米新政権発足を前に揺らぐグローバル市場と日銀
要旨
トランプ氏の政策への懸念と米景気の強さが金融市場を揺るがす
1月20日に予定されるトランプ大統領の就任式を前に、グローバル金融市場のボラティリティーが高まっています。これは、①トランプ大統領が就任以降に、移民制限や他国への追加関税を実施することで、インフレ圧力が強まる可能性があること、➁強めの米景気指標の公表が相次いでいること―が意識されているためです。為替市場では、米雇用統計公表後、ポンド安・ユーロ安となったのに対し、円は逆に対ドルで上昇しました。これは、日銀の1月会合(1月23~24日開催)での利上げ見通しが強まったためと思われます。
日銀の利上げが意識されたことが日本の長期金利上昇に寄与
足元で日本の長期金利上昇が目立っていますが、このことは、日銀による1月会合での利上げの障害にはなりにくいと考えられます。
日銀1月会合―トランプ氏の政策と市場インパクト、円相場の動きが鍵に
①日本経済が足元で堅調さを保っているとみられること、➁1月20日以降に公表されるとみられるトランプ政権の政策が米国経済にとってインフレ的である可能性が高いこと―から、日銀は1月会合において利上げを実施する可能性が高いと見込まれます。ただし、トランプ政権が発表する政策がグローバルでの大幅な株安につながる場合には、日銀は利上げを見送る公算が大きくなるでしょう。
トランプ氏の政策への懸念と米景気の強さが金融市場を揺るがす
1月20日に予定されるトランプ大統領の就任式を前に、グローバル金融市場のボラティリティーが高まっています。米国の長期金利は1月14日には4.792%という、2023年10月以来の高い水準を記録した後、1月15日には4.653%まで再び低下しました。株式市場では、S&P500種指数が1月10日に1.5%下落した後、1月15日には1.8%上昇するなど、振れが大きくなっています。グローバル市場が揺らいでいるのは、以下の2つの理由から、インフレ懸念と、それに対応した、より引き締め的な金融政策の実施への懸念が強まっているためです。
一つは、トランプ大統領が就任以降に、移民制限や他国への追加関税を実施することで、インフレ圧力が強まる可能性があることです。この点は、トランプ氏の大統領選での勝利以降、グローバル金融市場で常に意識されてきましたが、第2期トランプ政権発足を間近に控える中、金融市場での警戒がさらに強まってきたように思われます。
もう一つの理由は、強めの米景気指標の公表が相次いでいることです。注目されていた2024年12月分の雇用統計では、非農業部門の雇用者増加数が25.6万人と、市場予想(ブルームバーグ調べ)の16.5万人を比較的大きく上回る一方、失業率も4.1%と、前月の4.2%から改善しました。当レポートでこれまで注目してきた米国の実質総賃金は、インフレ率についての一定の前提をおくと、前年同月比で2.5%という比較的高い伸びを維持しました(図表1)。平均時給の伸び率は前月比で0.3%と落ち着いているものの、米国の労働市場は数カ月前に多くのエコノミストが想定したほどには冷え込んでいないことが明確になってきました。アトランタ連銀が1月9日時点で算出した2024年10-12月期の実質GDP成長率(前期比年率ベース)についての推計値(GDP Now)は2.7%に達しています。こうした景気の好調さがFRBの利下げについての金融市場の期待を大きく後退させたことが、1月13日における雇用統計公表直後の米株安と米長期金利高につながりました。とはいえ、1月15日に公表された米CPI(消費者物価)統計では、2024年12月におけるコアCPI(エネルギーおよび食品を除くCPI)の前月比上昇率が0.2%と、市場予想の0.3%を下回ったことが明らかになりました。景気が好調であるにもかかわらず、インフレ圧力が弱まっていることが示されたことで、金融市場はやや自信を取り戻し、それが1月15日の米株高・米長期金利低下につながりました。
