グローバル・ビュー

FRB、日銀はともにトランプ政策を見極めるスタンス

Invesco Global View
要旨
3月FOMC:金利を据え置き。株式・債券市場はやや好意的に受け止め

今週に開催された日米の金融政策決定会合では、ともに政策金利が据え置かれました。今回の両会合を把握するカギは「不確実性」です。両会合を通じて、トランプ政権の政策がもたらす不確実性に対して、その影響を見極めるまでは金融政策当局が政策を変更しにくいという状況が浮き彫りになりました。記者会見を通じて、パウエルFRB(米連邦準備理事会)議長は、「追加関税などの詳細が明らかになってくれば、不透明感も晴れるので、しっかりと利下げができるはずだ」というシグナルを金融市場に送りたかったのだと思われます。

FRB政策:次回の利下げは6月か

景気の減速は基調的なインフレ率の緩やかな低下をもたらす公算が大きいことから、FRBは6月に追加利下げに踏み切る可能性が高いと見込まれます。私は年内に追加的な利下げが再度実施され、2025年中には合わせて2回の利下げが実施されると予想しています。

3月日銀会合:金利を据え置き。会見はサプライズなし

3月18~19日に開催された日本銀行の金融政策決定会合でも、トランプ政権の政策の不確実性に直面した日本銀行の立ち位置が浮き彫りになりました。

日銀政策:春闘の結果は利上げに向けての追い風に

4-6月期に内需の回復が見込まれる中、日銀はこれまでと同様、中立金利よりもかなり低い水準にある政策金利を、中立金利水準に向けて引き上げていく姿勢を維持すると考えられます。政治的な圧力がないとはいえない中、参議院選挙後の9月会合における0.75%への利上げが想定されます。

3月FOMC:金利を据え置き。株式・債券市場はやや好意的に受け止め

 今週に開催された日米の金融政策決定会合では、ともに政策金利が据え置かれました。今回の両会合を把握するカギは「不確実性」です。両会合を通じて、トランプ政権の政策がもたらす不確実性に対して、その影響を見極めるまでは金融政策当局が政策を変更しにくいという状況が浮き彫りになりました。まず、3月18~19日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、市場予想通り、政策金利であるFF金利誘導目標が3.25~3.50%で据え置かれました。金融市場ではFOMC参加者の政策金利見通しの変更に注目が集まっていましたが、2025年内の政策金利引き下げ回数についての見通しは、前回(2024年12月)と同様の2回に据え置かれました(1回の利下げ幅を0.25%として計算)。2026年、2027年の利下げ回数見通しも、それぞれ、2回、1回で据え置かれました(図表1参照)。景気・インフレ見通しについては、足元での動きを反映させる形で修正されました。2025年10-12月期の前年同期比ベースの実質GDP成長率見通しは、前回の2.1%から1.7%へと引き下げられました。また、コアPCEデフレーターの2025年10-12月期についての見通しは、前回の2.5%から2.8%へと引き上げられましたが、これはトランプ政権による追加関税の影響を主として織り込んだものです。

 今回のパウエルFRB(米金融準備理事会)議長の記者会見で目立ったのは、パウエル議長がトランプ政権の政策がもたらす不確実性について繰り返し言及した点です。パウエル氏は、「我々は状況が明らかになるまで待つことが可能な、良い位置にいる」と述べましたが、この言葉を通じてパウエル氏は、「追加関税などの詳細が明らかになってくれば、不透明感も晴れるので、しっかりと利下げができるはずだ」というシグナルを金融市場に送りたかったのだと思われます。この言葉自体はハト派的でもタカ派的でもありませんが、景気悪化などのリスクが顕在化してくれば、FRBが利下げしてくれるという期待感を金融市場に醸成することに寄与したと考えられます。パウエル氏の記者会見直後の段階で、米国金融市場では株高と長期金利安が進行しましたが、これはパウエル氏のコメントが好意的に受け止められたことを示しています

(図表1)FOMC参加者による政策金利・経済見通し(中央値)

 一方、パウエル氏は、足元で消費者信頼感指数などが悪化しているとしつつも、実際の消費がそれによって悪化するとは限らないことを指摘しました。過去の経験に照らし合わせると、そうならないことも多かったという発言は、景気悪化を懸念する金融市場にとっては、一定の安心感をもたらす発言であったと言えます。

