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関税措置が株式市場を動揺させたが、長期的な影響は?

関税措置が株式市場を動揺させたが、長期的な影響は?
〔要旨〕
  • 関税協議:米国によるカナダ、メキシコ、中国の製品に対する新たな関税措置の脅威が、直ちに週明けの株価の重しとなった
  • 慎重でありつつも楽観視:これから様々な劇的な展開があるかもしれないが、市場に対する大きな長期的影響はないだろうと、慎重でありつつも楽観的にみている
  • 直近の経緯:楽観的になれる理由は?2018年から2019年にかけての米中貿易戦争による市場への影響は、解決をみると迅速におさまったため
2018-2019年の貿易戦争は、米国経済にどのような影響を与えたか?

貿易戦争は市場にどのような影響を与えたか?

こうしたことは、現在の関税戦争に対してどのような意味を持つか?

こうしたことは、インフレと成長に対してどのような意味を持つか?

決算シーズンと中央銀行がニュースの中心に

今後の展望
 

米国の、カナダ、メキシコ、中国製品に対する新たな関税措置をめぐるニュース(及び報復関税措置の発表)を受け、月曜日、市場は即座に反応して売りが起きました。しかし同日終わり頃までには、カナダとメキシコへの関税発動は1ヶ月間延期されることが判明しました。 情勢が移り変わる中で、第1次トランプ政権期間の関税戦争に対する市場の反応を振り返ってみることは、重要だと考えます。歴史は繰り返すとまではいかなくとも、似たような事態は起こり得ます―そして、第1次トランプ政権期間の貿易戦争は、今私たちが持ち得る中では間違いなく、ベストな指針と言えるでしょう。

 

2018-2019年の貿易戦争は、米国経済にどのような影響を与えたか?

2018年から2019年にかけての米中貿易戦争は、米国経済に重大な影響を与えました。混乱、(一部企業の利益率を圧迫した)価格上昇の引き金となり、不確実性が高まったことで、米国の企業投資や雇用の停滞を招きました。

この期間の米連邦準備制度理事会(FRB)ベージュブックから、いくつかの記述をご紹介したいと思います:

「全地区において製造業の事業者から関税への懸念が表明され、多くの地区で、新たな貿易政策に起因する価格上昇と供給の混乱が報告された1。」

「企業からは引き続き、関税及び関税の脅威によって不確実性が高まっているとの指摘があった2。」

「関税に起因するコスト上昇の報告は、製造業、建設業から小売業、飲食業まで更に幅広く拡大した3。」

「製造業の事業者からは、関税が原材料コストの上昇及び利益率の低下につながったとの報告があった。貿易関連の不確実性は依然として大きく、一部企業の減産や従業員数の縮小につながっている4。」

「...貿易政策の不確実性が設備投資の低下につながった5。」

「貿易関連の不確実性は依然として大きく、収益性の低下から、一部企業は減産や従業員数の縮小を行っている6。」
 

貿易戦争は市場にどのような影響を与えたか?

2018年から2019年にかけての関税戦争は市場にも大きな影響を与え、ジェットコースターのような展開を見せました。新たな貿易協議や関税撤廃/適用の報せによって上昇・下降が繰り返され、ボラティリティが上昇しました。全般的に世界中で、「安全資産」への逃避が起きました。

  • 協議の決裂に加えて/あるいは追加関税の適用があった際、米国株は売られました。が協議の再開に伴って米国株は上昇しました。2019年10月に第1段階の米中貿易協定が発表された際は、米国株は大幅に上昇しました。S&P500種指数は、2018年に4.38%下落したものの、2019年には31.49%上昇しました7
  • 中国株も貿易戦争のさなかにボラティリティの上昇と売りに見舞われましたが、関税戦争がおさまるにつれ回復しました。2018年にMSCI中国A株指数は30.16%下落しましたが、2019年には36.40%上昇しました8

言い換えれば、関税は短期的な逆風を引き起こしたということです。市場が次第に関税に慣れ、また第1段階の米中貿易協定が発表されて解決をみると、ボラティリティは低下し、金融市場は再加速しました。
 

こうしたことは、現在の関税戦争に対してどのような意味を持つか?

保護主義的な措置は、短期的には世界的に最適な経済成長をもたらさない傾向にありますが、株式市場にとっては、必ずしも長期的なハードルとなってこなかったことを念頭に置く必要があります。とはいえ、2018年から2019年にかけてそうであったように、貿易政策が不透明な時期が続くと、より明確になるまで市場の重しとなる可能性があります。今回も、第1次トランプ政権の時と似たようなシナリオ(劇的な展開は多いものの、実質的な長期的影響はなし)が展開されるかもしれません。私は慎重姿勢は維持しつつ、そうなるのではないかと楽観的にみています。

では、このような直近の成り行きを知りながら、なぜ市場はこれほどネガティブに反応したのでしょうか?それは、トランプ政権が株価の上昇に注力し、関税を実際の発動のためではなく警告として利用すると見る向きが多かったからではないかと私は考えています。それは、希望的観測に過ぎなかったのかもしれません。しかし私は、市場は適応していき、追加関税が課されればつまづくといった具合に、第1次トランプ政権の時と似た展開になるのではないかと考えています。
 

こうしたことは、インフレと成長に対してどのような意味を持つか?

