トランプ政策の市場インパクトについてのガイド
要旨
就任直後の諸政策はほぼ市場予想通り。市場インパクトは限定的
トランプ大統領の就任直後に公表された諸政策は、おおむね金融市場の予想の想定内でした。追加関税は就任初日の大統領令や覚え書では具体策が示されなかったものの、トランプ氏自身がメキシコ・カナダ向けに25%、中国向けに10%、の追加関税率で徴収する検討を行っていることを表明しました。
トランプ政策による市場インパクトの考え方
当レポートでは、今後、トランプ政権による新しい政策がどのような形でグローバル株式・債券・為替市場に影響するかについて考察し、図表1にまとめました。最も注目度が高い追加関税政策については、米国では、株高、長期金利上昇、ドル高の影響を及ぼすとみられる一方、追加関税対象国では株安・通貨安、これら以外の第三国では通貨安のインパクトをもたらす公算が大きいとみています。ところで、中国への追加関税率は10%からさらに引き上げられる可能性が高いとみています。2月1日にメキシコ・カナダ・中国向けの第一弾の実施が発表された後、各国・地域に対する米国の方針が固まってから、中国向けを含む各国・地域への追加関税率や追加関税の対象品目などが順次公表されていくとみられ、その市場インパクトに注意が必要です。
就任直後の諸政策はほぼ市場予想通り。市場インパクトは限定的
1月20日、グローバル金融市場の参加者が固唾(かたず)をのんで見守る中、トランプ大統領が就任しました。大統領就任直後に公表された諸政策は、一言で言えば、おおむね金融市場の予想の想定内でした。トランプ大統領は選挙キャンペーン中や選挙での当選後より、諸外国・地域からの輸入品に対する追加関税の徴収や、移民規制の強化石油・ガス分野での大幅な規制緩和、パリ協定からの離脱などの方針を掲げてきました。就任直後に発表された大統領令や覚え書(メモランダム)は、これまでトランプ氏が主張していた政策におおむね沿ったものであり、その意味で、これまでのところは、大統領への就任に伴う金融市場への影響は限定的であったと言えるでしょう。
金融市場で最も大きな注目を集めているのが、新政権が中国やその他の国・地域からの輸入品に徴収するとしている追加関税策です。トランプ大統領は、就任初日(1月20日)に追日関税を発動するとの方針を表明してきましたが、実際に発表された大統領令や覚え書においては具体的な追加関税率やその徴収対象に関するものはなく、これがグローバル金融市場に一定の安堵感をもたらすことになりました。例えば、1月21日の東京為替市場では、追加関税の可能性がやや後退したとみられたことから、1ドル=156円程度のドル円レートが、いったんは1ドル=155円程度に動くという、円高ドル安方向への動きがみられました。
しかし、トランプ大統領は、就任日の夜になり、2月1日にメキシコやカナダからの輸入品に対して25%の関税をかけるとの見方を明らかにするとともに、翌日(1月21日)には、フェンタニルなどの違法薬物の米国への輸出に中国が関係していることに鑑み、中国に対して2月1日から10%の追加関税を徴収する可能性について言及しました。これらの追加関税率は、就任前の段階でトランプ氏が言及していたのと同様ではあるものの、追加関税が少し遠のいたという印象を受けていたグローバル金融市場参加者に緊張感をもたらす結果となりました。1月22日の東京為替市場では円安ドル高の動きが生じ、為替レートはトランプ氏の就任直前の水準(1ドル=156円)まで戻りました。
トランプ政策による市場インパクトの考え方
これまでのところはトランプ新政権が打ち出した政策はグローバル金融市場でほぼ想定された範囲にとどまっており、その意味で市場への影響は限定的であったと言えます。しかし、トランプ大統領が就任してからまだ数日が経ったにすぎず、今後公表される各種の政策が金融市場に相応なインパクトをもたらす可能性が高いと考えられます。そこで、今後、トランプ政権による新しい政策がどのような形でグローバル株式・債券・為替市場に影響するかについて考察してみたいと思います(図表1をご参照ください)。
