新年が明け、地政学的に不安定な状況が続く
〔要旨〕
- 地政学的な不安定性:カナダのジャスティン・トルドー首相が、予算をめぐる問題からクリスティア・フリーランド財務相が辞任した後、自身も辞任を表明した
- 世界の株価:今年も株価は上向くと予想されるが、中型株や小型株、そして米国以外の株からより良好なリターンが得られることを予想
- 支援的な政策:中央銀行を含む政策当局は、2025年も積極的に各国経済を支援すると予想される
2024年:サプライズが多かった年
2025年:投資家は何を予想すべきか?
2025年の見通し
新年の抱負
今後の展望
注目の日程
2024年は地政学的に不安定な年でしたが、新年最初の週にカナダのトルドー首相が辞任を表明し、2025年はすでに波乱の幕開けとなりました。2024年は株式市場のパフォーマンスが予想を上回った年でもあり、2025年も、昨年から更に広範囲にパフォーマンスが広がる上向きな年になると予想しています。他に、2024年のどのようなトレンドが2025年に持ち越されるでしょうか?それを探るため、引き続きぜひお付き合いください。
2024年:サプライズが多かった年
世界経済:世界経済は大方の予想以上に底堅く、特に米国経済は好調でした。国際通貨基金(IMF)は、最終的なデータ集計が終われば、2024年の世界の国内総生産(GDP)成長率は3.2%となると予測しています1 。
世界の株価パフォーマンス:特に米国と中国の株式市場のパフォーマンスは、予想以上となりました。年間で、MSCIワールド指数は18%、MSCI中国指数は19.7%、MSCI米国指数は25.1%それぞれ上昇しました2 。
金融・財政政策:政策当局、特に中央銀行が、積極的に経済と市場を支えました。これは、かつての政策当局のレッセフェール(自由放任主義)的な姿勢とは一線を画すものですが、より大きな問題を回避するのに役立ちました。
- 米連邦準備理事会(FRB)が労働市場に十分軟化が見られたとみると間もなく、パウエル議長が政策転換を行うメッセージを発し始めました。8月のジャクソンホール・シンポジウムでパウエル議長は、FRBはこれ以上の労働市場の「冷え込み」を歓迎しないとのシグナルを発しました。その数週間後、FRBはついに0.5%の利下げを行い、緩和を開始しました。
- 韓国では、12月に突然戒厳令が宣布され、市場の混乱を招きましたが、金融政策当局は迅速に市場の沈静化に乗り出しました。韓国の企画財政部と韓国銀行は、「株式、債券、短期金融市場、外国為替市場が完全に正常化するまで、当面の間、これらの市場に対し無制限に流動性を注入する」と表明しました3 。
- また中国の政策当局も、経済成長を支え強化するために、大規模な景気刺激を行う計画を発表しました。
FRBの政策に対する見通しの変化:特にトランプ次期大統領が世論調査で急浮上し始め、経済データに上振れのサプライズが見られた後、FRBの政策に対する見通しに大きな変化が見られました。これは特に、債券市場において変動性を高めました。
地政学的不安定性:2024年にはインド、メキシコ、英国、米国など多くの国で主要な選挙が行われ、有権者が現政権に対し明確な拒否を示したことから、意外な結果となったものもありました。しかし、おそらくより重要なのは、昨年ドイツ、フランス、日本、韓国で政治の不安定性が著しく高まったことでしょう。その多くは、予算をめぐる難局に関連するものでした。フランスでは政権が崩壊し、ドイツでも連立政権が崩壊し、韓国では大統領が弾劾されました。フランスの政情不安と予算をめぐる対立は、財政赤字の拡大と債務残高対GDP比の上昇に対する投資家の懸念から、借入コストの上昇につながりました。その結果、フランス国債の利回りはギリシャ国債の利回りを上回って上昇しています4 。韓国では、消費者信頼感がパンデミック発生以降で最大の落ち込みを見せました5 。
2025年:投資家は何を予想すべきか?
