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政府債務とインフレの話題がハイライトとなったせわしない週

政府債務とインフレの話題がハイライトとなったせわしない週
〔要旨〕
  • ダボス会議からのニュース:世界経済フォーラム年次総会では、政府債務に関する議論が焦点となり、金利上昇の影響に光が当てられた
  • トランプ政権:トランプ大統領2期目の最初の週は、関税と移民政策が大きな焦点となり、インフレをめぐる懸念が高まった
  • 日銀:日銀は、半年前に実施した利上げの影響を見定めた上で、1月会合で再び利上げを決定した
ダボス会議では債務をめぐる議論で金利が焦点に

移民と関税に焦点を当てたトランプ政権の2期目が開始

日銀が利上げを決定

中国の製造業・サービス業データ

今週はAI関連株の「ディープスケア(大いなる恐れ)」で幕を開けた

今後の展望

注目の日程
 

先週は、様々な情報が引きも切らなかった週でした。わずか数日の間に、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)、日銀金融政策決定会合、そしてドナルド・トランプ米大統領の就任式があり、就任式直後から、大統領令、政策発表、関税引き上げの脅しなどが矢継ぎ早に出されました。毎日四六時中多くの出来事があったため、全ての展開を追うのは困難でしたが、ハイライトは以下のとおりです:

 

ダボス会議では債務をめぐる議論で金利が焦点に

私にとって、ダボス会議で最も重要な議論は、政府債務に関するものでした。国際通貨基金(IMF)のギータ・ゴピナート筆頭副専務理事は、政策当局や投資家が「楽観主義バイアス」によって、政府債務の増加について本来抱くべきレベルの懸念を抱くに至っていないと主張しました。以前にも述べたように、政府債務の規模だけでなく、政府が最近直面している(ここ数年の積極的な引き締めによる)比較的高い金利水準も問題です。そのため、債務返済コストがはるかに高くなり、財政赤字につながっています。

その一例が、英国の財政状況です。先週、英国の先月の公的部門純借入額が178億ポンドとなったことが明らかになりましたが、これは英国予算責任局が予測した146億ポンドをはるかに上回るものでした1 。この差は主に借入コストの上昇によるものです。実際、英国政府債務の利払い費は12月に83億ポンドに達し、歴史的に見ても非常に高い水準となりました。米国を始めとする多くの国々でも似たような状況となっており、金利の上昇により、長年蓄積してきた問題が悪化しつつあります。

我々はこの問題を解決しなければならないところまで、近づきつつあります。多くの圧力を和らげる簡単な方法の1つは、もちろん金利の引き下げがあります。そしてまさにトランプ大統領は先週、政策提唱の中で、米連邦準備理事会(FRB)への即時利下げ要求を行いました。
 

移民と関税に焦点を当てたトランプ政権の2期目が開始

利下げ要求以外では、トランプ政権の就任後数日間のヘッドラインとしては以下のようなものがあります:

  • トランプ大統領は、関税徴収を目的とした外国歳入庁を設立し、国際的な課税ルールへの米国の参加を停止する大統領令に署名しました。
  • トランプ大統領はまた、カナダとメキシコが米国の移民政策に従わない場合、2月1日までに関税を課すと警告しました。
  • トランプ政権は強制捜査により移民の送還活動を強化したことが注目を集めました。
  • トランプ政権は、人工知能(AI)インフラに今後4年間で5000億ドルの投資を約束する大型AI開発計画「スターゲート」プロジェクトを発表しました。既に1,000億ドルが投入されたとの報道もありますが、この資金がどこから来るのかについては疑問が残っています。イーロン・マスク氏はこのプロジェクトの資金調達について懐疑的な見方を示しましたが、プロジェクトに対する市場の反応は小幅な上昇に留まり、同氏の見方も熱意を冷ます一因となったかもしれません。

また先週は、ミシガン大学消費者調査の1月の確報値が発表され、インフレ期待が大幅に上昇したことを示しましたが、関税や移民政策への注目が集まっていることから、これに驚きはありません。以前にも申し上げたように、私は関税よりも、積極的な移民政策がインフレに与える影響の方をはるかに懸念しています。食料品価格の上昇が、強制送還の潜在的な影響として挙げられていますが、他の産業、特に建設業やヘルスケア産業にはより大きな悪影響が及ぶ可能性があります。

