中国株の上昇、米国のインフレ懸念の高まり
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〔要旨〕
- 中国株:中国株は何年も魅力的なバリュエーションを維持してきたが、いくつかの重要な誘因の出現により上昇が誘発された
- 米国のインフレ:米国でインフレ期待が上昇しており、FRB (米連邦準備制度理事会)は歴史的にこれらの重要指標に注目している
- 米10年物国債利回り:私の基本シナリオでは、10年物国債利回りは今年5%を超えることはないと考えられるが、先行き不透明感が増していることから、一定のボラティリティは見られるだろう
中国株
米国のインフレ期待
米10年物国債利回り
米国経済の落ち込み
金価格
株式市場の方向性
ペアワイズ相関
今後の展望
第1四半期も半ばを過ぎましたが、様々なニュースが飛び込んでくるにつれ、お客様が疑問に思われることも日増しに増えているようです。中国株の上昇、米国のインフレ懸念、米10年物国債利回りの方向性などが、第1四半期の後半に向けた注目材料に数えられます。
中国株
中国株は今年も絶好調で、2024年後半からの好調を維持しています1。2月14日時点で、MSCI中国指数は年初来13.9%上昇し、MSCI米国指数の4.4%上昇を劇的に上回っています2。
昨年の上昇の最初の誘因は、中国政策当局による大幅な景気刺激策でした。ここ数週間は、ディープシークの人工知能(AI)の進展をめぐる興奮が、この上昇を大きく牽引しました。私の同僚のレイモンド・マーは、ディープシークがもたらす様々なメリット(効率向上、コスト削減、計算能力の強化、様々な産業がAIを活用する上での障壁の大幅な低下など)が多くの中国企業に恩恵をもたらし、中国株のレーティングの見直しにつながる可能性があるとしました。私自身もその通りだと思います。
ディープシークだけではありません。電気自動車のパラダイムシフトを起こしたBYDのような企業もそうです。中国企業はより付加価値を高めており、業界によっては非常に競争力のある製品を提供しています。中国株は何年も魅力的なバリュエーションを維持してきましたが、こうした重要な誘因の登場が違いを生んだと言えます。中国株、特に中国のテクノロジー株は、長期的に上昇する可能性があると私は見ています。
米国のインフレ期待
米国のインフレ再燃への懸念が高まっています。そのリスクを測る一つの方法がインフレ期待ですが、これを知る方法としては、調査ベースと市場ベースの2種類があります。
調査ベース:消費者が将来のインフレについてどのような見通しを持っているかを把握する調査はいくつかあります。これは、FRB(米連邦準備制度理事会)がこれらの調査に注目し、それに基づいて行動することが知られているという点から重要です。以前にも言及したとおり、ミシガン大学消費者調査における消費者のインフレ期待は、大きく跳ね上がりました。ニューヨーク連銀の消費者調査では、1月の1年先のインフレ期待と3年先のインフレ期待が横ばいの3.0%となり、それほどの大幅な上昇とはなりませんでしたが3 、5年先のインフレ期待は0.3%も大幅に上昇し、3.0%となりました。コンファレンス・ボードの消費者インフレ期待も同様で、1年先のインフレ期待が12月の5.1%から1月には5.3%に上昇しました4 。
消費者のインフレ期待が特に重要なのは、それが自己成就する予言のようになり得るためです。消費者が今後1年間に価格が十分上昇すると予想した場合、その品目を今購入しようとする可能性が高く、結果として、需要増から当該品目の価格上昇を後押しすることになります。
市場ベース:鍵となる指標の1つは、物価連動国債(TIPS)と同じ満期の固定利付国債の利回り間のスプレッドで、ブレーク・イーブン・インフレ率と呼ばれます。5年物のブレーク・イーブン・インフレ率はここ数カ月大幅に上昇しており、2024年9月6日(ちょうどトランプ大統領への支持が世論調査で上昇し始めた頃)の1.86%から、先週金曜日には2.62%まで上昇しました5 。
市場のインフレ期待と消費者のインフレ期待はFRBにとって重要なため、私たちはこれらを注意深く追っていきたいと思います。例えば2022年6月、FRBは米連邦公開市場委員会(FOMC)の前に、0.5%の利上げを行う可能性が高いことを示唆し、その後0.75%の利上げを決定して市場を驚かせました。ジェローム・パウエル議長は記者会見で、何がFRBの方針を変えたのかとの質問に対し、消費者物価指数(CPI)やミシガン大学調査におけるインフレ期待など、直近のいくつかのデータがFRBの考えを変えたと答えました。投資家の中には、FRBが今年は利下げを一時停止する(あるいは利上げすらあり得る)のではと懸念する向きもある中で、今後の動向を探る手がかりとして、インフレ期待に着目することが重要と言えます。
米10年物国債利回り