では、2025年には何が待ち受けているのでしょうか?おそらく、同じようなことが更に起きるのではないかと思われます。
地政学的不安定性:新年は、衝撃的なニュースで幕を開けました。地政学的な不安定性や不確実性が増すことは常に予想されますが、これほど早いとは思いませんでした。カナダのトルドー首相が1月6日、予算をめぐる問題からフリーランド財務相が辞任した後、自身も辞任を表明しました。12月の前回レポートで述べたように、今後は予算が重要なテーマとなっていくでしょう(今後、予算をめぐって更なる政治的混乱が予想されます)。
世界経済:私はまた、2025年の世界のGDP成長率は、米国と中国に支えられて再加速すると予想しています。米国では消費者信頼感が上昇し、中国でもサービス業購買担当者景況指数(PMI)が改善しています6 。
世界の株価パフォーマンス:私は、今年も株価は上向きとなると予想していますが、中型株や小型株、米国以外の株式のリターンがより良好となる可能性が高いと考えています。
金融・財政政策:特に、インフレが再加速するリスクは小さいとはいえ決して極小とは言えないため、FRBの政策に対する見通しは今後も変化し続けると考えています―実際、FRBが2025年に利上げを行う必要が出てくる可能性もあります。最後に、そしておそらく最も重要なこととして、各国政策当局が引き続き積極的にそれぞれの経済を支え、2025年に起こるいかなる逆風に対しても、対抗していく努力を怠らないと期待しています。
つまり、2025年に中央銀行がインフレを抑制しつつ、世界の主要国を緩やかな成長へと導くことができるかどうかが重要な問題となります。私はそれが可能だと考えており、だからこそ、現状の環境でリスク資産を選好しています。しかし、バリュエーションの上昇はリスク資産のアップサイドを制限するため、リスクを厳格に管理し、バリュエーションを見逃さないようにする必要があると考えています。また、関税引き上げの可能性を含む地政学的な不確実性や金利見通しの変化に市場が反応することから、短期的にはボラティリティの高い展開が予想されます。また、軟化を示す経済データ、特に労働関連のデータに市場が反応することも予想されます。
2025年の見通し
新年を迎えて投資家の間に不確実性が高まるなか、2025年についての私たちの見通しを改めて示すことが重要だと考えています。以下はそこからのいくつかのハイライトとなります(全文はこちらからご確認いただけます→2025 INVESTMENT OUTLOOK)。
株式:バリュエーションが比較的魅力的で、景気サイクルに対する感応度がより高いことから、景気敏感株と小型株を選好します。また同じ理由から、米国以外の先進国株と新興国株も選好します。中央銀行の利下げに伴い、割引率の低下もバリュエーションを下支えすると予想しています。
債券:債券利回りが依然として比較的高い水準にあるため、スプレッドはタイトとなっているものの、特に保有期間が長い債券には魅力的な投資機会があると考えています。私は、堅調なファンダメンタルズが多くの債券資産を下支えしており、投資適格債とハイイールド債のクレジット・スプレッドが非常にタイトとなっていることを説明する一助となっていると考えています。私はこのような、底堅く、かつ改善しつつある経済成長を背景として、一定の信用リスクのある資産を選好します。また、分散の観点から投資適格債と同等のボラティリティで、高い現行利回りを提供するバンクローンを選好します。バンクローンはデュレーションがほぼゼロであることから、他の債券資産と比べ、金利変動の影響を比較的受けにくいと予想されます。また、新興国債券についても引き続き良好なパフォーマンスを期待しています。
不動産:不動産については引き続きポジティブに見ており、環境の改善に伴い、更に上昇する可能性があると考えています。例えば政策金利の引き下げは、不動産の負債コストやキャップレート引き下げの余地を提供し、新しい取引や価格回復に向けた進展につながると考えています。
分散投資:私は、長期的な視野に立った広範な分散投資の重要性を引き続き信じており、経済及び金融政策の正常化に伴い、市場が全般的に拡大していくと予想しています。
新年の抱負
最後に、2025年の新年の抱負を述べて締めくくりとしたいと思います。今後12ヶ月の間にどのようなサプライズが待ち受けていようとも、これらが、短期的な投資機会を提供し、長期的な目標に集中し続けるのに役立つと私は信じています:
- ニュースの見出しに踊らされないこと:市場の変動性や売られ過ぎは起こると見込んでおくこと―目標価格まで下落した場合に買いたい金融商品をリストアップしておくことで、これらの機会を味方につけましょう。