ここでは、最も注目度が高い追加関税政策に焦点を当てたいと思います。トランプ政権が市場で想定されている以上の追加関税策を示唆する場合、米国の株式市場においては、株高の動きになる可能性が高いと考えられます。追加関税が目指すのは米国経済における輸入浸透度の引き下げであり、これまで国外から輸入していた財が国内で供給されることです。これにより、米国内の生産拠点の競争力が増し、米国内を事業活動の中心とするメーカーやそれらの企業への供給を担う企業の業績見通しの改善を通じて、株価の上昇が想定されます。米国の中小型株は、大型株に比べて米国国内での事業活動の割合が高いとみられ、その意味で、中小型株には恩恵が及びやすいとみられます。ただし、輸入品に関税をかけることで米国のインフレ率には押し上げ圧力がかかることから、長期金利に上昇圧力がかかり、今後のFRB(米連邦準備理事会)の利下げへの期待が低下する可能性が高まるため、その面では、不動産や公益セクターなど金利上昇の悪影響を受けやすい銘柄にはマイナス面も出てくるでしょう。また、追加関税の対象国で製造拠点を有するメーカーの株価も下落しやすいとみられます。
一方、米国の債券市場では、インフレ懸念が強まることで、長期金利が上昇する可能性が高いと考えられます。このため、為替市場では、主要通貨に対してドル高になりやすいとみられます。追加関税によって米国の貿易収支が改善するという期待が強まることも、ドル高の動きを後押しすると考えられます。
他方、追加関税の対象となる国の市場では、追加関税措置が株安材料になりやすいと見込まれます。これは、米国向けの輸出の採算の悪化や輸出数量の減少という事態が予想され、これは景気の悪化につながるためです。
米国や追加関税の対象国以外の第三国市場については、米国の長期金利が上昇することによって、通貨安につながる公算が大きいとみられます。株式市場へのインパクトは追加関税措置がもたらす企業業績への影響次第になると見込まれます。増産や生産拠点の新設によって追加関税対象国からの対米輸出シェアを奪うような立ち位置にある場合には株高につながるとみられるものの、対象国向けに部材等を輸出する国である場合は、輸出先の需要の低下が株安につながると見込まれます。
追加関税措置についての分析にあたっては、対象国が米国向けに報復関税措置を採る可能性が高いことも考える必要があります。米国の輸出品に対する対象国の追加関税措置は、その分野の米企業業績に悪影響を及ぼすとみられ、株安材料となります(追加関税以外のトランプ政権の新政策による市場インパクトについては、図表1をご覧ください)。
トランプ政権の追加関税策については、ホワイトハウスが「アメリカファースト貿易政策」についての覚え書で示した貿易政策の枠組みに則って実施されていくとみられます。この覚え書では、①米国の経済や安全保障を損ねる継続的な貿易赤字を調査し、改善するように政府各部門に指示する、➁諸外国による不公正な貿易慣行や為替操作に対応する、➂USMCA(米加墨の貿易協定)を含む貿易協定を米国の労働者・農民・ビジネスを優先するものにする―という原則が掲げられました。トランプ大統領は、すでに、メキシコやカナダへの追加関税率を25%、中国については10%、とする考え方を表明していますが、これらについてはトランプ氏自身が明言しているように、第一弾として2月1日に実施方針が公表される見通しです。
ところで、中国向けの、10%の追加関税率はフェンタニル問題についての考慮だけが念頭にあるものであるとみられます。私は、今後の中国との貿易赤字や中国による不公正な貿易慣行、第1期トランプ政権の時に中国との間で結ばれた米中フェーズ1合意の履行状況をふまえて、さらに追加関税率が引き上げられる可能性が高いと考えています。
一方、トランプ氏は1月21日の段階で、EU(欧州連合)に追加関税をかけることを明言しています。追加関税について実務を担当するのは商務省となりますが、商務長官に指名されたハワード・ラトニック氏が上院の承認を得るとともに、各国・地域に対する米国の方針が固まってから、メキシコ・カナダ以外の国・地域への追加関税率や追加関税の対象品目などが順次公表されていくとみられます。グローバル金融市場は、図表1で示した方向性に沿った形で今後のニュースに反応していくとみられ、引き続き注意をしていく必要があります。
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