トランプ政策・米景気についての市場の見方が変化

要旨
追加関税への懸念の弱まりと景気減速懸念で米長期金利低下・ドル安に
足元での米国の長期金利の低下とドル安の背景には、①追加関税によるインフレ押上げ効果はトランプ氏当選時に金融市場が懸念したほどのマグニチュードにはならないとの見方が強まったこと、②米国景気の減速への懸念が強まったこと―があると思われます。
米国株はレンジ圏の動き。欧州株がアウトパフォーム
トランプ政権による追加関税や今後他国・地域と締結されるとみられる「ディール」は、ネットでみると米国株に対してポジティブな影響をもたらすとみられます。しかし、景気の先行きに不透明感が台頭してきたことで、このところの米国株市場はレンジ相場となっています。
追加関税の詳細公表で米長期金利高・ドル高に一時的に振れる可能性
私は、2025年前半中は米国株を軸としたグローバル株式市場がレンジ相場になると見ています。ただ、今後1~2カ月の間は、①トランプ政権が4月初め以降に公表するとみられる追加関税についての詳細が一時的な米長期金利高・ドル高につながるリスク、②米国景気の減速がより強く意識されるリスク―に注意したいと思います。
追加関税への懸念の弱まりと景気減速懸念で米長期金利低下・ドル安に
第2期トランプ政権発足までの米国金融市場では、米国景気が好調を続ける中、追加関税や移民制限によるインフレ押上げ効果が強く懸念され、米長期金利の上昇トレンドが続きました。しかし、トランプ政権発足後の政策はおおむね想定内であり、一部で恐れられていた欧州向けの一律の追加関税徴収などの厳しい政策がすぐには実施されないことが明らかになると、米長期金利は低下に転じました(図表1)。私は、トランプ政権による追加関税政策は貿易赤字削減に向けての最善の方法ではなく、米国としては、米国からの輸出の増額や米国向け直接投資の増額について他国が約束をする「ディール」を締結するための交渉の道具として使っているとの見方をしています(当レポートの2月13日号「過去半世紀の歴史に学ぶ、米追加関税策の本質」をご参照ください。米国側は、ディールの締結に応じない相手国に対しては、追加関税をかけ続けることで貿易赤字の縮小を目指すとみられます)。この見方に立てば、追加関税によるインフレ押上げ効果はトランプ氏当選時に金融市場が懸念したほどのマグニチュードにはならず、限定的となるはずです。米長期金利が緩やかに低下した点は、直近の金融市場がこうした見方に傾きつつあることを示唆していると思われます。

一方、2月中旬から直近までの米長期金利の低下は、主として、米国景気の減速への懸念が強まったことを反映しているとみられます。1月の米国小売統計が市場の想定を大きく下回ったのに続き、ミシガン大学とコンファレンスボードの調査による2月分の消費者信頼感指数が共に悪化するなど、2024年10-12月期まで米国経済を強力にけん引した民間消費の強さに陰りが見え始めました。2月分の米国サービス業PMIが2023年1月以降で初めて業況拡大と縮小の中立水準である50ポイントを下回る49.7ポイントを記録したことも景気への懸念を強めることになりました。こうして、トランプ大統領の就任直前の1月14日に4.793%という直近でのピークをつけた米国10年国債金利は、2月25日には4.284%まで低下しました。
米長期金利の低下は、他の主要通貨に対するドル高の動きを反転させました。ユーロや円、ポンドなど他の主要通貨に対するドル安が進行してきました(図表2)。これらの通貨の中では円の上昇が目立っていますが、これは日銀の1月における金融政策決定会合での利上げや、その後の日銀からのタカ派的な情報発信による部分が大きいとみられます。米国の長期金利の低下と日本の長期金利の上昇によって日米長期金利差が縮小し、円高につながりました。これに対して、ECB(欧州中央銀行)やBOE(イングランド銀行)は直近の会合で利下げを決定したうえ、金融市場では今後も金融政策の緩和が継続するとの期待が強いことから、対ドルでの上昇は円に比べると限定的でした。
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米国株はレンジ圏の動き。欧州株がアウトパフォーム
米国株は、このところ、レンジ相場となっています。トランプ政権による追加関税や今後他国・地域と締結されるとみられる「ディール」は、海外製造拠点を有する米国のメーカーに向かい風となりはするものの、主に米国内で生産活動を行う米国のメーカーや内需型の米国企業の業績にとっては追い風になることが多いとみられ、ネットでみると米国株に対してポジティブな影響をもたらしたと考えらえます。しかし、景気の先行きに不透明感が台頭してきたことが、米国株に押し下げ圧力をもたらしてきました。S&P500種指数はトランプ大統領の就任直前(1月17日)から直近(2月25日)までの間に0.7%下落しましたが、その間のセクター別騰落率をみると、生活必需品が9.3%でトップ、ヘルスケアが6.0%でそれに続きました(図表3)。不透明感が強まる中、デフェンシブ系のセクターに買いが集まったことがわかります。長期金利低下の恩恵を受ける不動産セクターも4.3%と、プラスのリターンを計上しました。