- 市場の調整が起きた際に見通しを維持しておくために、常に時間軸を念頭に置くこと。
- 市場が高いバリュエーションの資産を罰する(急に下落させる)こともあるため、ポートフォリオには一定の低バリュエーションの資産へのエクスポージャーを持っておくこと。
- 株式市場が好調に推移する上で、経済のすべての柱がフル回転する必要はないと念頭におくこと。株式市場のリターンの重要な誘因はポジティブ・サプライズであり、それは多様な形でもたらされる可能性があります。また、リターンの原動力となる企業収益の重要性を認識しましょう。
- 感情がまっさらな年始のうちに、投資方針をレビューし、修正を加えておくこと。そしてその後は1年を通して修正を加えず、これにコミットすること。
- 投資方針のレビューにあたっては、ポートフォリオの分散投資の状況を注視しましょう。私は、オルタナティブ資産への適切なエクスポージャーを持ち、十分に分散投資を行うことを選好しています。定期的にリバランスを行うことで、利益を出しやすくなり、市場の特定分野への過剰なエクスポージャーを取ることを防ぐことができます。
今後の展望
2025年が明けて、私は引き続き、世界経済(特に大幅な引き締めが行われた国々)に大きな落ち込みが起こる兆しや、インフレの再来など、私たちの基本シナリオや選好する資産クラスを変える可能性のある兆候を探っていきます。単に私たちの見方が正しいことの裏付けだけではなく、仮説に反するデータについても注目していきます。直近では、労働市場に対するFRBの懸念が顕著なことから、米国雇用動態調査(JOLTS)と米国雇用統計の両方に特に注目しています。
皆さんとご一緒にこれからの投資を考えられることを嬉しく思います。明けましておめでとうございます!
注目の日程
公表日 |
指標等 |
内容 |
---|---|---|
1月6日 |
ユーロ圏サービス業PMI |
サービス業の経済の健全性を示す |
1月6日 |
英国サービス業PMI |
サービス業の経済の健全性を示す |
1月6日 |
ユーロ圏センティックス投資家 |
ユーロ圏の投資家心理を追跡 |
1月6日 |
米国サービス業PMI |
サービス業の経済の健全性を示す |
1月7日 |
ユーロ圏CPI |
インフレの動向を追跡 |
1月7日 |
米国雇用動態調査(JOLTS) |
求人、雇用、離職に関するデータを |
1月8日 |
ドイツ製造業新規受注 |
製造業の健全性を示す |
1月8日 |
ドイツ小売売上高 |
小売業の健全性を示す |
1月8日 |
ユーロ圏PPI |
生産者に対して支払われる財・サービス |
1月8日 |
ユーロ圏消費者インフレ期待 |
ユーロ圏消費者のインフレ動向に関する |
1月8日 |
ユーロ圏消費者信頼感指数 |
ユーロ圏の消費者心理を追跡 |
1月8日 |
FOMC議事要旨 |
中央銀行の意思決定プロセスについて |
1月8日 |
米国消費者信用残高 |
米国消費者の借入残高を追跡 |
1月8日 |
中国CPI |
インフレの動向を追跡 |
1月9日 |
欧州中央銀行経済報告 |
理事会の政策決定の基礎となる |
1月9日 |
ユーロ圏小売売上高 |
小売業の健全性を示す |
1月9日 |
日本家計調査 |
消費者の健全性を追跡 |
1月10日 |
中国新規融資 |
消費者・企業向け銀行融資残高の |
1月10日 |
米国雇用統計 |
労働市場の健全性を示す |
1月10日 |
カナダ雇用統計
|
労働市場の健全性を示す |
1月10日 |
ミシガン大学期待インフレ率 |
米国消費者のインフレ動向に関する |
1月10日 |
ミシガン大学消費者信頼感指数 |
米国の消費者心理を追跡 |
-
1.
出所:IMF、2024年10月22日
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2.
出所:LSEGデータストリーム、MSCI、2024年12月31日
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3.
出所:Korea.net、“'Unlimited liquidity' pledged to restore financial, FX markets”、2024年12月4日
-
4.
出所:ブルームバーグ、2024年12月31日
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5.
出所:韓国銀行、2024年12月23日
-
6.
出所:中国国家統計局、2025年1月2日
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