米国経済の「ブラウンシュート」に目を光らせる

〔要旨〕
- 「ブラウンシュート」:経済が減速する兆しを表す「ブラウンシュート」が見られ始めている
- 企業の懸念:最近の決算説明会では、デルタ航空、ダラー・ジェネラル、メイシーズ、コントール・ブランズが消費について懸念を表明
- いくつかの良い材料:欧州の消費者心理と株価の改善は、ポジティブ・サプライズと可能性の高まりを反映
市場の調整
高まる景気後退の可能性
いくつかの良い材料
今後の展望
注目の日程
2009年の春から夏にかけて、私は多くの時間をかけていわゆる「グリーンシュート」(深刻な不況に陥った経済が回復を始めた兆し)を探していたことを覚えています。それを見つけようと、必死で探したものです。(その後実際にその兆しが見つかり、ゆっくりではあるものの長い回復期間に入りました。)今私は、「ブラウンシュート」(経済が減速し始めている兆候)を探しています。今回はむしろ見つからない方が良いと思っているので、必死にではなく気乗りしないながらも探しているという状況ですが、景気後退は政策の誤りによって引き起こされるものには違いないので、油断せずこれらに目を光らせる必要があります。
いくつかのブラウンシュートが見られつつあります:
- アトランタ連銀のGDPNowでは、第1四半期の成長率予想は依然としてマイナスとなっており、GDP成長率は年率マイナス2.4%と予測されています1。ただし、今後数週間のうちに多くのデータの発表が控えており、予測は大幅に修正される可能性があります。
- 米国の消費者信頼感指数は引き続き低下しています。3月のミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)は2月から大幅に低下して57.9となり、2022年11月以来最も低い水準となりました。期待指数は54.2となり、前月比で15.3%低下、前年同月比で30%低下しました2。これは2022年7月以来最も低い水準でした。これらは、似たような内容だった直近の米国コンファレンスボード消費者信頼感指数に続いて出たデータでした。
- NFIB中小企業楽観指数は低下したものの、依然として長期の歴史的水準は上回っています3。
- 2月の米国小売売上高は予想を下回り、1月の同売上高は大幅に下方修正されました4。
おそらく最も懸念されるのは、企業から聞かれる声でしょう:
- デルタ航空は先週、規制当局への報告の中で、「マクロ経済の不確実性の増大による消費者および企業の信頼感の低下が国内需要の軟化につながり、見通しに影響を与えている」と警告しました5。
- コントール・ブランズのCEOのスコット・バクスター氏は、決算説明会で消費者について次のように述べました。「彼らの立場に立って考えてみてください。仕事がどうなるか、自分の会社がどうなるかと心配し、人員削減や関税など、現在起こっている出来事の影響を受けることを懸念しています。消費者はこのように、少しでも攻撃されている感覚を抱くことがあれば、 常に非常に節約的になります。そして私は、今この国では、不安に起因するそうした消費者の節約主義が見られていると考えます6。」
- 低所得世帯を主な顧客層とする大手小売チェーンのダラー・ジェネラルは、自身の顧客層が、高インフレと経済的不確実性から苦境に陥っていると述べました。「当社の顧客の多くは、基本的な必需品を買うお金しかないとしており、中には必需品でさえ買えないことがあったという顧客もみられました7。」
- メイシーズのCEOのトニー・スプリング氏は、直近の決算説明会で、プレッシャーを受けているのは低所得世帯だけではないと警告しました:「メイシーズで買い物をしている富裕層の顧客も、現在起こりつつある状況に対して同じように不安を抱き、困惑し、懸念していると思われます8。」米国の富裕層の消費者は、少なくとも部分的に支出を減らしていますが、これは大幅な株式市場の下落によるものです。株価の下落は、歴史的にみると、保有資産について認識に影響を及ぼすとともに(「資産効果」)、消費支出にマイナスの影響を及ぼしてきました。
市場の調整
先週、一時的に調整局面に入ったS&P 500種指数に注目が集まりましたが、ラッセル2000種指数はピークからより大幅に下落しています。金曜日時点で、ラッセル2000種指数は2024年11月のピークから16%以上下落しており、弱気相場の領域に危険なほど近づいています9。小型株は一般的に大型株よりも景気サイクルに対する感応度がはるかに大きいため、この大幅な下落とそれが発するメッセージには注意を払うべきでしょう。
高まる景気後退の可能性
先日述べたように、景気後退が既定路線であるとは言えません。 その可能性が日々高まり、ブラウンシュートがさらに多く見られつつあるとはいえ、景気後退が現実のものとなるには程遠い状況です。 現時点ではブラウンシュートの海になっているとは到底言えません。 景気後退は、経済にマイナスに働く政策をやめることでまだ回避できると考えられます(前回のレポートで述べたとおりです)。
いくつかの良い材料
好材料としては、変化が機会を生み出し得ること、大きな変化は大きな機会を生み出し得ることです。各国の国防費増強に伴い、欧州で財政政策の影響が強まっているとお話ししました。欧州では消費者心理の改善さえ見られており、ユーロ圏景況感指数が2月に96.3まで上昇し、5か月ぶりの高水準となりました10。今後6か月間の投資家見通しは大幅に上昇しており、非常に心強い状況です11。ドイツの景況感も改善しており、2月の連邦議会選挙の結果を踏まえると、さらに改善する可能性もあります12。私は、ポジティブ・サプライズと改善への可能性が欧州株のパフォーマンスに引き続き影響を与えると予想しています。これは、分散投資の重要性について再確認させてくれるものです。
