米国株が世界経済の不確実性の煽りを受ける

〔要旨〕
- 米国株が下落:先週、米国株が下落した一方で、欧州、英国、日本、中国の株価はいずれも上昇した
- 金融政策:今年に入り、欧州と英国では米国以上に金融政策による下支えが行われているが、それは今後もさらに続くだろう
- 財政政策:ユーロ圏、英国、中国で財政刺激策が強化される見込みである一方、米国では連邦政府支出の大幅な削減が行われている
今後の展望
注目の日程
先週、米国株が下落する一方で、他地域の株価は(一部地域ではかなり大幅に)上昇しました。MSCI米国指数が1.4%下落した一方で、MSCI欧州指数、MSCI英国指数、MSCI日本指数、MSCI中国指数はいずれも大幅な上昇を記録しました1。欧州中央銀行(ECB)のクリスティーヌ・ラガルド総裁が先週、「経済見通しは例外的な不確実性によって曇っている」と認めたばかりですが、なぜ米国株の動きは、他地域の株価とこれほどまでに異なっているのでしょうか2?いくつかの考えを、以下にまとめました:
- 金融政策による支援:先週の欧州中央銀行(ECB)の利下げ決定に見られたように、今年に入ってから、欧州経済に対する金融政策面での支援は、米国経済に対するよりも多く行われており、それは今後も続くとみられます。ECBは過去8回の会合で7度目になる利下げを決定しましたが、必要であればさらに利下げを行う用意があるようです。イングランド銀行も2月に利下げを決定しましたが、今年さらなる利下げが行われる可能性があります。逆に、米連邦準備理事会(FRB)は2025年に入ってからこれまで利下げを行っておらず、関税が米国経済に与える影響を見極めてから金融緩和を行うのがより適切と考えているようです。FRBのジェイ・パウエル議長は先週、「シカゴ出身の偉大なフェリス・ビューラーがかつて言ったように、『人生はかなり速く動く』。当面の間、我々は政策スタンスの調整を検討する前に、より状況が明確になるのを待つ方が良い」と説明しました3。
- 財政政策による支援:防衛支出の増額が優先事項となる中で、ユーロ圏、また英国でも財政刺激策が強化されるとみられます。また、政策当局が、国内の消費拡大と米国の関税由来の逆風への対抗に重点を置く中国でも、同様に財政刺激策の拡大が予想されます。中国の経済成長は力強く、予想を上回りましたが、高関税からくる逆風に対抗するにあたっては大幅な財政刺激策が必要となるでしょう。逆に、米国は依然として積極的な連邦政府支出削減を行っており、これはもちろん刺激にはなりません。また何らかの減税措置が導入されたとしても、政府支出の大幅な削減を相殺するには十分でない可能性があります。
- バリュエーション:米国株のバリュエーションは、他地域の株式のバリュエーションよりもはるかに高くなっています。例えば、MSCI 米国指数の直近の実績PERは25.11、 予想PERは20.53となっています4。これを、他の主要指数と比較してみましょう4。
• MSCI 欧州指数:実績PER 15.53、予想PER 13.73
• MSCI 英国指数:実績PER 13.27、予想PER 11.94
• MSCI日本指数:実績PER 13.74、予想PER 13.55
• MSCI オール・カントリー・ワールド指数:実績PER 20.57、予想PER 17.23
中には、長期にわたって高いバリュエーションを無視できるか、少なくとも許容できる投資家もいるでしょう。しかし、不確実性が大きい時期には、バリュエーションはより重要となり得ます。このような「例外的に」不確実な環境下では、投資家が高いバリュエーションを許容できない可能性がたかまるでしょう。 - 米国の政策の不確実性:政策の不確実性は、企業の投資や雇用計画を冷え込ませる可能性があります。私たちは、第1次トランプ政権での関税戦争において、それを目の当たりにしました。今回の関税賦課は、より広く深い範囲に及んでおり、不確実性ははるかに大きくなっています。例えば先週、ゴールドマン・サックスのCEOは、「世界各地で経済活動が減速しているとの示唆が増えつつあり、景気後退の見通しが強まっている。企業のCEOや機関投資家を含む当社の顧客は、重要な意思決定の可能性を制約している短期・長期の不確実性の大きさを懸念している」と述べました5。また米国の政策的不確実性は日に日に高まっており、最近ではトランプ大統領がパウエルFRB議長を解任するのではないかとの懸念が浮上していますが、そうなれば、市場にとっては大きな負の影響を及ぼす可能性があります。要するに、このレベルの政策的不確実性は非常に不安定な状況を引き起こす可能性が高く、経済と市場を安定させる、米国政府の歴史的役割に反するものだと言えるでしょう。
