グローバル・ビュー

1月FOMC/ディープシーク・ショックが限定的な理由

Invesco Global View
要旨
1月FOMCは想定通り利下げを見送り。市場へはほとんど影響せず

1月28~29日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、事前の予想通り、FF金利が据え置かれました。パウエルFRB(米連邦準備理事会)議長による記者会見を含めて市場のほぼ想定通りでした。これを受けて、FRBが年央あたりまでに2回の利下げを実施するという見方を維持したいと思います。

ディープシーク・ショックが限定的であった理由

他方、私は、1月27日の「ディープシーク・ショック」による金融市場への影響が限定的であった背景には、タイミングが良かったという面があったと考えています。トランプ氏の大統領選での勝利後、12月に入ると、投資家は、債券や株式投資に慎重となり、生成AI関連銘柄だけが注目される状況となりました。こうした時期にこのショックが起きれば株価の下落幅が大きくなるリスクがありました。しかし、トランプ大統領が就任以降に打ち出した政策がおおむね市場の想定通りとなったことから、ディープシーク・ショックで米長期金利の低下をもたらし、株式市場は悲観論一色の状況を回避することができたように思います。ただ、ディープシーク・ショックに伴う株式投資家の不安がなくなったわけではないため、今後も注意が必要です。

 

1月FOMCは想定通り利下げを見送り。市場へはほとんど影響せず

 1月28~29日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、事前の予想通り、政策金利であるFF金利の誘導目標が4.25~4.50%で据え置かれました。今回の会合では、昨年12月までの連続で実施していた利下げが見送られたことになります。FOMC後の記者会見において、パウエルFRB(米連邦準備理事会)議長は、労働市場がしっかりした状態にあり、景気も好調であることを指摘したうえで、金融政策が良いところにある(well-positioned)との表現を繰り返し用いて、今回の会合での利下げの必要がなかったとの見方を示しました。パウエル氏は、利下げを急ぐ必要はないが、政策金利をさらに調整する(引き下げる)のは、インフレが2%目標に向かってさらに進展するか、労働市場が軟化する時になるだろう、とも述べました。今後のFRBの政策にとっては、トランプ政権が今後打ち出す政策がどの程度のインフレ効果をもたらすかが重要です。パウエル氏は、トランプ政権による①関税、②移民制限、➂財政政策、④規制についての政策―による影響を見極める必要を指摘したうえで、今は様子を見る必要があるとしました。

 パウエル氏によるこれら一連の発言は金融市場の想定内であったことから、FOMCによる株式・債券市場への影響は限定的でした。金融市場では、FOMC声明文の中にこれまで盛り込まれていた、「インフレが2%目標に向けて進展した」との表現が削除されたことで、FRBがタカ派化したとの見方が強まり、一時的な米長期金利の上昇と株価の下落、ドル高につながりました。しかし、その後の記者会見でパウエル議長が、これについて、「文章を短くするためにその文言を削除しただけであり、FOMCの見方が変わったわけではない」、という趣旨の発言をしたことで、市場は再び落ち着きを取り戻しました。

 金利先物市場に織り込まれる年内の利下げ回数はFOMC後の段階で1.89回となります(1回を利下げ幅を0.25%として算出、以下同様)。私は、従前から、米国のディスインフレ的な傾向が今年前半はおおむね継続すると見込んでいます。直近(2024年12月分)のCPI、PPI統計で基調的なインフレが落ち着きを見せてきたことをふまえて、FRBが年央あたりまでに2回の利下げを実施するという見方を維持したいと思います
 

ディープシーク・ショックが限定的であった理由

 他方、中国のディープシークが高性能の推論AIサービスを安価で提供しはじめたことが、1月27日に「ディープシーク・ショック」とも言える金融市場の反応をもたらしたことについて考えたいと思います。1月27日はこの影響からエヌビディアをはじめとする半導体関連企業、AIサービスの提供を行っている米国の大手テック企業の株価が大きく下落しましたが、翌1月28日以降には株価がある程度リバウンドし、金融市場は落ち着きを取り戻しました。結論から言いますと、私は、金融市場における「ディープシーク・ショック」が限定的であった背景には、タイミングが良かったという面があったと考えています