地政学的、経済的な変化は、金など他の資産クラスにも機会を生み出す可能性があります。金は先週、1オンス3,000ドルの大台を突破し13、「不確実性」自体が今の環境下では数少ない「確実性」の1つとなっていることから、さらに上昇する可能性が高いと考えられます。
今後の展望
今週の最も重要な発表は、米連邦公開市場委員会(FOMC)の「ドットプロット」でしょう。これは、米国経済とFF金利に対するFOMCメンバーの予想について示唆をもたらすものです。FRBは当面は金利を据え置くとみられますが、ドットプロットによって、今年中に利下げがあるか、またそれはどの程度か「推定」せざるを得なくなります。多くのことが宙に浮いている状況で、彼らの予想がどうなるか興味深いところです。私は、今年中に数回利下げがあるとの見方を維持しています。財政政策の逆風がこれほど強く吹く中で、米国にとってプラスのサプライズが期待できる数少ない分野の1つが、FRBが今年中に何らかの緩和を行うかもしれないという点であり、これは重要となります。
今週は、2025年も大幅な賃上げが見込まれる春闘の直後に日銀会合が予定されています。長期国債利回りが上昇しており、日銀が今回会合で利上げを決定する可能性が高まっていることを示唆しています。もし利上げが決定されれば、日本経済への信認を深めるイベントとして前向きに捉えられると考えられます。今週は、イングランド銀行とスイス国立銀行の会合も予定されており、両行が自国経済と世界経済をどのように評価するのか興味深いところです。
注目の日程
公表日 |
指標等 |
内容 |
---|---|---|
3月17日 |
米国小売売上高 |
小売セクターの健全性を示す |
3月17日 |
米国NAHB住宅市場指数 |
米国住宅市場の健全性を示す |
3月18日 |
ユーロ圏ZEW景況感指数 |
今後6カ月間のユーロ圏の景況感を測定 |
3月18日 |
カナダCPI |
インフレの動向を追跡 |
3月18日 |
日銀金融政策決定 |
金利の道筋に関する最新の決定を発表 |
3月19日 |
ユーロ圏CPI |
インフレの動向を追跡 |
3月19日 |
FOMC金融政策決定 |
金利の道筋に関する最新の決定を発表 |
3月19日 |
オーストラリア失業率 |
労働市場の健全性を示す |
3月20日 |
英国失業率 |
労働市場の健全性を示す |
3月20日 |
スイス国立銀行金融政策決定 |
金利の道筋に関する最新の決定を発表 |
3月20日 |
イングランド銀行金融政策決定 |
金利の道筋に関する最新の決定を発表 |
3月20日 |
米国中古住宅販売件数 |
住宅市場の健全性を示す |
3月20日 |
英国GFK消費者信頼感指数 |
英国の経済活動に対する消費者信頼感を 測定 |
3月21日 |
カナダ小売売上高 |
小売セクターの健全性を示す |
3月21日 |
ブラジル連邦税収 |
政府のプログラムやサービス資金を賄う |
-
1.
出所:アトランタ連銀 GDPNow、2025年3月6日
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2.
出所:ミシガン大学消費者調査、2025年3月14日
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3.
出所:NFIB中小企業楽観指数、2025年3月11日
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4.
出所:米国国勢調査局、2025年3月17日
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5.
出所:“Delta cuts its once-rosy outlook. Here's what's worrying the airline”、モーニングスター、2025年3月10日
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6.
出所:“Consumers ‘Under Attack’ Are Pulling Back, Lee Maker Says”、ブルームバーグL.P.、2025年2月25日
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7.
出所:“Wildly popular US discount chain with 20,000 stores announces mass closures as retail apocalypse spreads”、デイリー・メール、2025年3月14日
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8.
出所:“Macy’s sounds yet another alarm on consumer spending”、ザ・ストリート、2025年3月7日
-
9.
出所:ブルームバーグL.P.、2025年3月14日
-
10.
出所:欧州委員会、2025年2月28日
-
11.
出所:センティックス、2025年3月10日
-
12.
出所:ドイツZEW景況感指数、2025年2月18日
-
13.
出所:ブルームバーグL.P.、2025年3月14日
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