金融市場におけるFRB(米連邦準備理事会)の利下げ期待も1月に入ってから大きく動きました。金利先物市場が織り込む2025年中の利下げ回数は、2024年12月末時点で1.73回でしたが、これは、雇用統計公表後の1月13日には1.14回に低下したものの、1月15日のCPI統計公表後には1.57回まで再上昇しました。
一方、米国の経済指標を反映する形で、為替市場も揺れています。米雇用統計公表(1月10日)後にポンドとユーロが対ドルで下落したのは、基本的には米国の短期金利見通しおよび長期金利が上昇したことを反映しているとみられます(図表2)。その後、ユーロの対ドルレートはかなり戻した一方、ポンドの対ドルレートは比較的大きく下落したままです。これは、直近の景気指標で英国景気の弱さが目立ってきたことで、イングランド銀行が、今後、より積極的な利下げにふみ切らざるを得ないとの見方が広がってきたことが背景にあります。英国は、景気が悪化する中でもインフレがなかなか落ち着かないという、スタグフレーション的な状況にあり、債券安・ポンド安につながっています。
これに対して、米雇用統計公表後に対ドルレートが逆に上昇したのが日本円でした。日本円の上昇は、米長期金利が上昇し、円安圧力が強まったことが、日銀の1月会合(1月23~24日開催)での利上げにつながるのではという見通しが強まったことによると思われます。米CPI統計公表後にはさらに円高が進行しました。
日銀の利上げが意識されたことが日本の長期金利上昇に寄与
日銀の1月会合における利上げ期待の高まりは、長期金利の上昇にもつながり、1月14日には日本の10年国債金利が2011年4月以来の高水準となる1.248%に上昇しました。米CPI統計公表後の執筆時点(日本時間で1月16日午前9時47分時点)では1.232%へとやや低下したものの、10年国債金利は、2024年末時点の1.085%から14.7bp(ベーシスポイント)上昇したことになります。日本の長期金利の上昇幅がこの程度であれば、それが日銀の利上げにとっての障害になるとは考えにくいでしょう。というのは、同期間に米10年金利が8.8bp上昇したことが影響したとみられるほか、1月16日の執筆時点(午前9時47分)の実質ベースでみた10年国債金利の水準が-0.297%と、まだかなり抑えられた水準にあるためです(図表3)。
日銀1月会合―トランプ氏の政策と市場インパクト、円相場の動きが鍵に
それでは、日銀は1月会合で利上げを実施することになるでしょうか。日銀の氷見野副総裁は、1月14日の講演において、1月の会合では利上げについて議論することを明言しました。私は、従前からの見方通り、その可能性が高いと考えています。第1に、日本経済が足元で堅調さを保っているとみられることがあります。日銀はこれまで、展望レポ-トで示した経済・物価の見通しが日銀の見立て通りに実現していくとすれば、それに応じて、政策金利を引き上げると明言してきました。前回の利上げから半年が経過し、これまでの利上げが日本経済に及ぼす悪影響は限定的であったことが明らかになっています。景気がオントラックである中で、日本経済の先行きについての見通しやその不確実性の度合いに大きな変化がなければ、日銀は現行の政策金利よりもかなり高いと考えられる中立金利の水準に向けて政策金利の引き上げを実施していくことになります。
第2に、1月20日以降に公表されるとみられるトランプ政権の政策が米国経済にとってインフレ的である可能性が高く、米長期金利の上昇やドル高につながるとみられるためです。米国発の円安圧力が生じる場合、日銀にとっては利上げによって円安圧力を和らげるのが最善の道となるでしょう。既に金融市場ではある程度の確率で1月会合での利上げが織り込まれている状況下、仮に日銀が1月会合で利上げを実施しない場合には、さらなる円安が進行するリスクが高まります。日銀としては、この点も考慮する必要があります。
他方、日銀が利下げできないリスクとしては、トランプ政権が発表する政策が米国での大幅な株安につながる場合が挙げられます。グローバルに株安が進行する場合には、日銀が利上げに動く可能性は大幅に低下するとみられます。
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