 ところで、今回のFOMCでは、現在実施中の量的引き締め(QT)政策の縮小もアナウンスされました。具体的には、FRBが保有する国債の毎月の満期到来分のうち、これまではFRBが250億ドル分を再投資せず、その分だけバランスシートが縮小する形になっていたのを、4月以降は再投資しない金額を50億ドルに縮小することが決定されました。パウエル議長は、記者会見において、これが金融政策の変更を意味するものではないと述べました。パウエル議長は、以前にQT政策の縮小について議論を開始した旨を明らかにしていましたので、今回の決定は、金融市場にとってはサプライズではありませんでした。

FRB政策:次回の利下げは6月か

 米国では、追加関税で短期的にインフレが加速するとみる消費者が増えるなかで、消費者マインドが低下してきています。これまで米国経済をけん引してきた民間消費が減速に向かっていることから、米国景気は今年前半に潜在成長率を下回る水準まで減速する可能性が高いと思われます。景気の減速は基調的なインフレ率の緩やかな低下をもたらす公算が大きいことから、FRBは6月に追加利下げに踏み切る可能性が高いと見込まれます。私は年内に追加的な利下げが再度実施され、2025年中には合わせて2回の利下げが実施されると予想しています。ただ、追加関税や、政府職員の解雇を含む政府支出の削減、移民制限などの状況次第では、景気が大きく減速する可能性があります。リスクシナリオとしては、米国が景気後退に陥る兆候が出てくるケースにおいて、FRBが年内により大幅に利下げを実施するシナリオを挙げたいと思います。

3月日銀会合:金利を据え置き。会見はサプライズなし

 3月18~19日に開催された日本銀行の金融政策決定会合でも、トランプ政権の政策の不確実性に直面した日本銀行の立ち位置が浮き彫りになりました。日銀は1月に利上げを実施したばかりですので、今回の会合で金利を据え置いたのは多くの市場関係者の想定通りでした。植田総裁の記者会見で明らかになったのは、日銀が、アメリカの追加関税策による影響をまずは見極めたいと考えている点です。今後、トランプ政権の政策が日本経済に直接・間接に景気の悪化をもたらすリスクがあることから、日銀としては、日本経済へのダメージがそれほど大きくないことがはっきりするまでは利上げを控えるというスタンスだと思われます。私が注目したもう一つのポイントが、追加関税のリスクを除けば、日本経済はオントラック(順調)であるという見方を日銀が維持していることです。確かに食品価格の高騰でインフレ率が加速して、消費マインドには向かい風が吹いていますが、春闘でのしっかりとした賃上げの動きを受けて、日銀は今後の景気についての自信を維持していることがはっきりしました。日銀によるこのようなスタンスが、今後の利上げ継続につながっていくと思います。

日銀政策:春闘の結果は利上げに向けての追い風に

 私は春闘での賃上げ率が去年と同じかそれをやや下回るとみていましたので、連合による第1次の集計に基づく賃上げ率が5.46%と、昨年の第1次集計で示された5.28%を上回ったことはポジティブサプライズと捉えています。足元では食品価格が大きく上昇していることで、実質賃金の伸びはマイナス圏に入り、民間消費に下押し圧力をもたらしています。しかし、4~5月には食品価格が落ち着きをみせてくるとみられるうえ、企業が春闘に基づく賃上げを実施していきます。4-6月期中には実質賃金の上昇率がプラスに戻り、それとともに、日本の実質GDP成長率が潜在成長率程度にまで回復すると見込まれます。

 こうした環境下で、日銀はこれまでと同様、中立金利よりもかなり低い水準にある政策金利を、中立金利水準に向けて引き上げていく姿勢を維持すると考えられます。政治的な圧力がないとはいえない中、参議院選挙後の9月会合における0.75%への利上げが想定されます。9月の利上げの後、日銀はその次の利上げを実施する前に、それまでの影響について精査する時間が必要になると見込まれることから、1.0%への利上げは2026年の1-3月期に実施されると予想します

 仮に、何らかの理由で1ドル=160円近辺までの円安が進行する場合は、より早期に利上げが実施される可能性が出てくるとみられます。他方、米国経済が景気後退に陥るようであれば、FRBの強力な利下げによって円高圧力が増すとみられるうえ、日本の景気にも下方リスクが強まりますので、日銀による利上げは封印され、場合によっては利下げの実施も視野に入るでしょう。

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