グローバル・ビュー

トランプトレード後の日本市場

Invesco Global View

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要旨
日本市場を含めて「トランプ・トレード」から「ノーマル・トレード」への転換点に

米大統領選挙におけるトランプ氏の勝利から約半月が経過しましたが、ここ1週間の間でトランプ・トレードは終盤となり、日本市場も含めたグローバル市場は、企業業績や経済環境に再び焦点が当たる、「ノーマル・トレード」の局面に転換しつつあります。

民間消費の改善が目立った7-9月期GDP

ノーマル・トレードの環境下で重要視されるのが、経済のファンダメンタルズ(基礎的諸条件)の動きです。直近で公表された7-9月期の日本の実質GDP成長率は前期比年率ベースで0.9%と、民間消費がけん引する形で潜在成長率を上回る結果となりました。

2025年における日本市場の方向性

2025年は、労働市場の構造的なタイト化が日本の内需の緩やかな拡大をもたらす1年になると見込みます。日銀は利上げを2025年内に1~2回実施すると予想する一方、ドル円レートは2025年後半に1ドル=145~150円程度の動きを想定します。日本株については、足元までの輸出関連セクターの株価下落がかなり大きかったことからリバウンドの余地があるとみる一方、内需関連セクターについても、今後の内需の成長性が十分に織り込まれていないと考えています。2025年は株価の緩やかな上昇を見込みます。リスクとしては、トランプ政権の追加関税が大きな悪影響を及ぼすリスクに注意が必要です。

 

日本市場を含めて「トランプ・トレード」から「ノーマル・トレード」への転換点に

米大統領選挙におけるトランプ氏の勝利から約半月が経過しました。グローバル市場では、トランプ氏の勝利を織り込む、いわゆる「トランプ・トレード」が活発化しました。トランプ・トレードのうち、グローバル金融市場全体にとって最も重要なのは、トランプ氏が掲げる追加関税、移民制限、減税策によるインフレ圧力を念頭に置いた米長期金利の上昇であったと考えられます。米大統領選挙直前に4.286%であった米10年国債金利は、11月13日には4.452%まで上昇しました。日本におけるトランプ・トレードは、為替市場では、ドル高に伴う円安、債券市場では、米長期金利上昇に連動した日本の長期金利上昇、という形で現れました。円安に対応して日銀が金融引き締め姿勢を強化する、つまり、タカ派化するという期待も日本の長期金利上昇に寄与したとみられます。日本株市場では、全体としてトランプ・トレードは株高という形でインパクトを及ぼしました。大統領選挙直前(11月4日)から執筆時点(11月19日)までの間に日経平均株価は0.9%と若干上昇しました(図表1)。ただ、セクターや個別企業ごとのバラツキが大きく、金利上昇がプラスに作用する金融セクター、米国景気の改善に対する期待が大きい資本財・サービスセクター、米国における原油・ガス増産の恩恵を受けるとみられるエネルギーセクターはこの間に上昇したものの、金利上昇の悪影響が出やすい公益事業セクタ-、不動産セクターのパフォーマンスは比較的低位にとどまり、情報技術セクターの株価も下落しました。

(図表1)日経平均株価のセクター別騰落率(米大統領選挙直前⦅11月4日⦆から直近⦅11月19日⦆まで)

 一方、過去1週間で、米10年国債金利は再び低下しており、執筆時点(11月19日)では4.389%に落ち着いてきました。債券市場だけではなく、株式、為替その他市場の動向もふまえると、グローバル金融市場は、トランプ大統領の勝利と上下両院での共和党の勝利がもたらすインパクトについての織り込みをほぼ終えたとみられます。日本市場も含めたグローバル市場は、グローバルなトランプ・トレードから、企業業績や経済環境に再び焦点が当たる、「ノーマル・トレード」の局面に転換しつつあります

民間消費の改善が目立った7-9月期GDP

 ノーマル・トレードの環境下で重要視されるのが、経済のファンダメンタルズ(基礎的諸条件)の動きです。7-9月期における日本の実質GDP成長率は0.9%(前期比年率ベース、記載がない限り以下同様)と、4-6月期の2.2%は下回ったものの、潜在成長率とされる0.5~0.6%の水準を上回る結果となりました。7-9月期の成長をけん引したのが、民間消費であり、3.6%という、2022年4-6月期ぶりの高水準を記録しました(図表2)。

