Global markets in focus

5月に売り逃げるな:株価に上昇余地がある理由

5月に売り逃げるな:株価に上昇余地がある理由
〔要旨〕
  • FRB:直近のデータからは、米国経済の緩やかな冷え込みとディスインフレの進行再開が示唆され、これらは利下げ開始を早めるのに役立つと考えられる
  • 余剰現金:利下げ開始が間近に迫れば、株式や債券に向かい始める可能性が高い現金が大量に積み上がっている
  • 決算シーズン:株価上昇の土台として、1-3月期決算が堅調な内容となる必要があったが、実際概ねそのような結果となった
1.米国のディスインフレの再加速を示唆するより多くの兆し

2.決算シーズンは概ね良好な結果となった

3.自社株買いが世界的に増えつつある

4.世界の多くの株式のバリュエーションが魅力的となっている

5.余剰現金が積み上がっている

6.地政学的緊張はまだ株価の妨げとはなっていない

注視すべきリスク

今週の展望

注目の日程

 

投資家は今、株式へのエクスポージャーを減らしたい気持ちになっているかもしれません。ここ数週間で、STOXX欧州600からダウ工業株30種平均まで、世界中の主要株価指数が史上最高値を更新しました。また投資家は夏の間に株式を売却し秋に再投資すべきだと示唆する、「5月に売り逃げろ」との古い格言もあります。私は季節的な投資戦略は好きではなく、市場の最高値更新を必ずしも恐れるべきだとも思っていません。私が株価はここから更に上昇し得ると確信している6つの理由は、以下のとおりです。

 

1.米国のディスインフレの再加速を示唆するより多くの兆し

先週の本レポートで私は、先週発表のデータの中で最も重要なのは、4月の米消費者物価指数(CPI)だろうと述べました。というのも米国のディスインフレの進行は、1-3月期に停滞したように見えていたからです。良いニュースだったのは、ヘッドラインCPIが前月比0.3%上昇、前年同月比3.4%上昇と予想通りだったことです1 。更に重要なのは、コアCPIが前月比0.3%上昇、前年同月比3.6%上昇となったことです1 。コアCPIは、2021年4月以来の低水準でした1

また4月の米生産者物価指数(PPI)は、一見すると予想以上に上昇したように見えましたが、よく見ると穏やかな数字でした。更に、米小売売上高は予想を下回りました。

総合すると、これらの直近のデータは、米国経済が緩やかに冷え込んできており、ディスインフレの進行が再開したことを示唆しています。このことは、早晩利下げの開始が適切だろうとの米連邦準備制度理事会(FRB)の確信を強めるのに役立つはずです。そして、金利の低下は株価を押し上げ得ます。歴史を見ても、過去7回のFRB利下げサイクル開始後からの12ヵ月間、(MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスでみた)世界株式は平均で6%以上上昇しました2 。ここから世界金融危機が始まったばかりの2007年に開始した利下げサイクルを除くと、MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスの平均リターンは10%を超えます2
 

2.決算シーズンは概ね良好な結果となった

株価が上昇するための強固な土台ができるには、1-3月期決算が堅調な内容となることが必要でした。そして実際、概ねそのような結果が得られました。

  • 2024年1-3月期の業績について、S&P500種指数構成企業の93%が実績値を発表しましたが、うち実に78%が収益予想を上回り、60%が売上高予想を上回りました3
  • これまで1-3月期決算を発表したSTOXX欧州600構成企業のうち―四半期ベースの収益実績が予想を上回った割合が過去の平均で54%であったのに対し―60.7%が収益予想を上回りました4
  • 今決算シーズンは、小型株も良好でした。これまで1-3月期決算を発表したラッセル2000種指数構成企業1,621社のうち、59.5%が収益予想を上回りました4
     

3. 自社株買いが世界的に増えつつある

以前にも述べたように、自社株買いが世界各地で増えつつあります。例えばつい数週間前、アップルは1,100億ドルの自社株買い計画を発表しました。また、欧州や英国の企業も自社株買いを大幅に増やしており、自社株買い利回りは今や米国で見られるような水準となっています。ヴァンダービルト大学オーウェン経営大学院による2021年の研究では、自社株買いに関する17年間のデータを調査し、自社株買いは株価上昇に役立つだけでなく、流動性を高め、ボラティリティを低下させてきたと結論づけています5
 

