フラッシュ・レポート 11月FOMC:ややハト派的
11月6~7日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、市場の事前予想通り、政策金利であるFF金利の誘導目標が25bp(=0.25%)引き下げられ、4.5~4.75%に設定されました。FOMC後の記者会見でのパウエルFRB(米連邦準備理事会)議長の発言は、以下の3つの点でややハト派的な内容であったと解釈されます。
第1は、2025年1月からの第2期トランプ政権の開始による金融政策への影響について、「全く影響がない」と表明した点です。金融市場では、トランプ氏が主張する追加関税や移民制限などの政策について、インフレ的であるとの見方が強く、そうした政策の実施が見込まれる状況下でFRBがどのような形で反応するかに注目が集まっていました。パウエル氏は、立法措置などによって新しい政策が実施されることが決まってからでないと政策に反映できないとしたうえで、現時点では新しい政策についての前提を設けたり、憶測をしたりすることで政策を変更することはない旨を述べました。これは、FRBの政策決定における従前からのスタンスではありますが、その点が確認されたことで、金融市場にとってはややハト派的なスタンスであると受け止められたと考えられます。
第2は、パウエル議長が、景気のダウンサイドリスクが小さくなっていないという評価を明らかにした点です。パウエル議長からは、失業率の上昇は直近でストップしたものの、労働市場は完全には落ち着いておらず、今後ゆっくりと冷え続けるとの見通しが示されました。FRBは足元の景気については「強い」と評価しているものの、今後については、景気の力強さを維持できるように政策金利を引き下げていく必要があるという見方をしていることが明らかになりました。
第3に、「FRBは中立金利に向けての利下げのプロセスにある」との考え方が改めて示されました。
一方、大統領選挙で当選したトランプ氏のアドヴァイザーなどからパウエル議長は辞任すべきという声が出る中、「大統領から辞任を求められれば辞任するか」という質問に対して、パウエル氏は一言、「No」とだけ答え、その意図がないことを明らかにしました。この質問に対する答え方をみると、パウエル氏はかなり不快に思っている様子でした。この質問を発したのは、ポリティコのビクトリア・グイダ記者でしたが、私は、現在の情勢下で誰かがせねばならない質問であったと思いました。パウエル氏のFRB議長としての任期は2026年5月15日まで続きます。
パウエル議長の記者会見で私が面白いと感じたのは、足元での賃金の比較的高い伸び(10月の平均時給の前年同月比での上昇率は4.0%でした)が労働市場の需給のタイトさだけではなく、労働生産性の上昇を反映しているとの見方を披露した点です。直近での4%の賃上げ率はインフレ目標である2%よりもかなり高い水準にあり、それだけをみるとインフレ的にみられてしまいがちですが、生産性の上昇をかなり反映しているとするなら、それは必ずしも企業にとっての過度なコスト増加要因ではなく、その意味ではインフレ促進的ではないと判断できます。その意味では、このパウエル氏の賃金についての見方もハト派的な発言であったと言えるでしょう。
ややハト派的であったFOMCの結果を受けて、米国金融市場では、FRBの利下げに対する期待がやや改善するとともに、大統領選挙の結果を受けて前日に上昇した長期金利が低下に転じました。米国の金利先物市場に織り込まれる2025年中の利下げ回数(1回を0.25%として計算)が前日の2.5回から2.8回へと上昇し、大統領選挙直前(11月4日)の3.0回に近づきました。10年国債金利は前日の4.43%から4.33%へと低下しました。
米国株式市場では、ハト派的なパウエル氏の発言S&P500種指数が0.7%上昇して、最高値を更新しましたが。セクター別にみると、FRBのややハト派的なコミュニケーションを受けて、前日に大きく上昇した金融セクターや資本財・サービスセクターが下落に転じましたが、その一方で、金利低下を受けて不動産セクターや情報技術セクターが上昇しました。
為替市場では、米国の長期金利が低下したことで、日米金利差が縮小し、円高方向の動きとなりました。11月8日午前10時時点では、円高が進行したにもかかわらず日経平均株価が上昇しています。これは、米国だけではなく、追加関税への懸念が残るにもかかわらず欧州株が上昇に転じたことが日本株にもプラスに作用した面が強いと考えられます。
今後、米国市場については、下院選挙が共和党の多数派を維持できる場合には、第2期トランプ政権のもとでの減税延長に対する期待が高まることで、短期的に株高・長期金利高に振れると考えられ、その場合には、円安を通じて日本株にも恩恵が及ぶと見込まれます。一方、共和党が下院での多数派の維持に失敗する場合には、米国の長期金利や主要株価指数の上昇はいったんストップする可能性が視野に入ります。
ご利用上のご注意
当資料は情報提供を目的として、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社(以下、「当社」)が当社グループの運用プロフェッショナルが日本語で作成したものあるいは、英文で作成した資料を抄訳し、要旨の追加などを含む編集を行ったものであり、法令に基づく開示書類でも金融商品取引契約の締結の勧誘資料でもありません。抄訳には正確を期していますが、必ずしも完全性を当社が保証するものではありません。また、抄訳において、原資料の趣旨を必ずしもすべて反映した内容になっていない場合があります。また、当資料は信頼できる情報に基づいて作成されたものですが、その情報の確実性あるいは完結性を表明するものではありません。当資料に記載されている内容は既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。当資料には将来の市場の見通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における作成者の見解であり、将来の動向や成果を保証するものではありません。また、当資料に示す見解は、インベスコの他の運用チームの見解と異なる場合があります。過去のパフォーマンスや動向は将来の収益や成果を保証するものではありません。当社の事前の承認なく、当資料の一部または全部を使用、複製、転用、配布等することを禁じます。
MC2024-138