今年、米10年物国債利回りは多くの関心を集めており、心理的な不安を生じさせる5%の水準まで上昇するのではと懸念する向きも多くあります。スコット・ベッセント米財務長官が、トランプ政権はFRBに利下げを迫るのではなく、10年物国債利回りを引き下げることに注力すると示唆して以降、この利回りへの関心は高まっています。先週、トランプ大統領はソーシャルメディアに次のように投稿し、同様の考えを示唆した模様です:「金利は引き下げられるべきであり、それは今後引き上げられる関税と連動すべきだ!!!ロックンロールしようぜ、アメリカ!!! 6 」
以前にも申し上げたように私は、インフレが再燃するか、財政赤字への懸念が高まり債券自警主義が台頭しない限りは、米10年物国債利回りが更に大きく上昇するとは考えていません。これはもちろん、トランプ政権の政策アジェンダとその実施の動向次第となります。コスト削減に焦点が当てられているのは確かですが、国家財政責任改革委員会(通称シンプソン=ボウルズ委員会)のアプローチとは大きく異なります。これまでのところ、投資家は現在の戦略を良しとしているようですが、実際どれだけの経費削減につながるかについては懐疑的な見方もあります。また、債務上限を4兆ドル引き上げようとする動きにスポットライトが当たれば、財政支出をめぐる緊張感が高まる可能性もあります。
とはいえ、私自身の基本シナリオでは、10年物国債利回りが5%を超えることはないだろうと見ています(ただし先行き不透明感が増していることから、利回りに一定のボラティリティは見られると予想されます)。財政赤字への懸念から利回りが上昇する局面もあるかもしれませんが、劇的に上昇することはないと予想されます。歴史的に10年物国債利回りは株価に大きく影響してきています。一般的には10年物国債利回りが上昇すると、バリュエーションが高い銘柄にプレッシャーがかかることから、その動向を注視していきたいと思います。
米国経済の落ち込み
景気後退は、決して2025年の私の基本シナリオではありません。しかし私たちは、FRBが積極的な引き締めサイクルを開始して以降、引き締めが米国経済に重大なダメージを与える兆候を注意深く見極める必要があると述べてきました。これまでのところ、それは起こっていません。しかし、連邦政府職員の大量解雇が始まり、大企業の中にも大幅な人員削減を発表するところが出てきています。パウエルFRB議長が既に、雇用の低成長を懸念として挙げていることから、解雇が増えていくと、経済にとって重大な問題となり得ます。
特に最近、消費者心理が悪化していることから、状況を注意深く見守りたいと思います。直近のニューヨーク連銀消費者調査から得られた、いくつかの結果に注目することが重要だと思います。まず、家計支出の伸びの予想の中央値が、2021年1月以来の低水準に落ち込みました。そして、今後12ヵ月間に職を失うと考えられる確率の平均値が2.3%上昇し、1月は14.2%となりました7 。
金価格
金は年初来上昇し、最高値を更新しています8 。これは長期的な上昇の継続であり、いくつかの異なる要因に牽引されています。(米国による関税戦争への懸念に牽引された)地政学的な不確実性が、金の「セーフヘイブン」としての性質に対する需要を後押ししました。その他の需要促進要因としては、米国の過剰な財政支出に対する懸念、価格に無頓着な中央銀行の買い、投資家が金を購入する手段の増加などがあります。米国では、コストコが2023年に金の延べ棒の現物の顧客への販売を開始しました。ウェルズ・ファーゴは2024年4月に、コストコの月次の金の延べ棒の売上高が最大2億ドルに上ると推計しました9 。インドでは最近、新しい金ETFが発売され、中国当局は保険会社が金に投資することを試験的に許可しました。
もちろん、中央銀行が金の購入を減らしたり、ウクライナの和平交渉が実現したりすれば、金価格は低下する可能性があります。しかし私の見立てでは、米国とロシアの間でのみ交渉される和平交渉の結果がどのようなものとなっても、欧州連合(EU)が脅威を感じ、また感覚的に地政学的リスクが上昇する可能性さえあることに鑑みると、金価格の方向性としては上昇する可能性が高いと考えられます。
株式市場の方向性
米国で起こっているあらゆる騒動を看過し、株価の上昇に貢献し続けている株式投資家の胆力に驚嘆している、と述べたお客様が何人もいます。彼らは、「いつになったら株式市場は不安定になり、売り込まれるのか?」とささやき合っています。
答えはこうです:それはわかりません。株式市場はリスクを無視するかのような動きを取った後、突然、かなり劇的な反応を示すものです―高いバリュエーションの銘柄については、前から見られる現象です。しかし、長期の時間軸を持つ投資家にとっては関係のないことであり、方針を継続することが全てです。実際、一般に逆張り指標とされる米個人投資家協会(AAII)のブル(強気)/ベア(弱気)心理指標は、米国株上昇が勢いを増す可能性を示唆しています。弱気心理は、米大統領就任式直後の29.4%から、先週は47.3%まで上昇しました。弱気心理は異例の高さで、過去の平均値の31.0%を大きく上回っています10 。前回、弱気心理がこれよりも高かったのは2023年11月2日で、なんと50.3%でした10 。興味深いことに、2023年10月下旬には強い株高が始まっていました11。
ペアワイズ相関