4. 世界の多くの株式のバリュエーションが魅力的となっている

実際、(バリュエーションが高い「マグニフィセント7」タイプの銘柄のほとんどは、間違いなく高い収益成長期待を背景としていますが、)一部の米国株は高いバリュエーションを維持しています。一方、世界の多くの株式のバリュエーションは、過去のレンジに比べて低くなっています。例えば中国株のバリュエーションは非常に魅力的となっており、現在、長期的な景気循環調整後株価収益率(CAPE)レンジの最下限にあります。また日本株、新興国株、欧州株、英国株は全て10年平均CAPE以下の水準にあります6

バリュエーションは短期的なアウトパフォーマンスの予測にはほとんど役立ちませんが、一般的に低バリュエーション銘柄は、予想を上回る収益や政策支援など、何らかのきっかけがあればアップサイドの可能性を実現することが多いと言えます。言い換えれば、低バリュエーションに前向きなサプライズが加われば、強力な組み合わせとなり得ます。私は、利下げが進み世界経済の再加速が近づくにつれて、米国外の株式や小型株のパフォーマンスが向上する可能性は高いのではないかと考えています。
 

5. 余剰現金が積み上がっている

以前にも申し上げたように、個人投資家、機関投資家を問わず、一部の投資家の間で現金への偏重が顕著となっています。利下げ開始が間近に迫れば、余剰現金が債券や株式に向かい始める可能性が高いでしょう。これは、株式を上向かせる強力なきっかけとなり得ます。

思い返せば米国のマネー・マーケット資産は、2008年10-12月期にピークをつけ、その後大幅に下落しました。2009年3月に株価が力強く長期に上昇を始めるにつれ、積み上がっていた現金が活用されるようになったのは偶然とは言えないようです7
 

6. 地政学的緊張はまだ株価の妨げとはなっていない

ここ数年、地政学的リスクは増幅しているように思われます。しかし投資家は、株式などのリスク資産を避けるのではなく、金などの地政学的リスクヘッジとなる資産をポートフォリオに組み込むことによって、地政学的リスクに対応しているようです。地政学的リスクヘッジの活用により、投資家は株式へのエクスポージャーを安心して維持できるようになったようです。実際、金は5月20日に史上最高値を更新しましたが、これは週末にフーシ派が石油タンカーを攻撃したとのニュースや、イラン大統領がヘリコプター墜落により死亡したとのニュースにより後押しされたものと見られます。しかし、これが株価の足を引っ張っているようには見えません。
 

注視すべきリスク

私は、株式市場については前向きに捉えつつも、今年注視すべきリスクがあることも認識しています。金融政策予想が急速に変化する可能性があることから、株式市場が今年、1回または複数回後退に見舞われる可能性はあると考えています。 それ自体は問題ないですし、株式へのエクスポージャーを増やすエントリーポイントとなるかもしれず、健全とも言えるでしょう。私は、株式市場への参入の持続可能な拡大の始まりが近づいているのではないかと思っています。このことが、株式ポートフォリオのウェイトを見直し、小型株や米国外株式への十分なエクスポージャーを確保するきっかけとなれば幸いです。
 

今週の展望

当面多くの「Fedspeak(FRB関係者の発言)」が予定されていますが、FRBは金融環境の緩和を引き続き抑制しようとして、どちらかというとタカ派的な発言をすると予想されます。他の中央銀行からの発言も予定されていますが、欧州中央銀行(ECB)による6月の利下げは既定路線のように思われることから、私はこれらの発言はよりハト派的になると予想しています―そして、他の中央銀行も間もなく利下げを開始する可能性が十分残っています。

私が考える最も重要なデータは、5月末に発表される米個人消費支出(PCE)価格指数です。これはFRBが4-6月期のディスインフレの進展をみる上で役立ち、利下げ開始に大きく近づく内容となる可能性があります。しかし今週は、英国、カナダ、日本のインフレデータ及び、ユーロ圏、英国、米国の購買担当者景気指数(PMI)にも注目したいと考えています。結局のところ、経済成長を阻害することなくインフレを低下させられるかというバランスが重要なのです。今週の締めくくりには、いくつかの中央銀行による金融政策決定、米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨、そしてもちろん私のお気に入りのミシガン大学消費者調査の公表が予定されています。この調査は、金曜日の「必読の読み物」となるでしょう。
 

