10-12月期に投資家が注目すべき10のポイント
〔要旨〕
- 原油価格:経済面での1つの大きな懸念は、中東情勢の緊迫化が原油価格の大幅上昇につながり得ること
- 米国のインフレ:9月の雇用統計が極めて好調だったことから、米国経済の過熱への懸念が再燃
- 金融政策:多くの主要中央銀行が、従来予想されたよりも緩やかに金融政策の歩みを進めていくと予想される
1. 原油価格
2. 米国株式市場のボラティリティ
3. 金価格
4. ユーロ圏経済
5. 米国のインフレ
6. 金融政策の歩み
7. 英国株
8. 米10年債利回り
9. 中国の景気刺激策
10. 決算シーズン
7-9月期は、ほとんどの先進国でディスインフレが続き、主要な欧米先進国の中央銀行が幅広く緩和を実施し、多くの地域で株価が力強い推移を見せ、各国経済及び市場にとってかなり重要な四半期となりました1 。10-12月期に入り、次に何が起こり得るでしょうか?注目すべき10のポイントを取り上げてみました:
1. 原油価格
米国の港湾労働者のストライキが収束してきました(少なくとも1月までには落ち着くと見られ、その頃には労使交渉は決着する可能性が高いと考えられます)が、もう1つの大きなマクロ的懸念は、中東情勢の緊迫化と、それによる原油価格への影響です。
良いニュースは、今は1970年代後半とは状況が異なるということです。現在米国は、単独で世界の原油総生産量の12.9%を生産する、世界最大の産油国となっています2 。過去6年にわたり、米国はこの地位を保ってきました(それ以前は、1970年代半ば以来首位に立ったことはありませんでした3 )。加えてOPECプラスは、価格維持につながる減産に関し、合意形成がより困難となっています。その結果、中東の紛争状況にもかかわらず、原油価格は比較的低水準で推移しています。
とは言え、イスラエルがイランの石油施設を攻撃するのではないかとの懸念から、先週、原油価格は大幅に上昇しました。実際ブレント原油価格は、9月26日時点で1バレル当たり72ドルを下回っていましたが、その後同80ドルまで上昇しました4 。私は直近の実績にも鑑み、これが短期的な急騰に過ぎないことを期待しています。2023年10月と2024年4月に、中東紛争の激化懸念から、原油価格が1バレル当たり90ドルを超えて急騰した後、すぐに反落したのがその例です4 。
2. 米国株式市場のボラティリティ
9月26日以降、原油価格の上昇につれて、VIXボラティリティ指数も15付近から20近くまで上昇しました5 。米大統領選挙が控えており、また原油価格の更なる上昇の可能性もあることから、私は短期的にVIXが更に上昇すると予想しています。しかし、ボラティリティの上昇や相場の変動は非常に感情に左右されやすいものであり、ミスプライスの機会ともなり得ることに留意する必要があります。
3. 金価格
金価格は7-9月期も上昇を続けました。私は、金を地政学的リスクに対するヘッジと見ています。金のような資産でポートフォリオをヘッジしている限り、リスク許容度の範囲を超えても気にしていないように見られます。この10年間で多くの投資家が、安全資産として米国債に代わって金を選ぶようになりました。米国の選挙をめぐる不確実性や中東の緊張の高まりを考えると、この傾向は続くと私は予想しています。また、金利低下に伴い金保有の機会費用が低下することから、一部の投資家にとっては金の魅力が増す可能性もあります。このような環境では、金価格の上昇が必ずしも「リスクオフ」の環境を示唆するとは限らないことを、認識することが重要です。
4. ユーロ圏経済
ユーロ圏経済は非常に堅調に推移してきましたが、徐々に下押し圧力がかかってきています。ユーロ圏の9月の購買担当者景気指数(PMI)をみると、製造業については縮小領域に深く入り込んでおり(特にドイツは非常に強い逆風に直面しています)、サービス業については拡大基調にあるものの、7ヵ月ぶりの低水準となりました6 。
良いニュースは、9月のユーロ圏インフレ率の速報値が1.8%と8月の 2.2%から低下したことで、インフレ率が2021年6月以来初めて、欧州中央銀行(ECB)の目標値である2%を下回ったことから注目に値します7 。これにより、来週のECB会合で再び利下げが決定される可能性が高まったと言えるでしょう。しかし一定のディスインフレの進展が見られるものの、サービスインフレは依然高止まりしていることから、それが「既定路線」であるとまでは言えません。ユーロ圏経済は大きなプレッシャーにさらされていることから、私はECBが緩和を継続し、待ち望まれているように景気の後押しをすると期待しています。
5. 米国のインフレ
先週発表された9月の雇用統計が非常に好調だったことから、米国経済が過熱しているのではないかとの懸念が再燃しています。新規雇用が予想を大幅に上回っただけでなく、時間当たり賃金の上昇率が前年同月比4.0%増と、7月の同3.6%増を大きく上回りました8 。実際この過熱懸念は、その前日に発表された9月のISMサービス業購買担当者景気指数(PMI)が、54.9と8月の51.5を大きく上回ったことに端を発したものです9。それだけでなく、9月は新規受注サブ指数も59.4と大幅に上昇し、8月の53.0を6ポイント以上も上回りました9 。これを受け、特に9月に米連邦準備制度理事会(FRB)が大幅な利下げを実施したばかりだったことから、市場には驚きが広がりました。
パウエルFRB議長が先週月曜日の講演で、以下のとおり、FRBは依然として(インフレデータを含め)データ次第で判断していくことを明確にしたことから、今後もデータを注視していきたいと考えています:「既に述べたとおり、政策金利を0.5%引き下げるとの我々の決定は、適度な経済成長とインフレ率の持続的な2%までの低下を背景として、政策スタンスの適切な調整により、労働市場の力強さを維持できるとの我々の確信の高まりを反映している。今後、経済が概ね見通しに沿って展開していけば、政策は時間とともに、より中立的なスタンスへ移行していくだろう。しかし、道のりが決まっているわけではない。リスクには二面性があり、我々は引き続き、各会合ごとに意思決定を行っていくつもりだ。追加的な政策調整の検討にあたっては、新しく出てくるデータ、変化する経済見通し、リスクバランスを注意深く評価していく10 。」
6. 金融政策の歩み