その一方、トランプ大統領の就任前後から好調が目立っているのが欧州株です。ストックス欧州600指数のトランプ大統領の就任直前(1月17日)から直近(2月25日)までの騰落率は5.8%と、S&P500種指数や日経平均株価(-0.6%)を大きくアウトパフォームしています(図表4)。欧州の景気は足元で停滞しており、2024年10-12月期のユーロ圏、英国の実質GDP成長率は、前期比年率ベースで、それぞれ、0.1%、0.4%に過ぎず、直近で公表された2月分のコンポジットPMIは、それぞれ、50.2ポイント、50.5ポイントにいう低水準にとどまりました。しかし、トランプ大統領によるEU(欧州連合)向けの追加関税策が就任後すぐには発動されなかったことや、ECBによる今後の積極的な利下げとそれに伴う景気回復が視野に入ってきたことが、欧州株への追い風になったと考えられます。
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追加関税の詳細公表で米長期金利高・ドル高に一時的に振れる可能性
私は、2025年前半中は米国を軸としたグローバル株式市場はレンジ相場になると見てきました(2024年12月12日発行の当レポート「2025年のグローバル金融市場見通し」をご参照ください)が、現在もその見方を維持したいと思います。ただし、短期的には、グローバル金融市場は2つのリスクに直面する可能性があり、注意が必要です。
第1のリスクは、トランプ政権が4月初め以降に公表するとみられる追加関税についての詳細がもたらす、一時的な米長期金利高・ドル高のリスクです。トランプ政権は、国・地域別の追加関税に加えて、鉄鋼・アルミニウムなど製造業の重要分野についても追加関税を徴収する方針が明らかにしています。重層的な追加関税策の経済的なインパクトを紐解くのは必ずしも容易ではなく、金融市場では、インフレについての不透明感が再び強まり、米長期金利の上昇とドル高、そして米国以外における株安につながる可能性があります。私には、トランプ政権の追加関税に関する米国以外の株式市場における見通しが楽観的過ぎるように思えてなりません。もっとも、その場合でも、各国とディールが締結されるという見方がその後強まった段階で、米長期金利が再び低下し、ドル安の動きに戻ってくるとみています。今後締結されるとみられるディールは、多くのアメリカ企業の業績にプラスになる政策ですので、トランプ政権の政策は、米国株には全体として前向きの動きをもたらすと考えられますが、アメリカ以外の、ヨーロッパや中国、日本といった地域の輸出型企業の業績にはかなりのマイナスとなるリスクがあります。
第2のリスクは、米国景気の減速がより強く意識されるリスクです。これまでに公表された米国の民間消費関連の指標は総じて弱めとなっているものの、2024年10-12月期の米国の民間消費の伸び率が4.2%(実質での前期比年率ベース、以下同様)という、非常に高い水準であったことを忘れるべきではないでしょう。2025年前半の米国の実質民間消費の伸び率についての市場コンセンサスは、1-3月期が2.2%、4-6月期が2.1%であり、足元での民間消費の弱めの統計は、市場コンセンサスに沿った動きであると判断できます。私は、2025年前半の米国の経済成長は、潜在成長率(2%弱)程度まで減速するとみていますが、直近での弱めの経済指標は、私の見方とも整合的な範囲内です。とはいえ、米国についての弱めの景気指標の発表が続けば、経済成長率が実際に潜在成長率を下回って落ち込むリスクが高まります。その場合でも、インフレが現在のようにある程度落ち着いている限りは、FRB(米連邦準備理事会)が追加利下げを早期に実施することで景気浮揚に取り組むとみられます。
以上のポイントは、今後1~2カ月間に金融市場のボラティリティーが大きくなる可能性を示唆しています。投資をする上では、国内外の株式や債券、実物資産(金・不動産など)に適度に分散して投資をすることがさらに重要になると思われます。
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MC2025-023