関税がもたらす米国のインフレ上昇や成長率低下についても懸念すべきか、との質問もよく受けます。

短期的には関税は物価上昇を引き起こしますが、これは撤廃されると迅速におさまる傾向にあります(だからこそ私は、インフレについては移民政策の方をはるかに懸念すべきだと強く主張してきました)。従って、通常は持続的なインフレにはつながりません。

しかし、関税は需要を抑制する可能性があります。つまり、成長率の方がはるかに大きな問題であり―関税適用が長期にわたって続けば、それこそが懸念すべきリスクではないかと私は考えています。また報復措置は関税の影響を拡大し、グローバル化させます。これはすなわち、世界経済が成長率の低下とインフレ上昇に見舞われる可能性があるということです。米国が失うものはどの貿易相手国よりも少ないかもしれませんが、貿易戦争の相手国の幅が広がれば、米国経済への累積的なダメージは、どの貿易相手国よりも大きくなる可能性があることを心に留めておく必要があります。

先週発表されたコンファレンスボードの調査で、消費者信頼感が大幅に低下したことからも分かるように、政策の不透明感が米国の消費者心理にマイナスの影響を及ぼしている兆候は既に見られています。また、先週発表された米国の国内総生産(GDP)データでは、第4四半期の設備投資が減少しました。これは、関税その他の政策に関してビジネス環境が不透明となっていることに起因する可能性が高いでしょう。

つまるところ、関税は最適な結果をもたらさない傾向にありますが、現在の景気サイクルを脱線させる可能性は低いと考えられます―ただし、関税の適用が増え、また適用期間が長引くほどリスクは増大するでしょう。月曜に発表された米ISM製造業景況指数とS&Pグローバル米製造業購買担当者指数(PMI)は、いずれも、ここしばらく見られなかったほど製造業の見通しが楽観的であることを示しましたが、関税の適用が視野に入ってきたことで、これはたやすく変化する可能性があります。関税に起因する心理や支出計画の悪化の兆候について、引き続き注視してまいりたいと思います。
 

決算シーズンと中央銀行がニュースの中心に

より前向きな材料としては、確かに失望する内容もあったものの、全体として、S&P 500種指数構成銘柄の決算の内容がこれまでのところ良好だという点に目を向けることが重要です。これまで決算発表を行った企業のうち、77%が第4四半期に予想を上回る業績を上げました9。さらにS&P500種指数構成銘柄の(未公表の企業の予想値と既公表の企業の実績値を合わせて算出した)ブレンド利益成長率は13.2%であり、実現すれば、2021年第4四半期以降で最高の前年同期比利益成長率となります9。また、英国を除く欧州株と日本株に関する業績予想がさらに上方修正されたことも心強い動きです。

最後に、先週はいくつかの主要中央銀行から発表がありました。カナダ銀行と欧州中央銀行(ECB)は利下げを決定し、先行きに大いに不透明感があること(米国の関税引き上げの可能性によって悪化した面が大きい)を示唆しました。両銀行は明らかにハト派寄り―カナダ銀行は同時に量的引き締めの終了を発表―のトーンでありつつも、一定程度インフレデータの制約を受けるとの認識を示しました。

FRBは予想通り、据え置きを決定しました。FRBは、関税その他の政策が米国経済に与える影響と闘わねばなりませんが、それはデータ次第であり、非常に辛抱強く対応していく意向を明らかにしています。これは、2025年の最初の利下げが第2四半期(それもおそらく第2四半期後半)までずれ込む可能性を示唆しているように思われます。
 

今後の展望

今週は、まさに展開中の「テレビドラマ」のような関税戦争の状況を追う、忙しい週となるのは間違いないでしょう。また今週は、世界中で多くのサービス業PMIのデータが発表予定であり、またイングランド銀行の金融政策決定、米国とカナダの雇用統計の発表も予定されています。

関税で既に市場が神経質になっていることから、インフレ関連データへの感応度は高まると考えられます。自身の時間軸を把握し、それに従って行動することの重要性を改めて強調したいと思います。大半の投資家にとっては、それは落ち着いて分散投資を続けていくことに他なりません。また、ポートフォリオにおいてより戦術的となることを志向する場合は、2018年から2019年にかけての関税戦争と似たようなシナリオが再び展開されれば、十分長い時間軸を持つ投資家にとって、市場の短期的な売りが買いの機会となるでしょう。

(執筆協力:ポール・ジャクソン)
 

  • 1.

    出所:FRBベージュブック、2018年7月

  • 2.

    出所:FRBベージュブック、2018年10月

  • 3.

    出所:FRBベージュブック、2018年12月

  • 4.

    出所:FRBベージュブック、2019年3月

  • 5.

    出所:FRBベージュブック、2019年7月

  • 6.

    出所:FRBベージュブック、2019年11月

  • 7.

    出所:スタンダード&プアーズ、2019年12月31日

  • 8.

    出所:MSCI、2019年12月31日

  • 9.

    出所:ファクトセット業績見通し、2025年1月31日

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MC2025-016