建設業を例にとると、住宅の需給不均衡(及び粘着的な家賃インフレ)から、非常に重要な産業と言えます。最近のカリフォルニアのひどい山火事のように、自然災害の影響を受ける州ではなおさら重要で、再建が建設労働需要に大きな影響を及ぼすと考えられます。建設労働者の約13.7%が不法就労者と推定されており、これは大量送還が実際に行われた場合、建設労働力の縮小リスクがあることを意味しています2 。ライス大学のベーカー公共政策研究所は、建設業の労働力需要は既に供給を上回っており、その主な要因は移民の少なさにあると指摘しました。同研究所は、この不均衡の是正のため、建設ビザを通じた合法的な移民経路の確立など、多くの政策措置を提唱しています3

大局的な観点で、労働市場でディスインフレが牽引されるには、労働供給が需要を上回るペースで拡大する必要があります。不法移民を含めた移民への依存度の高い多くの産業においてその可能性が低いと思われることから、懸念が高まるのも頷けます。
 

日銀が利上げを決定

また先週、日銀は金融政策決定会合で、大方の予想通り政策金利を0.25%から0.5%に引き上げることを決定しました。これは17年ぶりの高い水準です。

今回の利上げの背景には、主に4つの理由があります:

  1. 現在の日本の経済状況が利上げを必要としていたということです。日銀ははっきりと、経済が成長率と物価の見通しに沿って推移すれば、それに応じて政策金利の引き上げを継続するとしてきました。先週発表された最新の展望レポート(「経済と物価情勢の展望」)において、実質国内総生産(GDP)成長率とインフレに関する日銀の見通しは、2024年10月の同レポートの内容をほぼ踏襲したものとなりました。特に、2025年度と2026年度のコアコアCPI(生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価指数)の見通しはいずれも2.1%とされ、2025年度については1.9%との見通しから若干上方修正されました4 。また春闘交渉を前に、一部の大手企業が大幅な賃上げの意向を示したことも、経済見通しの不確実性の軽減に役立ちました。経済が見通しに沿って推移しており、1.0%-2.5%のレンジ内にあるとされる名目中立金利に対して、政策金利が大幅に下回っていることから、日銀は先週利上げを決定したと思われます。
  2. 11月の米大統領選でトランプが勝利したことを受け、米ドルは他の主要通貨に対して上昇しました。しかし2025年に入ってからは、主に1月の日銀金融政策決定会合における利上げ決定への市場の期待感から、ドル、ユーロ、ポンドなどの主要通貨に対して総じて円高が進みました。もし日銀がこの会合で予想通り利上げを決定していなければ、円安が大きく進み、個人消費にマイナスの影響を与えた可能性があります。
  3. 前回の利上げ(7月)から半年が経過しており、利上げの影響を見極めるには十分な期間が経っていました。日銀は30年以上にわたり、累積で0.5%以上の利上げをしたことがなかったため、7月の利上げ後の利上げ決定には慎重な評価と熟慮が必要だったことに留意する必要があります。
  4. 先週は、トランプ政権が発足して矢継ぎ早に様々な政策を公表しましたが、金融市場の混乱は見られませんでした。追加関税などのトランプ大統領の政策が世界的な株安につながっていたとすれば、日銀は利上げの決定が難しかったでしょう。しかし、そのような事態は起こらず、日銀は利上げに踏み切ることができました。

利上げは広く予想されていたとはいえ、日銀がインフレ見通しを上方修正したことで、日銀の政策スタンスがよりタカ派的となることへの市場の懸念は高まったようです。円高が進み、日本の10年物国債利回りが上昇しました。

今後については、日銀は引き続きデータに基づいて判断し、利上げのタイミングは経済、インフレ、円相場の見通しによって決まると考えられます。日本経済は、内需主導でゆるやかに拡大を続けると思われます。私たちは、今回の利上げの効果を見極めるのに十分な期間(おそらく3-6ヵ月程度)の後に、更なる利上げに向けた環境が整うと予想しています。ただし、今夏には参議院選挙が予定されており、実際の次回利上げ時期は2025年秋になると予想されます。日銀は2025年に更にもう1回の追加利上げを実施する見通しですが、春季労使交渉での賃上げや今後の経済、インフレ見通し次第では、2回の追加利上げも選択肢となり得ます。
 

中国の製造業・サービス業データ

中国当局による購買担当者景気指数(PMI)も発表されました。製造業、サービス業ともにPMIは12月から1月にかけて低下しました。第4四半期が好調だっただけに、この減速はほんの一時的なものと思われます。私は、政策的支援が強化されていくにつれ、今後数カ月の間に成長が再加速する可能性が高いと予想しています。
 