 振り返ってみると、マグニフィセント7(エヌビディア、アップル、アルファベット、メタ・プラットフォームズ、テスラ、マイクロソフト、アマゾンを指します)を軸とする米国のAI関連の銘柄群の株価は、2023年初以降、大きく上昇するトレンドを継続させてきました。特に、2024年初以降は、巨大AI関連企業の株価の上昇が、米株式市場全体をけん引してきたといえるでしょう(図表1)。トランプ氏が2024年11月初旬に実施された大統領選挙で勝利した後、追加関税や移民制限を軸とした政策がインフレを押し上げ、金融政策の引き締めにつながるという懸念が台頭したことで、米国の長期金利が大きく上昇しました。長期金利はいったん低下したものの、12月に入って再び急上昇しました。トランプ大統領が就任後にどのような政策を打ち出してくるかわからないこともあり、投資家は債券投資に慎重にならざるをえませんでした。一方、株式市場では、トランプ氏の勝利が景気プラスになる公算が大きいとの思惑から株式市場にいったん買いが入りました。しかし、その後は、金利上昇やトランプ政策についてのリスクが強く意識され、投資家は株式(特にAI関連銘柄以外の株式)への投資に慎重化したと考えられます。こうした中、株式や債券市場への資金配分に慎重となった投資家は、短期的な政策の動きに左右されずに売り上げや利益の大きな拡大が見込めるAI分野に重点的に投資する姿勢を強めました。いわば消去法的な形でマグニフィセント7への投資が増加し、株価の大幅な上昇につながりましたもし、トランプ政権が発足する前にディープシーク・ショックが起きていたとしたら、米国の株式市場は牽引車を失い、株価がより大幅に下落していた可能性があります

(図表1)米国:ブルームバーグ米国大型株指数、ブルームバーグ・マグニフィセント7指数等の推移

 しかし、実際にディープシーク・ショックが起きたのは、トランプ政権が発足した1月20日より後の、1月27日でした。トランプ氏は就任後に数多くの大統領令や覚え書きを発表しましたが、その中身は、おおむね金融市場が事前に想定した通りであり、大きくエスカレートしたものではありませんでした。トランプ氏の政策がそれまで以上にインフレ懸念を強めるものとならなかったことで、債券に投資するハードルが下がったと言えるでしょう。こうした中で起きたディープシーク・ショックによって、マグニフィセント7やそのほかのAI関連企業の株価が比較的大幅に下落しましたが、重要なのは、投資しやすくなった債券市場に資金の一部が入るとともに、利下げへの期待が強まったことで、長期金利が低下した点です。また、AI関連銘柄が大きく下落すると株式市場全体のセンチメントを害してしまうリスクがある中でも、利下げ期待や長期金利の低下により、AI関連以外の銘柄に投資する動きが生まれました。ディープシーク・ショック後、1月29日までのS&P500種指数のセクター別騰落率をみると、生活必需品やヘルスケアといったディフェンシブセクターの株価が上昇しました(図表2)。ディープシーク・ショックにあっても、金融市場が悲観論一色に陥る事態は回避されました

(図表2)米国:S&P500種指数のセクター別騰落率(1月24日から1月29日までの期間)

 とはいえ、ディープシーク・ショックに伴う株式投資家の不安がなくなったわけではありません。ディープシークは推論AIの提供にあたって、その技術の基礎を示した論文も公表しており、今後、大手AI関連企業による投資額が減って半導体への需要が想定を下回ったり、低コストでの生成AIサービスの提供が可能になることで、大規模な設備投資を実施中の既存の大手AI関連企業の収益性が損なわれるリスクは残っています。このようなリスクには今後注意していく必要があるでしょう。

 

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MC2025-013