インフレ、関税その他についての投資家からの疑問に答える
〔要旨〕
- 米国のインフレ:米国のディスインフレが続くというのが引き続き基本シナリオだが、インフレ再燃の兆しについては注意深く見ていく
- 関税:実際に大幅な関税を課すことなく、他の政策目標を達成するためのツールとして活用される可能性がある
- 中国経済:中国の第4四半期の成長は持続可能であり、政策当局者の大規模な景気刺激策によるところが大きいと考えられる
米国のインフレはここから上昇するか?
投資家は関税について懸念を持つべきか?
米10年物国債利回りはどうなっている?
米10年物国債利回りは5%以上に達するか?
世界的に国債利回りは上昇する?
今年の米株式市場はどうなる?
今年の中国経済はどうなる?
ビットコインは米国の戦略的準備金に加えられるか?
今後の展望
注目の日程
世界中の投資家は、米国のインフレ動向、関税引き上げの可能性、中国経済の成り行き、ビットコインに関する政策など、いくつかの重要な問いに注目しています。もちろん、米10年物国債利回りの(前例がないわけではないが)異例の動きにも注目しています。本レポートでは、年明けから私がお客様から受けている質問のうち、最も多かったものをいくつか取り上げたいと思います。
米国のインフレはここから上昇するか?
非常に抑制的な金融政策が米国経済の正常化に寄与し、ディスインフレが続くというのが私の基本シナリオであることに変わりはありません。ディスインフレの進展については、2024年と同様、インフレが大幅に低下する時期もあれば、ほとんどまたは全く低下しない時期もある、不完全な道のりになると予想しています。
とはいえ、私はインフレ再燃の兆しを懸念しています。
- 12月のISMサービス業購買担当者景気指数(PMI)において、支払価格サブ指数が11月の58.2から64.4へと大幅上昇し、2023年2月以来の最高値となりました1 。
- 世界経済、特に中国経済がより上向けば、コモディティ需要が増加し、インフレを上昇させる可能性があります。
- トランプ新政権の政策はインフレ圧力を増幅させる可能性がありますが、インフレへの影響という観点からは、関税引き上げよりも移民の極端な国外追放政策の方がはるかに懸念されます。
情勢を注意深く見守る必要があるでしょう。
投資家は関税について懸念を持つべきか?
2018年に関税政策が発動された際、S&P500種指数のボラティリティは上昇し、同指数は年末時点でより低下しました。他の市場はさらに大きなダメージを受けました。しかし、今回は違った様相を呈するかもしれません―関税の脅威が他の政策目標を達成するための手段として用いられる面がより大きくなり、実際の発動に至らない可能性が考えられるためです。いずれにせよ、関税が2018年の株式市場に与えた影響は非常に一時的なものであり、新たな関税については、投資家にごく短期の影響を与えるにすぎないと予想されます。
米10年物国債利回りはどうなっている?
米連邦準備理事会(FRB)が9月に利下げを開始して以降、米10年物国債利回りは約100ベーシス・ポイント上昇しています。9月17日時点の利回りは3.7%でしたが、1月13日時点で4.79%まで急上昇しました2。FRBによる利下げ開始後に長期の利回りが上昇するのは異例で、困惑している投資家もいるようです。
しかし、1990年代に前例はあります。1995年、FRBが利下げを決定する前日の7月5日時点で米10年物国債利回りは6.19%でしたが、8月23日までに6.6%に上昇し、その後低下しました3 。この時期は、FRBが利上げを行いつつも景気後退を回避することのできた最後の時期の後のタイミングだったという点で、特異だったと言えます。私は以前から、今はいくつかの点で1990年代半ばの状況と似ていると述べてきましたが、10年物国債利回りの上昇も、似ている点の1つに数えられます。
米10年物国債利回りは5%以上に達するか?
米10年物国債利回りの先行きを占うには、どのような要因が利回りに影響を与えるかを議論することが重要です。米10年物国債利回りは理論上、インフレ期待や成長期待、そしてFRBの見通しなどを含む将来の短期金利の予測値と、投資家が長期の債券保有に対して要求する見返りとしてのタームプレミアムによって決定されます。タームプレミアムはアモルファス(結晶構造を持たない物質の状態を指します)のようなものであり、国債の需給ダイナミクス(量的緩和/引き締め、財政赤字をめぐる予想など、多くの要素を幅広く含む)など様々な要因の影響を受けます。この秋に金利の大幅な変動が見られたように、利回りへの影響要因は、データや「Fedspeak(FRB関係者の発言)」の影響をすぐに受ける可能性があります。先週の米10年物国債利回りの動きを見てみると、月曜日の4.79%のピークから、金曜日は4.61%で終えました4。これは、12月のコア消費者物価指数(CPI)の数値とFRB関係者のハト派的なコメントを受け、インフレ期待が低下した結果です。
私は今年もディスインフレが進むと考えているため、米10年物国債利回りがこれ以上上昇することはないと考えています(財政赤字への懸念が高まり、債券自警主義が台頭しない限りは)。これはもちろん、減税に重点を置くか、政府支出の削減に重点を置くか、トランプ政権の今年の政策課題次第となります。とはいえ、10年債利回りが今年5%を超えることはないだろうというのが私の基本的シナリオです。ただし、不確実性が高まっていることから、利回りに多少の変動がみられると思います。財政赤字への懸念から利回りが上昇する局面もあり得ますが、劇的に上昇することはないだろうと考えています。
世界的に国債利回りは上昇する?