今週はAI関連株の「ディープスケア(大いなる恐れ)」で幕を開けた

先週の出来事だけでは物足りなかったかのように、今週は中国のAI企業「ディープシーク」が、これまで必要と考えられてきた高度なチップを必要としないAIモデルの開発方法を発見したとのニュースで幕を開けました。このモデルは、(コード生成など)いくつかの顕著な弱点はあるものの、現在市場に出回っているトップクラスのAIモデルに匹敵する性能を示したと報告されています。モデル開発に使用された学習データが、他のAI企業の先行的成果の恩恵を受けていると強調し、懐疑的に見る向きもあります。それでも、ディープシークの発表を受け、1月27日月曜日に米国のAI関連株は急落しました。

これは、バリュエーションが高いことの危険性を示しています。完全な、あるいはほぼ完全に近い価格付けがなされている株は―たとえ詳細がほとんど明らかになっていないニュースを受けてであっても―大きく売られやすいのです。現時点で分かっていることがほとんどないため、条件反射的に反応すべきタイミングではないことは、強調しておかねばなりません。これが米国のAI企業にとって深刻な脅威となるかどうか、またAIがはるかに低コストで活用可能となる大きな機会となるかどうか、判断するにはもっと多くのことを知る必要があります。私たちは、これが企業のAI投資支出へのより綿密な精査を促す可能性があると考えています。
 

今後の展望

先週は様々な出来事があったにもかかわらず、株価は上昇し、ボラティリティは低下しました。また興味深いことに、まだ1月下旬ではありますが、今年に入ってから欧州株が米国株をアウトパフォームしています5 。欧州中央銀行(ECB)が今年大幅な緩和を実施する可能性があることから、この状況は続くと考えられます。今週は、マイクロソフト、テスラ、アップル、メタ・プラットフォームズなどの大手テクノロジー企業の決算発表があることから、AIをめぐる議論もまだまだ続きそうです。旧正月が間もなく始まるため、ディープシークについての詳細はまだすぐには分かりそうもないことを申し添えておきます(良い巳年となることをお祈りします!)。また今週はFOMCも開催されますが、金利は据え置きとなり、次の利下げ時期については慎重な姿勢を崩さないだろうと予想されます。

(執筆協力:木下智夫、アシュリー・オアース、エマ・マクヒュー)
 

注目の日程

公表日

指標等

内容

1月27日

米国新築住宅販売件数

住宅市場の健全性を示す

1月28日

米国耐久財受注

現在の産業活動を測定

1月28日

米国コンファレンスボード消費者
信頼感指数

インフレ・株価・金利に対する消費者の考え方
及び見通しを詳述

1月28日

米国S&Pケースシラー住宅価格
指数

住宅市場の健全性を示す

1月28日

日銀金融政策決定会合議事要旨

中央銀行の意思決定プロセスについて更なる
洞察を与える

1月28日

オーストラリアCPI

インフレの動向を追跡

1月29日

カナダ銀行金融政策決定

金利の道筋に関する最新の決定を発表

1月29日

米連邦公開市場委員会(FOMC)

金利の道筋に関する最新の決定を発表

1月30日

ドイツ国内総生産

地域の経済活動を測定

1月30日

ユーロ圏国内総生産

地域の経済活動を測定

1月30日

ユーロ圏失業率

労働市場の健全性を示す

1月30日

欧州中央銀行金融政策決定会合

金利の道筋に関する最新の決定を発表

1月30日

米国国内総生産

地域の経済活動を測定

1月30日

日本鉱工業生産指数

鉱工業セクターの経済の健全性を示す

1月31日

ドイツCPI

インフレの動向を追跡

1月31日

米国個人消費支出(PCE)価格
指数

インフレの動向を追跡

1月31日

米国雇用コスト指数

労働市場の健全性を示す

  • 1.

    出所:英国国家統計局、2025年1月22日 

  • 2.

    出所:米国移民評議会、2024年

  • 3.

    出所:ライス大学ベーカー公共政策研究所、“Boost US Construction Workforce by Employing More Immigrant Labor”、2024年10月10日

  • 4.

    出所:日本銀行「経済・物価情勢の展望」、2025年1月24日

  • 5.

    出所:MSCI、2025年1月24日。MSCI 欧州(英国を除く)指数(7.0%)とMSCI米国指数(4.0%)の年初来パフォーマンスに基づく。

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MC2025-012