グローバル・ビュー

中国経済が直面する課題とその政策対応

Invesco Global View
要旨
トランプ政権が対中追加関税措置を実施―対中圧力はさらに強まる公算

トランプ米政権が2月4日より中国からの全ての輸入財に10%の追加関税を課し始めたことで、米中摩擦は新たな段階に入りました。中国は2020年の米中フェーズ1での合意通りに米国からの輸入を増やさなかったことで、トランプ政権は、4月1日以降、より高い追加関税率を中国に課すか、あるいは、対中貿易赤字を減少させるための実効性のある対策を中国側に求めていく可能性が高いと見込まれます。

中国経済が直面する課題

2025年は、トランプ政権による対中政策によって、輸出が相応の打撃を受けるか、あるいは、中国国内で製造する財を代替する形で米国製品の輸入額を増やすことになる可能性が高いとみられます。貿易面での景気押し圧力に、足元での民間消費や不動産投資の弱さが重なり、2025年の中国経済は強い向かい風に直面すると予想されます。

全人代で公表されるとみられる財政刺激策に注目

3月5日に開幕する全人代で公表されるとみられる2025年予算では、消費刺激策やインフラ投資促進策を含む総合的な景気対策が打ち出される見通しです(図表4)。こうした財政パッケージの実施により、中国景気は腰折れリスクを回避し、2025年の中国経済は4%台の実質GDP成長率を達成する公算が大きいと考えられます。一方、財政パッケージの発表による、日本その他の主要先進国市場の株価への効果は限定的と考えています。

 

トランプ政権が対中追加関税措置を実施―対中圧力はさらに強まる公算

 トランプ米政権が2月4日より中国からの全ての輸入財に10%の追加関税を課し始めたことで、米中摩擦は新たな段階に入りました。トランプ政権は、カナダやメキシコ向けの25%の追加関税については首脳会談で譲歩が得られたとして、発動まで1か月の猶予期間を設けました。中国との間でも同様の会談で成果が出るようであれば、追加関税措置をいったん停止する可能性があります。しかし、そうした成果が得られない場合、中国政府は2月10日から対米報復措置として、米国からの石炭や液化天然ガス、大型自動車への追加関税や一部のレアメタルについての輸出規制を導入する意向です。トランプ政権は追加関税を実施する大統領令において、報復措置にはさらに報復措置で対抗する意図を明確にしているため、両国による報復がエスカレートする可能性も否定できません。

 一方、今回の追加関税は、社会問題となっている違法薬物の米国への輸出や不法移民のみを理由に実施された措置であることに注意が必要です。米国にとって対中貿易赤字が他国との貿易赤字の中で最大規模であることを踏まえると、貿易不均衡を是正するために、中国に対して圧力をかけることはほぼ確実です。トランプ大統領は、就任当日にアメリカファーストの貿易政策についての覚え書を発表し、担当閣僚に対し、4月1日までに米国の貿易赤字の背景や他国への追加関税を含む手段による貿易赤字の改善策を提案するように求めました。この覚え書の中で、トランプ大統領は過去に中国と合意した改善策を中国側が合意通りに履行しているかどうかを米通商代表が調査し、適切な対応策を練るように指示しました。米中の貿易についての合意として特に重要なのは、第1期トランプ政権下の2020年1月に締結された米中フェーズ1合意でしょう。このフェーズ1合意において、中国政府は、2020~2021年の2年間における米国からの輸入を2017年比で2000億ドル増やすと約束しました。しかし、実際に中国が増やした米国からの輸入額は178億ドルにすぎませんでした(図表1、2)。この点を踏まえると、トランプ政権は、4月1日以降、今回の追加関税措置だけではなく、より高い追加関税率を中国に課すか、あるいは、対中貿易赤字を減少させるための実効性のある対策を中国側に求めていく可能性が高いと見込まれます

