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米国株式市場が下落する中で欧州株式市場は上昇

米国株式市場が下落する中で欧州株式市場は上昇
〔要旨〕
  • ドイツの支出:防衛及びインフラ関連支出の大幅な増加を目指す計画が、低迷する製造業セクターに魅力的な経済的利益をもたらす
  • 米国の歳出削減:米国は、「政府効率化省(DOGE)」の取り組みにより大幅な歳出削減を行っている模様
  • 景気後退の可能性:アトランタ連銀のGDPNowの指標では、第1四半期の米国経済成長率の驚くべき後退が示唆されており、現在年率マイナス2.8%と予測されている
ドイツは防衛・インフラ関連支出の大幅な増加を計画

米国は政府支出の削減を優先

米国の景気後退の可能性が高まっている

このトレンドは続くか?

今後の展望

注目の日程
 

これまでのところ、2025年の市場パフォーマンスには大きな変化が見られます。昨年23.4%のリターンを記録したMSCI米国指数は、今年に入ってからわずか1.22%しか上昇していません1。それとは反対に、欧州指数は昨年は小幅な上昇に留まったものの、今年に入ってから相対的に力強い上昇を見せています。例えばMSCIフランス指数は、昨年はマイナスリターンとなりましたが、今年に入ってから2桁の伸びを記録しています1。こうしたトレンドの背景には何があるのでしょうか? 以前にも述べたとおり、欧州株のアウトパフォーマンスの主な要因は4つ挙げられます。

  • ユーロ圏の金融政策が今後、米国の金融政策に比べて緩和的となると予想されること。
  • 米シティグループのエコノミック・サプライズ指数が示すように、ユーロ圏でプラスの経済サプライズがみられ、米国でマイナスの経済サプライズがみられたこと。
  • 収益モメンタムは、ユーロ圏でマイナスではあるものの改善傾向にある一方で、米国では改善がみられていないこと。
  • バリュエーションは、ユーロ圏で比較的低いものの、米国で(実質的に完璧あるいは完璧に近い価格付けがされており)非常に高くなっていること。

 

ドイツは防衛・インフラ関連支出の大幅な増加を計画

これら4つの要因に加え、ドイツは先週、(政治的にも経済的にも世界にとって極めて重要な転換点となる)重大な発表を行いました。次期首相と目されるフリードリヒ・メルツ氏が、防衛及びインフラ関連支出を大幅に増やす計画を発表しました。これは近年、経済に支障を来すほど財政健全性の維持に焦点を当ててきた同国の姿勢を180度転換するものと言え、同国の姿勢の変化を示しています。

ドイツの連立新政権は、今後10年間で防衛及びインフラに最大1兆ユーロを支出するため、同国の歳出赤字の上限を大幅に変更する見込みです2。これは米国の政策を受けて実施されるものですが、同時にドイツ経済の主要な問題に対処し、魅力的な経済的利益をもたらすものでもあります。ドイツの製造業は、ここ数年低迷していました。私も昨年顧客から、ドイツがいつか、かつての強い製造業を取り戻すことはあるのだろうかという質問を何十件も受けました。しかし、米欧関係がこれほど急速に悪化し、ドイツや他の欧州諸国がこれほど素早くそれに反応するとは、ほとんどの人が予想していなかったことでしょう。

ドイツだけではありません。多くの欧州諸国が、米国の長年の同盟国からの離反に触発されました。今週、欧州連合(EU)の首脳らは、軍事予算の迅速な増強のためEUレベルの財政制約を解除する方法を決定するべく、木曜日に緊急会合を開催する予定です。欧州各国は迅速かつ大胆に行動しており、市場はこれを重要な転換点―ドイツ再統一以来の最も地殻変動的な変化―と受け止めています。メルツ氏が、マリオ・ドラギ前ECB総裁がかつて用いた「何でもやる(whatever it takes)」との表現を用いたのは、偶然ではないでしょう。先週当然のことながら、ドイツ10年物国債利回りは0.3%も上昇し、1990年以来最大の上昇幅となりました1
 

米国は政府支出の削減を優先

一方米国は、政府効率化省(DOGE)の取り組みを通じて劇的に支出を削減しているようです。市場は関税に注目しているようですが、私は劇的な政府支出の削減の方が、米国経済にとってより大きな脅威だと考えています。財政赤字削減のために支出削減が必要なのは確かにせよ、ここまで急速かつ強硬な削減が実施されるとはほとんど予想されていなかったのではないでしょうか。雇用が失われ、支出が1ドル削減されるごとに経済全体に影響が及ぶことから、これは米国経済にとって非常に厄介な問題となり得ます。

私はこれを、強力な「逆乗数効果」と捉えています―政府支出を1ドル削減すると波及効果が生じ、経済全体で支出の減少につながります。その影響の大きさは、削減される政府支出の種類によって異なります。乗数効果の高い分野の政府支出―例えば低所得世帯への給付金など―を削減すると、乗数効果の低い分野の政府支出を削減するよりも経済へのマイナスの影響は大きくなります。低所得世帯は給付金の一部を貯蓄に回すより、全てを支出する可能性が高いと考えられるため、このような給付金の乗数効果はより高くなるというわけです。言い換えれば、他の条件が全て同じであれば、低所得世帯への給付削減は、例えば部分的に貯蓄に回る可能性が高い高所得世帯への減税よりも、米国経済に大きな影響を与えるはずだということです。削減が行われているという事実のみならず、削減が行われる分野についても注意して見ていく必要があります。
 