注目の日程

公表日

指標等

内容

5月20日

オーストラリア準備銀行会合
議事要旨

中央銀行の意思決定プロセスについて
更なる洞察を与える

5月21日

ECBラガルド総裁講演

中央銀行の意思決定プロセスについて
更なる洞察を与える

5月21日

カナダCPI

インフレの動向を示す

5月21日

イングランド銀行ベイリー総裁講演

中央銀行の意思決定プロセスについて
更なる洞察を与える

5月21日

ニュージーランド準備銀行
金融政策決定

金利の道筋に関する最新の決定を発表

5月22日

英国CPI

インフレの動向を示す

5月22日

英国PPI

インフレの動向を示す

5月22日

ECBラガルド総裁講演

中央銀行の意思決定プロセスについて
更なる洞察を与える

5月22日

米国中古住宅販売件数

住宅市場の健全性を示す

5月22日

FOMC議事要旨

中央銀行の意思決定プロセスについて
更なる洞察を与える

5月22日

日本PMI

製造業とサービス業の経済の健全性を示す

5月22日

韓国銀行金融政策決定

金利の道筋に関する最新の決定を発表

5月23日

ドイツ製造業・サービス業PMI 

製造業とサービス業の経済の健全性を示す

5月23日

ユーロ圏製造業・サービス業PMI 

製造業とサービス業の経済の健全性を示す

5月23日

英国製造業・サービス業PMI 

製造業とサービス業の経済の健全性を示す

5月23日

メキシコ国内総生産

地域の経済活動を測定

5月23日

米国製造業・サービス業PMI 

製造業とサービス業の経済の健全性を示す

5月23日

米国新築住宅販売件数

住宅市場の健全性を示す

5月23日

英国GfK消費者信頼感

英国の消費者の家計と経済に関する
見方を追跡

5月23日

日本CPI

インフレの動向を示す

5月24日

英国小売売上高

消費需要を測定

5月24日

ドイツ国内総生産

地域の経済活動を測定

5月24日

米国耐久財受注

耐久財の新規発注を追跡

5月24日

カナダ小売売上高

消費需要を測定

5月24日

ミシガン大学消費者調査
(確報値)

米国の消費者の経済と個人支出に
対する期待を評価

  • 1.

    出所:米労働統計局、2024年5月15日

  • 2.

    出所:ブルームバーグL.P.、過去7回のFRBによる利下げサイクルの開始時点は、1989年6月9日、1995年7月7日、1998年9月29日、2001年1月5日、2007年9月21日、2019年8月2日、2020年3月6日

  • 3.

    出所:ファクトセット業績インサイト、2024年5月17日

  • 4.

    出所:LSEG I/B/E/S、2024年5月14日

  • 5.

    出所:資本市場競争力センター、“Corporate Liquidity Provision and Share Repurchase Programs”、クレイグ・M・ルイス、ジョシュア・T・ホワイト、ヴァンダービルト大学、2021年9月24日

  • 6.

    出所: LSEGデータストリーム及びインベスコ・グローバル・マーケット・ストラテジー・オフィス、それぞれMSCI China指数、MSCI Japan指数、MSCI Emerging Market指数、MSCI Europe指数、MSCI UK指数がそれぞれカバーする資産クラス

  • 7.

    出所: 2023年12月31日までのFRB、2024年3月7日

ご利用上のご注意

当資料は情報提供を目的として、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社(以下、「当社」)が当社グループの運用プロフェッショナルが日本語で作成したものあるいは、英文で作成した資料を抄訳し、要旨の追加などを含む編集を行ったものであり、法令に基づく開示書類でも金融商品取引契約の締結の勧誘資料でもありません。抄訳には正確を期していますが、必ずしも完全性を当社が保証するものではありません。また、抄訳において、原資料の趣旨を必ずしもすべて反映した内容になっていない場合があります。また、当資料は信頼できる情報に基づいて作成されたものですが、その情報の確実性あるいは完結性を表明するものではありません。当資料に記載されている内容は既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。当資料には将来の市場の見通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における作成者の見解であり、将来の動向や成果を保証するものではありません。また、当資料に示す見解は、インベスコの他の運用チームの見解と異なる場合があります。過去のパフォーマンスや動向は将来の収益や成果を保証するものではありません。当社の事前の承認なく、当資料の一部または全部を使用、複製、転用、配布等することを禁じます。

MC2024-068