S&P500種指数のペアワイズ相関は大幅に低下しています。ペアワイズ相関は、指数内の個別銘柄が相互にどれだけ密接に相関しているかを示す指標です。言い換えれば、株価がどれだけ連動して動くかを示しています。
一般にペアワイズ相関が高いほど、銘柄選別の機会が少ないことが示唆されます。逆にペアワイズ相関が低下すれば、銘柄選別の好機である可能性が示唆されます。スタンダード&プアーズは、「株式市場内における、また株式市場を通じた相関は歴史的な低水準で推移しており、関連する分散効果は、実現ボラティリティとインプライド・ボラティリティの両方を低下させる上で重要な役割を果たしている」と指摘しました12 。これは、アクティブ運用の重要性が増すことを示唆しています。
今後の展望
今週も決算発表があります。また、1月のFOMC会合議事要旨の公表やいくつかの中央銀行の金融政策決定会合も予定されています。今週金曜日に発表される、ミシガン大学消費者調査にも注目したいと思います。
注目の日程
公表日 |
指標等 |
内容 |
---|---|---|
2月18日 |
英国失業率 |
労働市場の健全性を示す |
2月18日 |
ユーロ圏ZEW景況感指数 |
今後6カ月間のユーロ圏の景況感を測定 |
2月18日 |
カナダCPI |
インフレの動向を追跡 |
2月18日 |
ニュージーランド準備銀行 |
金利の道筋に関する最新の決定を発表 |
2月19日 |
英国CPI |
インフレの動向を追跡 |
2月19日 |
英国生産者物価指数 |
生産者に対して支払われるモノ・サービスの |
2月19日 |
FOMC議事要旨 |
中央銀行の意思決定プロセスについて更なる |
2月19日 |
オーストラリア失業率 |
労働市場の健全性を示す |
2月20日 |
ドイツ生産者物価指数 |
生産者に対して支払われるモノ・サービスの |
2月20日 |
米国景気先行指数 |
景気循環の重要な転換点と短期の経済の |
2月20日 |
日本製造業・サービス業購買 |
製造業とサービス業の経済の健全性を示す |
2月21日 |
日本コアCPI |
インフレの動向を追跡 |
2月21日 |
英国小売売上高 |
小売セクターの健全性を示す |
2月21日 |
ユーロ圏製造業・サービス業購買 |
製造業とサービス業の経済の健全性を示す |
2月21日 |
英国製造業・サービス業購買 |
製造業とサービス業の経済の健全性を示す |
2月21日 |
インド準備銀行金融政策委員会 |
中央銀行の意思決定プロセスについて |
2月21日 |
カナダ小売売上高 |
小売セクターの健全性を示す |
2月21日 |
米国製造業・サービス業購買 |
製造業とサービス業の経済の健全性を示す |
2月21日 |
米国中古住宅販売件数 |
住宅市場の健全性を示す |
2月21日 |
ミシガン大学消費者調査 |
消費者心理とインフレ期待に関する |
(執筆協力:デイビッド・チャオ)
-
1.
出所:ブルームバーグ、2025年2月14日 MSCI中国トータルリターン指数(米ドル)は、2024年7月31日から2024年12月31日までの間に15.61%のリターンを達成
-
2.
出所:MSCI、2025年2月14日
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3.
出所:ニューヨーク連銀消費者調査、2025年2月10日
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4.
出所:コンファレンス・ボード、2025年1月28日
-
5.
出所:ブルームバーグ、2025年2月14日
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6.
出所:Truth Socialへのトランプ大統領投稿、2025年2月12日
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7.
出所:ニューヨーク連銀消費者調査、2025年2月10日
-
8.
出所:ブルームバーグ、2025年2月14日 金のスポット価格は2025年2月13日に1オンスあたり2928ドルの過去最高値で取引を終えた
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9.
出所:ウェルズ・ファーゴ、2024年4月
-
10.
出所:米個人投資家協会、2025年2月12日
-
11.
出所:ブルームバーグ、2025年2月14日 S&P 500指数は、2023年10月27日から2023年12月31日の間に16.21%のリターンを記録
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12.
出所:S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス、インデックス・ダッシュボード:分散、ボラティリティ、相関、2025年1月31日
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MC2025-021