(図表2)日本:実質GDP成長率の推移

 自動車の生産正常化を背景した耐久財消費の伸びと、非耐久財消費の伸びが民間消費の伸びに寄与しました。8~9月にかけて台風の上陸や南海トラフ地震臨時情報の発表など、消費への向かい風となるイベントがあったにもかかわらず民間消費が比較的高い伸びを達成したことは、インフレが徐々に落ち着きつつある中、春闘での賃上げや夏のボーナス増額による所得の増加によるものであったと評価できます。毎月勤労統計によるフルタイム労働者の1人あたり平均実質所定内給与(共通事業所ベース)の前年同月比伸び率は、9月に0.0%と、2022年1月以降で初めてマイナス圏を脱しました。全労働者ベースでの1人あたり平均実質賃金も、毎月勤労統計のバイアスを取り除くためにインベスコが独自に補正したベースで(計算方法については当レポートの4月18日号「日本:実質賃金の伸びは実はマイナスにあらず?」をご参照ください)、前年同期比0.6%と4カ月連続でプラス圏を維持しており、直近での消費の緩やかな増加をけん引したとみられます。

2025年における日本市場の方向性

 今後についても、労働市場の構造的なタイト化が日本の内需の緩やかな拡大と、その結果としての潜在成長率の底上げにつながっていくと予想されます(図表3)。足元では、少数与党内閣での運営となった石破政権が、国民民主党などの意向を受け入れる形で、財政政策をこれまで以上に積極化させる動きが生じています。こうした積極的財政政策は日本財政の健全化の観点からは望ましいとは言えませんが、特に2025年前半における日本の民間消費にプラス効果をもたらすと見込まれます。内需の持続的、安定的な拡大は基調的なインフレ率の上昇につながっていきます。また、トランプ・トレードで円安方向への動きが強まってきたこともあり、日銀は12月に政策金利を現行の0.25%から0.50%へと引き上げると予想します。2025年については、1回または2回の利上げを見込みます。債券市場では、日銀による政策金利の引き上げや量的引き締め政策の継続、拡張的な財政政策の継続が金利上昇をけん引し、日本の10年国債金利が年末に1.3%に上昇すると予想します

(図表3)日本:労働市場のタイト化がもたらす構造的な変化

 一方、ドル円為替相場では、トランプ・トレードの終了に合わせて円安への動きもストップするとみられますが、短期的には第2期トランプ政権による追加関税等による米国のインフレ上振れリスクが意識される場合、さらに円安に振れるリスクがあることに注意が必要です。ただし、日米の政策金利差の縮小が徐々に注目材料となることで、2025年後半においては、1ドル=145~150円程度の動きになると予想します

 日本の株式市場については、7月11日に日経平均株価が最高値を付けて以降のセクター別の動きをみると、指数全体が9.0%上昇したのに対し、為替の円高方向への動きや半導体需要への極めて強い期待の剥落、米国による中国・日本への追加関税への懸念などによって情報技術セクターが大きく下落、素材、資本財・サービスなどの輸出関連セクターも比較的大きく下落しました(図表4)。一方で、消費の底堅い動きや円高により、消費など内需関連セクターの下落幅は比較的限定的でした。私は、足元までの輸出関連セクターの株価下落がかなり大きかったことからリバウンドの余地があるとみる一方、内需関連セクターについても、今後の内需の成長性が十分に織り込まれていないと考えています

(図表4)日経平均株価のセクター別騰落率(前回ピーク⦅7月11日⦆から直近⦅11月19日⦆まで)

 今後については、2025年に入ってしばらくの間はトランプ政権の追加関税策による悪影響が輸出関連セクター、特に中国ビジネスへのエクスポージャーの大きい銘柄群の株価を抑制するとみられるものの、その具体的な影響が明確になるプロセスで選別的に輸出関連セクターに投資する動きが広がると見込まれます。内需関連セクターについては、2025年の春闘で2024年と同様の比較的大幅な賃上げが達成され、民間消費の緩やかな拡大に向けての道筋がより明確になる段階で、投資する動きが強まるとみられます。また、トランプ政権が日本に対して防衛費の増額を求めるのではないかという見方が強くなっていますが、これによって防衛関連銘柄がさらに注目される可能性があります。

 2025年の日本株のリスクとしては、米国による追加関税や米国の安全保障政策が変更されることに伴うリスクが重要です。特に、第2期トランプ政権による日本・中国など各国への追加関税が、高い水準で幅広い領域において実施されるリスクに要注意です。中国やメキシコに生産拠点を有し、米国向けに輸出する企業にはかなりの負担増になる可能性が高いとみられます。

 

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