELLI構成銘柄の平均価格は、前月末比3.87ユーロ下落し、90.26ユーロでした1。CS WELLIの3年ディスカウント・マージンは7.25%で、前月末比+1.51%と大きく拡大しました1

6月のクレディ・スイス欧州ハイ・イールド債券(Credit Suisse Western European High Yield)指数は▲6.37%のリターン(年初来では▲14.90%)となり、スプレッド・トゥ・ワーストは6.78%でした3

ファンダメンタルズ

欧州中央銀行(ECB)は、6月の定例理事会で資産購入プログラムでの純購入を7月1日に終了することを決定しました。また、政策金利を7月に0.25%引き上げ、中期インフレ見通しが改善しない限り、9月に0.5%の利上げを行う可能性を示唆しました。ECBは、2022-23年の経済成長率の低下を予測するとともに、2024年の総合インフレ率は2.1%、コアインフレ率は2.3%に上昇する見通しを示しました。また、理事会では詳細を示さなかったものの、各国国債の利回り格差が拡大するリスクの回避を明言しました。

ユーロ圏の6月の総合PMIは52となりました(5月は54.6)。生産水準は2年ぶりに低下し、新規受注と輸出受注がともに減少しました。需要が減少したことで企業は受注分の完了を優先し、受注残が減少しました。グローバル経済の見通しやインフレの高止まりなどの懸念が成長期待を圧迫したため、企業景況感は2020年5月以来の低水準に落ち込みました。一方、明るい材料としては、リードタイムが改善し、サプライチェーンが安定しつつある兆候が見られたことや、生産コストと生産価格の双方の上昇率が緩やかになり、インフレ圧力が軟化したことが挙げられます。

ユーロ圏の6月の総合インフレ率は、前年同月比0.5%ポイント上昇し、予想値をわずかに上回る8.6%となりました。エネルギー(前月比3.3%増)と食品(前月比1.1%増)の上昇が要因となる一方、コアインフレ率はドイツの公共交通料金の一時的な引き下げにより、わずかながら低下(前年比3.7%)しました。加えて、穀物等が予想以上の収穫となったことやウクライナからの出荷増などによってソフトコモディティ価格が下落し(小麦は直近の高値から約20%下落、食用油は約14%下落)、また、景気の減速によって9月にインフレ率がピーク(約9%)に達した後は年末に向けて低下していくとの見通しから、金属価格(鉄鉱石は10%下落)も下落しました。

6月の各ユーロ圏購買担当者景気指数(PMI)は、ユーロ圏各国のサービス業と製造業の双方において、経済成長が減速していることを示しています。また、多くのセルサイドアナリストは、基本的に2022年10−12月期にリセッションが始まると予想しているものの、PMIが示す経済活動の低迷は、早期の景気後退リスクと、ECBの金融政策のかじ取りが複雑になることを示しています。

6月23日、ドイツ政府は3段階の天然ガス緊急事態計画のうち、第2段階への移行を発表しました。第2段階はガスの配給制を意味するものではありませんが、既存のガス小売契約の価格変更につながると見られています。足元では、ロシア−ドイツ間の天然ガスパイプラインであるノルドストリーム1の年次メンテナンス(7月11日〜21日)を注視する必要があります。ドイツ政府がガス価格の調整を行った場合、インフレに大きな影響を与える可能性があります。現在のガス契約の小売価格は1メガワット時間あたり25〜50ユーロとなっていますが、もし卸売価格の約150ユーロに近い水準で価格改定が行われれば、ドイツのインフレ率は約5〜13%、ユーロ圏のインフレ率は約1〜4%の追加的な上昇になりえます。また、間接的には電力価格も上昇するため、ドイツのインフレ率はさらに約3〜7%、ユーロ圏のインフレ率は約1〜2%の追加的な上昇になるでしょう。しかしながら実際には、政治的な理由から、ドイツ政府による様々な支援策(例:価格転嫁、補助金、減税)が導入されると見られています。

6月末現在、S&P欧州レバレッジド・ローン指数における過去12カ月のデフォルト率(額面ベース)は0.62%でした4。過去平均は年3.10%です4

指数のトータルリターン(%)

脚注

  • 1

    1. Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index (CS WELLI)、ユーロ建てヘッジ付き、2022年6月30日現在。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。指数に直接投資することはできません。

    2. ストックス欧州600指数およびS&P500指数は、2022年6月30日現在。

    3. Credit Suisse Western European High Yield Indexはユーロ建て、2022年6月30日現在。

    4. S&P European Leveraged Loan Index。過去の平均デフォルト率は、2007年6月1日から2022年6月30日までを対象に集計しています。

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