日銀は利上げを見送り。先行きのポイントは?
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要旨
日銀は利上げを見送り。短期的には様子見姿勢か
10月30~31日に開催された日銀政策決定会合では、市場予想通り、政策金利が0.25%で維持されました。展望レポートでは、日銀の金融政策の方向性が従前と変わらないことが改めて確認された一方、米大統領選挙などのイベントを前にして、短期的には利上げについて様子見を続ける可能性があることが示唆されました。
衆議院選挙後の政局が金融政策に影響する公算
10月27日に実施された衆議院選挙の結果が日銀の金融政策に及ぼす影響については、日銀にある程度のハト派化圧力がかかるとみられます。2024年12月会合での利上げの後、2025年には1回の利上げを予想します。
米大統領選挙による日銀政策タカ派化リスク
リスクとしては、米大統領選挙の結果として大幅な円安が進行するリスクが重要です。「トリプル・ブルー」(ハリス氏が大統領選挙に勝利するとともに、民主党が上下両院で多数党となる)、あるいは「トリプル・レッド」(トランプ氏が大統領選挙に勝利するとともに、共和党が上下両院で多数党となる)のケースでは、米長期金利の上昇によって大幅な円安が進行するリスクがあります。これが顕在化する場合には、日銀は追加利上げに対して積極化すると見込まれます。
日銀は利上げを見送り。短期的には様子見姿勢か
10月30~31日に開催された日銀政策決定会合では、政策金利が0.25%で維持されました。金融市場では今回の会合で利上げが実施されるという予想はほとんどなく、金融市場の関心は、日銀による今後の金融政策についての考え方が変化するかどうかにありました。これについては、今回日銀が公表した展望レポートにおいて、前回(7月)と同様の、以下の文言が維持されました。
「現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、以上のような(日本銀行が見通すような)経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている」
(カッコ内は筆者による説明です)
この文言は、現在の政策金利が中立金利を大きく下回っているという現状を踏まえて、今後の利上げが必要になるという点を明確に示しているものであり、これによって日銀の金融政策の方向性が従前と変わらないことが改めて確認されたと言えます。日本の労働市場はアベノミクス期以降、構造的にタイト化してきており、その動きは今後も続いていくと見込まれます(この点については、当レポート10月3日号「日本:金融市場から見た石破新政権」の後半部分をご覧ください)。この構造的な変化が賃金上昇を後押しするとともに設備投資の増加をもたらし、内需の持続的な拡大と緩やかなインフレ圧力につながると予想されます(図表1)。こうした日本経済の構造的な変化が、日銀に対して、インフレ対応のための利上げの実施を余儀なくさせていくと考えられます。
ただ、利上げのタイミングとしては、植田総裁は、前回の7月会合時に、米国景気の不透明さを背景として「時間的な余裕がある」と発言する一方、その後の記者会見でも米大統領選挙に伴う不透明感が存在することを事実上、示唆してきました。米大統領選挙が11月5日に実施予定であることをふまえると、今回の会合での利上げが見送られたのは当然といえます。今回の展望レポートには、金融政策運営についての記述に以下の文言が加わりました。
「米国をはじめとする海外経済の今後の展開や金融資本市場の動向を十分注視し、我が国経済・物価の見通しやリスク、見通しが実現する確度に及ぼす影響を見極めていく必要がある」
新たに付け加えられたこの文言は、日銀が利上げについて短期的に様子見を続ける可能性があることを印象付けるものと言えるでしょう。
もっとも、今後の0.5%への政策金利引き上げのタイミングとしては、①米国の主要経済指標の多くのが米景気の足元での堅調を示唆していること、➁今回公表された展望レポートで、日本の景気やインフレについての日銀の見通しに大きな変化がないことが示されたこと(図表2をご参照ください)、➂足元で賃金が緩やかに上昇し、消費に上向く兆候がみられること―を考慮し、12月18~19日に予定されている次回の日銀会合で利上げが実施される可能性が高いという、従来の見方を維持したいと思います。
衆議院選挙後の政局が金融政策に影響する公算
次に、10月27日に実施された衆議院選挙の結果が日銀の金融政策に及ぼす影響について考えてみたいと思います。結論から言いますと、日銀にある程度のハト派化圧力がかかるとみられ、2025年における利上げの回数は、従前に見込んでいた2回ではなく、1回になる可能性が高いとみています。2025年末の政策金利の水準としては、0.75%を予想します。
衆議院選挙で自民党・公明党の与党が過半数の議席を獲得できなかったことで、11月11日に召集される国会では石破内閣は少数与党内閣(政権を担う与党が議会の過半数の議席を獲得していない状態での内閣)となる公算が大きくなってきました。今回の衆議院選挙で議席を減らした石破政権にとっては、2025年夏に実施される参議院選挙で勝利することがこれまで以上に重要になります。この観点から、政府が、景気に対するリスクとなりかねない利上げを慎重に実施するよう、日銀に働きかける可能性があると考えられます。この点をふまえると、日銀による0.75%への追加利上げは2025年夏以降に実施される公算が大きいと見込まれます。
今後、予算や法案を成立させる際には、国民民主党との部分連立に基づく政策調整を行い、その協力を経て成立を図っていくことになると思われます。その場合、国民民主党の協力を得るにあたって同党の提案する政策の一部を実現させる必要が出てきますし、公明党の主張する提案にもこれまで以上に真摯に取り組む必要が出てきます。その結果、財政赤字は、自公政権下と比べて増加する可能性が高いと思われます。2024年10月31日付けの日本経済新聞では、国民民主党が主張する「103万円の壁」の解消策(基礎控除等の合計を現行の103万円から178万円に引き上げることが念頭)の実施には、年間で7.6兆円程度の税収減少につながることが報道されています。公明党も、低所得者向けを軸とした給付金政策の実施を主張しています。
これらの政策は、景気やインフレには押し上げ効果をもたらすとみられることから、株式市場にとっては、株価上昇要因となります。その一方、債券市場では国債需給の悪化とインフレ期待の上昇を通じて長期金利を押し上げる可能性が高いとみられます。仮にこれらの減税・給付金による需要創出効果が小さめであり、一方で、長期金利上昇によって金融環境がタイト化してしまう場合には、日銀が追加利上げを実施しにくくなるリスクがあります。
米大統領選挙による日銀政策タカ派化リスク
以上でふれたメインシナリオに対するリスクとしては、米大統領選挙の結果として円安が進行するリスクが重要です。米大統領選挙は接戦となっており、現状ではその結果を見通すことは困難ですが、「トリプル・ブルー」(ハリス氏が大統領選挙に勝利するとともに、民主党が上下両院で多数党となる)、あるいは「トリプル・レッド」(トランプ氏が大統領選挙に勝利するとともに、共和党が上下両院で多数党となる)のケースでは、米国財政赤字の拡大とそれに伴う米国景気へのプラス効果により、米国の長期金利が上昇し、その結果として為替市場ではドル高円安の動きが強まる可能性が高まります。特に、「トリプル・レッド」の場合は、中国やその他の諸国に追加関税をかけ、それがインフレ率を押し上げるリスクが意識されることで、ドル高円安方向の動きがより強くなると予想されます。大統領選挙の結果、今年6月にみられたような1ドル=160円を超える大幅な円安となる場合には、日銀は追加的な利上げに対して積極的になると見込まれます。
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