米国の景気後退の可能性が高まっている

このように、欧州/米国の株式市場のパフォーマンスの変化は、財政政策の変化によって増幅される可能性が高いと考えられます。そしてこのような財政政策の変化により、今年、米国が景気後退する可能性が大幅に高まっています。

アトランタ連銀のGDPNowの指標では、第1四半期の米国経済成長率の驚くべき後退が示唆されており、現在年率マイナス2.8%と予測されています(ただし、今四半期中にこの指標が何度も修正されるのは間違いないでしょう)3

政府支出の削減は既に雇用に影響を与えています。人材サービスのチャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスは先週、2月の米雇用主による人員削減が245%増の17万2017人に達したと発表しました。これは、米国が新型コロナウイルスによるシャットダウンの渦中にあった2020年7月以来の高水準です4

また、先週発表されたFRBのベージュブックから得られたフィードバックも見逃せません5

「回答者は、今後の見通しについて不確実性が著しく高まっていると指摘し、様子見の姿勢が広く見られるとした。移民政策の厳格化による労働供給の減少、関税によるコスト増、政府支出の減少が経済活動への逆風として挙げられ、他方で潜在的な規制緩和や法人税減税が追い風とみなされた。」

「製造業の回答者からは、石油化学製品からオフィス機器まで、迫り来る貿易政策の変更がもたらす潜在的な影響について懸念が表明された。」

「このセクターの回答者の中には、関税が木材やその他の材料価格に及ぼす影響について懸念を示す者もいた。」

「連邦政府の政策変更が経済にどのような影響を及ぼすかが不透明なため、雇用に踏み切れないとする回答者もいた。」

「南カリフォルニアのあるサービス業の回答者は、ビジネスおよび団体旅行の件数に顕著な減少がみられる。連邦政府の補助金制度の変更の影響を受けた団体による出張のキャンセルが相次いでいると報告した。」
 

このトレンドは続くか?

景気後退の可能性は大幅に高まっているものの、米国経済が景気後退に陥るかどうか判断するに足る情報は今のところありません。今後の政府支出削減の度合に左右されるところが大きいでしょう。景気後退は、既定路線とは言えません―今のところは。

とはいえ私は、欧州株式市場が米国株式市場をアウトパフォームする傾向は、今年続くとみています。今後、各国の財政政策の変化が重要な要因となるでしょう。 今後の展開に注目してまいります。
 

今後の展望

カナダ銀行は今週会合を開催し、再び利下げを実施するかどうか決定する予定です。 現行の米国連邦政府予算は3月14日分までしか成立していませんので、政治的に分裂しつつある米国議会において、これが延長されなければなりません。その過程で、政府機関の閉鎖や、もちろん短期的な不確実性及び不安定性が生じる可能性があります。また、防衛費の増加分を賄うために歳出赤字の上限を引き上げる欧州首脳陣の取り組みにも注目したいと思います。米国の消費者物価指数(CPI)のデータも発表されますが、米国では成長への懸念がより大きくなっていることから、インフレ懸念は現時点で二の次だと言えるでしょう。

不安を煽り、胃の痛くなるようなニュースの見出しにも、落ち着いて分散投資を心がけ、ご自身の投資の時間軸を常に念頭に置きましょう。
 

注目の日程

公表日

指標等

内容

 3月10日

日本景気先行指数

消費者心理や求人状況などのデータ報告に
基づいて日本の経済見通しを測る

 3月10日

ユーロ圏センティックス投資家
信頼感指数

ユーロ圏の投資家心理を追跡

 3月10日

ドイツ鉱工業生産指数

鉱工業セクターの経済の健全性を示す

 3月10日

日本国内総生産

地域の経済活動を測定

 3月11日

ナショナル・オーストラリア銀行
企業景況感指数

オーストラリアの現在の景況を評価

 3月11日

米国NFIB中小企業楽観指数

米国の中小企業の健全性を示す

 3月11日

ブラジル鉱工業生産指数

鉱工業セクターの経済の健全性を示す

 3月12日

米国 CPI

インフレの動向を追跡

 3月12日

ブラジルインフレ率

インフレの動向を追跡

 3月12日

カナダ銀行金融政策決定

金利の道筋に関する最新の決定を発表

 3月13日

ユーロ圏鉱工業生産指数

鉱工業セクターの経済の健全性を示す

 3月13日

米国PPI

モノ・サービスの生産者に支払われる
価格変化を測定

 3月14日

英国鉱工業生産指数

英国の鉱工業セクターが所定の期間に
生産したモノの総額を測定

 3月14日

英国国内総生産

地域の経済活動を測定

 3月14日

ミシガン大学消費者調査

消費者心理とインフレ期待の指標を提供

  • 1.

    出所:MSCI、2025年3月7日、MSCIスペイン指数のリターンは18.13%、MSCIイタリア指数のリターンは13.97%、MSCIドイツ指数のリターンは13.40%、MSCIフランス指数のリターンは10.26%、MSCI英国指数のリターンは8.39%。指数のパフォーマンスは(配当及び金利を除く)価格リターンに基づく

  • 2.

    出所:ユーラクティブ、”Germany poised to commit €1 trillion for defence and infrastructure in stunning reversal“、2025年3月4日

  • 3.

    出所:アトランタ連銀GDPNow、2025年3月3日

  • 4.

    出所:チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス、チャレンジャーレポート、2025年3月6日

  • 5.

    出所:FRBベージュブック、2025年3月5日

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MC2025-028