- 米国の消費者:米国の消費者:米国の消費者が関税戦争の震源地となる可能性が高く、これは、個人消費に大きく依存する経済にとっては問題となるでしょう。特に、現在の財政政策によって失業率が大幅に上昇するような事があればなおさらです。小売売上高が予想を上回り、3月の米消費支出はどうにか「乗り切った」ようにも見えますが、これは、今後の小売売上高が直面する逆風に拍車をかけるだけかもしれません。
今後の展望
今後は、特に米国において、ボラティリティと不確実性が上昇する可能性が高いでしょう。投資家は、平均的な景気後退期間や大統領任期よりも一般的にははるかに長いと考えられる、自身の投資の時間軸に集中することが重要です。また、投資ポリシーの維持、十分な分散投資の継続、定期的なリバランス、不確実性とボラティリティを活用する機会の探求といった基本的な考え方を念頭に置くことも重要となります。
注目の日程
公表日 |
指標等 |
内容 |
---|---|---|
4月21日 |
米国景気先行指数 |
景気循環の重要な転換点と短期の経済の方向性に |
4月22日 |
ユーロ圏消費者信頼感指数 |
ユーロ圏の消費者心理を追跡 |
4月22日 |
日本製造業購買担当者景気指数 |
製造業の経済の健全性を示す |
4月22日 |
日本サービス業購買担当者景気 |
サービス業の経済の健全性を示す |
4月22日 |
オーストラリア製造業購買担当者 |
製造業の経済の健全性を示す |
4月22日 |
オーストラリアサービス業購買 |
サービス業の経済の健全性を示す |
4月23日 |
ユーロ圏製造業購買担当者景気 |
製造業の経済の健全性を示す |
4月23日 |
ユーロ圏サービス業購買担当者 |
サービス業の経済の健全性を示す |
4月23日 |
英国製造業購買担当者景気指数 |
製造業の経済の健全性を示す |
4月23日 |
英国サービス業購買担当者景気 |
サービス業の経済の健全性を示す |
4月23日 |
FRBベージュブック |
FRBの各地区における現在の経済状況に関する |
4月24日 |
米国耐久財受注 |
現在の産業活動を測定 |
4月24日 |
米国中古住宅販売件数 |
住宅市場の健全性を示す |
4月24日 |
英国GfK消費者信頼感指数 |
英国の経済活動に対する消費者信頼感の水準を |
4月24日 |
日本消費者物価指数(CPI) |
インフレの動向を追跡 |
4月25日 |
英国小売売上高 |
小売業の健全性を示す |
4月25日 |
カナダ小売売上高 |
小売業の健全性を示す |
4月25日 |
ミシガン大学消費者調査 |
消費者心理とインフレ期待の指数を提供 |
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1.
出所:MSCI、2025年4月18日週のリターンは、MSCI 米国指数が-1.40%、MSCI 中国指数が1.50%、MSCI 欧州指数が4.10%、MSCI英国指数が5.40%、MSCI 日本指数が4.80%、MSCI 新興国指数が2.30%だった。
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2.
出所:ロイター、”ECB cut rates as Lagarde says economic outlook 『clouded by exceptional uncertainty』”、 2025年4月17日
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3.
出所:FRB講演記録、2025年4月16日
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4.
出所:MSCI、2025年3月31日
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5.
出所:アトランタ・ボイス、”Stocks slide as Fed Chair Powell warns of impact of tariffs on the economy”、2025年4月16日
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