全体的に、私は多くの主要中央銀行が、従来予想されたよりも緩やかに金融政策の歩みを進めていくのではないかと予想しています。例えばFRBが路線を変更し、今年あと1回のみの利下げ実施に留まったとしても驚きはありません。また日本に新首相が誕生した今、慎重姿勢の日銀は、前回利上げへの市場の反応に鑑み、正常化のプロセスをより緩やかに進めようとするかもしれません。全体的に中央銀行は、各々の政策路線を継続すると思われますが、短期的にはより慎重になる可能性があります。
7. 英国株
英国株に期待せずにはいられません。10月30日に発表予定の予算案に関連した短期的な逆風が予想されることは承知していますが、MSCI英国指数のバリュエーションは、その他先進国のMSCI指数に対してより魅力的となっています11 。英国経済はこれまでよく持ちこたえており、直近では予算案への懸念から心理が悪化しつつあるものの、家計のバランスシートは堅調です。英国株上昇のきっかけになり得るのはシンプルに、予算案の発表による不確実性取り除かれることと、金融緩和の継続かもしれません。加えて、MSCI英国指数の配当利回りは3.64%と、MSCIオール・カントリー・ワールド指数の配当利回り1.87%を大きく上回っています12 。
8. 米10年債利回り
米10年債利回りは、市場がFRBの動向を再考する中、再び4%を上回りました13 。米国から発表された最近の好調な経済データに鑑みれば、これに驚きはありません。しかし今後数週間は大きなボラティリティが予想され、経済データ、「Fedspeak(FRB関係者の発言)」、また選挙をめぐる懸念を反映して、利回りは大きく変動すると思われます。
9. 中国の景気刺激策
以前にも述べたように、最近発表された景気刺激策は中国経済に大きな影響を与える可能性があります―また、中国の消費に左右される高級品メーカーなど、欧州経済の一部産業を活性化させる可能性もあるでしょう。もちろん、中国株も大きな恩恵を受けると考えられます。既に発表された景気刺激策の内容は好感されており、今後詳細が明らかになるにつれ、株価は更に上昇する可能性があると予想しています。これまでのところ、非常に勇気づけられる状況ではありますが、金融刺激策に伴って出される財政刺激策の詳細に、細心の注意を払いたいと考えています。
10. 決算シーズン
米国株のバリュエーションは高くなっており、それゆえ米国の決算シーズンは私にとって、更に重要性を増しています14 。ファクトセットは、S&P500種指数構成企業の7-9月期の前年同期比増益率を4.2%と予想しています15 。またこれまでのところ、これら企業のうち、プラスの利益ガイダンスを発表した企業が50社に過ぎなかった一方で、マイナスの利益ガイダンスを発表した企業は60社にのぼります15 。実際アナリストたちは、7-9月期の始まりから現在までの間に、利益予想を通常よりも大幅に引き下げています。しかし私は、引き下げられたこれらの予想を、より多くの企業が上回る可能性が高く、またマイナスの利益成長を発表する企業は全体のごく一部に留まりそうだという点を心強く思っています。
いつものように、私は決算説明会でのコメントやガイダンスに細心の注意を払いたいと考えています。これらは、経済状況や来期の業績のヒントを得る上で、非常に重要な情報となります。
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1.
出所:MSCI、2024年9月30日までの第3四半期について、MSCI欧州指数のリターンは6.63%、MSCI英国指数のリターンは7.94%、MSCI米国指数のリターンは5.93%、MSCI日本指数のリターンは5.88%、MSCI中国指数のリターンは23.64%、MSCIエマージング・マーケット指数のリターンは8.88%となった。
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2.
出所:米国エネルギー情報局、2024年3月11日
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3.
出所:アメリカン・エンタープライズ研究所、2019年6月11日
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4.
出所:ブルームバーグ、2024年10月7日
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5.
出所:ブルームバーグ、2024年10月7日
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6.
出所:S&Pグローバル/HCOB、2024年10月
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7.
出所:ユーロスタット、2024年10月
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8.
出所:米国雇用統計、2024年10月4日
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9.
出所:米供給管理協会、2024年10月
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10.
出所:FRB講演記録、2024年9月30日
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11.
出所:MSCI、2024年9月30日、MSCIオールカントリー・ワールド指数の株価収益率21.76に対し、MSCI英国指数の株価収益率は12.86だった。
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12.
出所:MSCI、2024年9月30日
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13.
出所:ブルームバーグL.P.、2024年10月7日
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14.
出所:MSCI、2024年9月30日、MSCIオール・カントリー・ワールド指数の株価収益率21.76に対し、MSCI 米国指数の株価収益率は27.33だった。
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15.
出所:ファクトセット利益予想、2024年10月4日
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MC2024-124