先進国の国債利回りはほぼ同じ方向に動いており、その相関関係は維持されると予想します。例えば昨年、フランスの特定の政治・財政問題に起因し、フランスの10年債利回りはギリシャの10年債利回りを上回りました。ユーロ圏の「コア」となる国々がプレッシャーにさらされ続ける一方、ユーロ圏の周辺国が相対的に良好なパフォーマンスを示していることから、このようなアノマリー(例外)は続くと私は予想しています。
今年の米株式市場はどうなる?
今年の米株式市場は、多くの理由から上昇する可能性が高いと私は考えています。
- 先に述べたように、米10年物国債利回りはそれほど上昇せず、今年はいくぶん低下すると思われ、これにより株価はプレッシャーから解放されるでしょう。
- また今年は利益が改善し、株価の下支えになると予想されます。2025年暦年について、ウォール街のアナリストは14.8%の増益、5.9%の増収を見込んでいます5。
- また緩和的金融環境が広がり、世界経済成長の再加速が見込まれることから、世界的に株価は良好に推移すると考えられます。
今年の中国経済はどうなる?
中国は、前年同期比の国内総生産(GDP)成長率が5.4%となったことからもわかるように、第4四半期は好調でした。2024年12月の中国の鉱工業生産は前年同月比6.2%増となって予想を上回り、また11月の同5.4%増も上回りました7。
注目すべきは、これが4月以降で、中国における鉱工業生産高の成長として最速のペースとなった点です。これはトランプ政権による潜在的な関税引き上げに先立つ「プルフォワード(需要の先取り)」によるものであり、持続可能ではないと見る向きもあるかもしれません。しかし私は、これは中国政策当局の打ち出す非常に大型の景気刺激策によるものであり、しっかり持続可能なものだと考えています。
関税に関して私自身は、トランプ新政権が関税を目的ではなく、特定の目的を達するための手段として捉えているとの見方をますます強めています。つまり、中国やその他の国の製品に対して、大幅な関税引き上げが発動されない可能性があるということです。関税は、(メキシコが米国の移民政策に協力しなければメキシコ製品に関税を課すとの脅しに見られるように)移民制度改革や、(EUが米国のエネルギーをもっと購入しなければ欧州製品に関税を課すとの脅しに見られるように)米国製品の購入といった政策目的を達成するために活用される可能性があります。これには前例があります。レーガン政権時代、日本とドイツの自動車メーカーに「輸出自主規制」を求める圧力をかけた結果、米国に自動車工場が建設されましたが、これらは現在に至るまで多くの米国人労働者に雇用を提供し続けています。もちろん今後も、関税の動向を注視していきたいと思います。
ビットコインは米国の戦略的準備金に加えられるか?
米国で、ビットコインを戦略的準備金として備蓄させようとの動きが見られます。2024年後半に米国で、米国が保有する既存のビットコイン(主に資産の差し押さえによって蓄積された)を米財務省に移管し、さらに準備金としての備蓄のために今後5年間で100万ビットコイン(総供給量のほぼ5%に相当)に達するまで追加購入する法案が提出されました。
トランプ大統領はこれに好意的なようで、また共和党が両院で多数派を占めることから、これが何らかの形で実現する可能性は高そうです。ただしこれに対するFRBの関与は、FRBが連邦政府に代わって管理する資産に限定されることに留意することが重要です。FRB自体は、自身の通常のバランスシート運営の一環としてビットコインを活用することはないとみられています。
今後の展望
日銀今週会合を開き、利上げを決定するとの見方が強まっていますが、7月下旬に予想外の利上げを決定した際のことを思い起こし、市場への潜在的な影響を懸念する向きもあります。しかし、今週の利上げはサプライズではないため、同じような影響は予想されないでしょう―またそのような決定は、日本経済が正常化を続けていくとの前向きなメッセージとなるでしょう。ただし今週の利上げ決定は、キャリートレードの巻き戻しやボラティリティの上昇を引き起こす可能性があります。状況を注意深く見守っていきたいと思います。
注目の日程
公表日 |
指標等 |
内容 |
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1月21日 |
英国失業率 |
労働市場の健全性を示す |
1月21日 |
英国平均賃金指数 |
英国労働者の賃金の伸びを測定 |
1月21日 |
ユーロ圏ZEW景況感 |
今後6カ月間のユーロ圏の景況感を測定 |
1月21日 |
カナダ消費者物価指数(CPI) |
インフレの動向を追跡 |
1月22日 |
韓国国内総生産(GDP) |
地域の経済活動を測定 |
1月23日 |
ノルウェー銀行金融政策決定会合 |
金利動向を発表 |
1月23日 |
英国・GfK消費者信頼感指数 |
英国の経済活動に対する消費者信頼感の |
1月23日 |
日銀金融政策決定会合 |
金利動向を発表 |
1月24日 |
ユーロ圏 購買担当者景気指数(PMI) |
製造業とサービス業の経済の健全性を示す |
1月24日 |
英国 購買担当者景気指数(PMI) |
製造業とサービス業の経済の健全性を示す |
1月24日 |
米国 購買担当者景気指数(PMI) |
製造業とサービス業の経済の健全性を示す |
1月24日 |
ミシガン大学消費者信頼感指数 |
消費者のセンチメントとインフレ期待に
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1.
出所:米供給管理協会、2025年1月7日
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2.
出所:セントルイス連銀経済データ、2025年1月17日
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3.
出所:セントルイス連銀経済データ、2025年1月17日
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4.
出所:ブルームバーグ、2025年1月17日
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5.
出所:ファクトセット・リサーチ・システムズ、2025年1月17日
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6.
出所:中国国家統計局、2025年1月
-
7.
出所:中国国家統計局、2025年1月
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MC2025-007