(図表1)米中フェーズ1合意(2020年1月15日署名)のポイントと評価
(図表2)米国の対中貿易収支の推移
中国経済が直面する課題

 中国の2024年における対米輸出額は、5,243億ドルと、中国による輸出全体の14.7%を占めました。これは、中国の2024年のGDPの2.8%に相当する金額でした。米国側から10%の追加関税率を課されたとしても、中国から米国への輸出がすぐに減少するとは考えられませんが、米国側が最終的には10%を大きく上回る追加関税を実施するとみられることを踏まえると、追加関税措置よる中国経済への悪影響は小さくないと考えられます。ベトナムやタイの製造拠点を経由して迂回(うかい)的に米国に輸出される財も少なくないとみられますが、トランプ政権はそうした経路での米国の輸入についても対策を練るとみられます。中国から直接・間接的な米国向けの輸出が減少することや、それがもたらす負の波及効果を踏まえると、今後米国が実施する措置は中国の経済成長率にかなり大きな下押し効果を及ぼすと見込まれます

 2024年の中国経済は5.0%の実質GDP成長率を達成しました。2024年7-9月期、10-12月期の前年同期比での成長率は、それぞれ、4.6%、5.4%でしたが、これに対する純輸出の寄与度は、ぞれぞれ、2.1%ポイント、2.5%ポイントであり、昨年後半に達成した比較的高い水準の経済成長は、輸出の大きな伸びによって支えられていたといえます(図表3)。2025年は、トランプ政権による対中政策によって、輸出が相応の打撃を受けるか、あるいは、中国国内で製造する財を代替する形で米国製品の輸入額を増やすことになる可能性が高いとみられます。そうなると、純輸出による成長への寄与度は2024年よりも低下せざるを得ません。

(図表3)中国:実質GDP成長率の推移

 一方、中国では、昨年後半から、内需、特に民間消費の弱さが目立っています。これは、①不動産価格が値下がりすることで、家計に負の資産効果が働いたことや、②不動産投資の持続的な減少が不動産セクターだけではなく、建設セクター、素材セクター、家電セクターなど多くの分野に下押し効果をもたらすとともに、地方政府職員の減給による地方経済への悪影響を及ぼしたこと、➂それらの結果として、消費マインドが低迷したままであること―などの要素が重なったためと思われます。不動産分野については、中国当局が昨年9月以降に矢継ぎ早に対策を講じてきましたが、住宅の着工面積が2021年初めから減少傾向を続けてきたことで、2025年も不動産投資の減少傾向が続くとみられます。昨年12月に 開催された中央経済工作会議でも、「新規不動産用地供給を合理的に抑制する」方針が打ち出されました。住宅の供給が過剰である点に鑑みれば、これは合理的な政策であると言えますが、不動産投資が短期的に減少を続けることで、2025年も、不動産問題がこれまでと同じような形で中国経済の成長を抑制する公算が大きいと考えられます

全人代で公表されるとみられる財政刺激策に注目

 こうした環境下、中国当局は、2025年には、これまで以上の政策対応を実施する必要があります。中国当局は、すでに、金融緩和政策を実施し、2025年も利下げや法定預金準備率の引き下げを続けるという方針を公表していますが、直面する課題の大きさに対応するには、金融政策だけでは十分でないことは明らかです。中国当局は、これまでに、設備投資の更新支援や消費財の買い替え・下取り補助金政策を実施したほか、基礎年金の受給水準の引き上げ措置を今後実施することを示唆しています。3月5日に開幕する全国人民代表大会(全人代)で公表される2025年予算では、具体的な消費刺激策とともに、従前から続けているインフラ投資の促進措置を含む総合的な景気対策が打ち出される見通しです(図表4)。財政刺激策のサイズは、これからトランプ政権が打ち出してくる対中政策の内容にもよりますが、かなり大規模なパッケージになると予想されます。こうした財政パッケージの実施により、中国景気は腰折れリスクを回避し、2025年の中国経済は4%台の実質GDP成長率を達成する公算が大きいと考えられます。私は、グローバル金融市場は、中国当局による政策パッケージの発表に対して、安堵感を持って受け止めると予想します。ただし、現在の中国では、製造業の主要分野において供給過剰の状況にあるとみられることから、中国の財政パッケージの発表による日本やその他主要先進国の株価へのプラス効果は限定的と考えています

(図表4)中国経済が直面する課題と政策対応

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