フラッシュ・レポート 日銀の1月会合:予想通り0.5%に利上げ
1月23~24日に開催された日銀金融政策決定会合では、政策金利が0.25%から0.50%へと引き上げられました。これは、前回会合(2024年12月)直後から私が想定していた通りの結果です。今回の利上げには以下の4つの背景があったと考えられます。
第1は、足元の日本経済がこれまでの日銀の想定通りに緩やかな拡大軌道を辿っている点です。日銀は、これまでの展望レポートにおいて、日銀の展望レポートに示された通りに経済物価の見通しが実現していくとすれば、「それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ」ることを明言してきました。今回公表された展望レポートでは、今後の実質GDP成長率やインフレについて、前回(2024年10月時点)の見通しがほぼ維持されました。特に重要性が高い日銀版コアコアCPI(生鮮食品およびエネルギーを除く消費者物価指数)上昇率についての日銀政策委員による見通しは、2025年度、2026年度について共に2.1%でしたが、このうち、2025年度の見通しは前回の1.9%からやや上方修正されました。日銀が特に注目している春闘に向けて、一部の大手企業が相次いで大幅な賃上げの意向を表明している点も、景気の先行きに対する不透明感を弱めることにつながったと思われます。景気がオントラックで推移する(想定した軌道を走っている)中で、1.0~2.5%の範囲内にあると想定される名目中立金利よりも大幅に低い水準にある政策金利を引き上げたと言えます。
第2は、米大統領選挙でのトランプ氏の勝利を受けて、日銀の前回会合(2024年12月)前後から世界的なドル高傾向が続いたことです。年初来の円はドル、ユーロ、ポンドなどの主要通貨に対しておおむね強めで推移してきましたが、これは、日銀の1月日会合での利上げの可能性が金融市場で意識されたためとみられます。その意味では、今回の会合で日銀が利上げを実施しない場合には、円安が進行してインフレを押し上げる圧力をもたらし、民間消費への悪影響が懸念される状況となっていました。この点は、利上げに後ろ向きと思われる政府から、日銀への政治的圧力を減じることになったと考えられます。
第3は、2024年7月の会合で前回の利上げを実施してから半年が経過した点です。日本銀行は、1990年央以降、累積で0.5%を超える幅での利上げを実施したことはありませんでした。このため、利上げによる景気や金融市場への影響には予測しにくい面が多く、日銀は、前回の利上げが思わぬ問題をもたらさなかったかどうか見極めながら利上げを進めていくことになります。前回の利上げから半年という期間は、日銀がこうした見極めをするうえで十分すぎるくらい長い期間であったと考えられます。
第4は、就任以降にトランプ政権が発表した政策が金融市場の混乱をもたらさなかった点です。追加関税をはじめとするトランプ氏の政策がグローバルな株安をもたらしていたとすれば、日銀は利上げを実施しにくい環境になっていたとみられますが、そうした状況は回避され、日銀の利上げが可能となりました。
今後の日銀による利上げのタイミングについては、景気やインフレの見通しや円相場が重要な決定要因になるとみられます。私は、今後の日本経済が内需を軸とした緩やかな拡大傾向を維持するとみています。今回の利上げによる効果を見極めるために必要な期間(3カ月~6カ月程度とみられます)の経過後はいつでも利上げを実施できる環境が整うとみられるものの、今夏に参議院選挙が予定されていることをふまえると、実際の利上げ時期は今年秋のタイミングになると予想します。メインシナリオでの年内の追加利上げの回数としては1回を予想しますが、春闘での賃上げの状況や今後の景気やインフレの状況によっては、2回の追加利上げも選択肢になるとみられます。一方、FRB(米連邦準備理事会)による利上げなどによって、1ドル=160円を超えるような想定外の円安が進行する場合、メインシナリオで想定した利上げ時期よりも前倒しで利上げが実施される可能性があるとみられ、リスクシナリオとして注意が必要です。
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