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経済成長に最も影響を与える可能性のあるトランプ次期政権の4つの政策

経済成長に最も影響を与える可能性のあるトランプ次期政権の4つの政策
〔要旨〕
  • 潜在的な成長機会:規制緩和と減税は、米国の経済・市場の成長を押し上げる可能性
  • 潜在的な成長課題:関税と移民規制はマイナスの影響を与える可能性があるが、その度合いは具体的な政策次第となる
  • 全体像:次期政権がまだ始まっていない中で4つの点について分析を行ったが、トランプ次期政権の政策の中には、政権の掲げる他の政策と相殺し合うような働きをするものも含まれる
潜在的な成長機会:規制緩和と減税

潜在的な成長課題:関税と移民規制

政権が始まるまで政策の行方は分からない
 

米国が第2次トランプ政権に向かう中、新政権に誰が入り、どの選挙公約が実現するのか、世界中が注目しています。このテーマについて多くの質問がありましたので、本稿では、ノイズを排して、経済と市場に最も大きく影響し得る政策に焦点を当てたいと思います。

これらの問題を台帳の構造に置き換えて捉えると分かりやすくなります:プラスの影響を与えそうな政策を1つの列に、マイナスの影響を与えそうな政策をもう1つの列に分類するのです。実際の影響は、政策のタイミングと範囲次第となる点に留意することが重要です。これは複雑で微妙な計算であり、あくまでざっくりした見積もりにすぎないことを前置きさせていただきます。

 

潜在的な成長機会:規制緩和と減税

規制緩和:政治的環境が規制緩和に好意的であれば、企業が投資を行う可能性が高まります。トランプ政権は、新たな規制ルール1つにつき10の規制ルール撤廃を行うとの目標を掲げており、これにより大幅な規制緩和環境が生まれる可能性が高いと考えられます。これは、経済成長にとってプラスに働く可能性が高いでしょう。

例えば、ある規制と投資に関する研究結果では、技術革新が急速に進んだ1990年代に米国に比べて欧州の市場規制が厳格化された結果、欧州よりも米国の方が急成長を遂げたとされました1。この研究は、(特に市場参入の自由化を促進する)規制改革が投資を促進する可能性が高い一方、産業への規制強化は投資を抑制する可能性が高いことが分かったとしています。さらに、規制緩和環境は心理的な影響を与え、経済だけでなく市場においても「アニマル・スピリット」を解き放つ可能性があります。最近の市場の動きは、既にそうしたアニマル・スピリットの証左となっているのかもしれません。

  • タイミング:従来の規制緩和(すなわち規制政策の縮小)、特に「規制外」指針の撤廃は、議会の承認を必要としないため、迅速な実施が可能です。他方で、主要規制の撤廃や政府機関全体の廃止にはより時間がかかるでしょう。新設される政府効率化省(DOGE)からの勧告は2026年半ばになる見込みで、勧告の実施には議会の承認が必要となる可能性が高いと考えられます。しかし、大幅な規制緩和環境を実現するにあたって、政府機関の廃止が必要というわけではありません。むしろコスト削減と、政府規模の縮小という哲学に向けた動きのように思われます。
  • 市場への影響:投資にとっては全般的に「リスクオン」の環境が促進される可能性が高いでしょう。金融銘柄と暗号通貨は、特に恩恵を受けるでしょう。

減税:トランプ政権は、第1次政権下で導入した減税・雇用法(TJCA)の延長と拡大に重点を置くでしょう。TCJAが失効した場合に財政が成長の足を引っ張る可能性がありますが、これを回避できることから、これは経済にとってプラスに働く可能性が高いでしょう。財政乗数の違いから、一部の減税政策は、他の減税政策に比べてプラスの影響をもたらす可能性が高いという点に留意することが重要です。(財政乗数は、財政支出の増加や減税が国の経済生産に及ぼす効果を測定するものです)。例えば米国議会予算局(CBO)の試算によると、低・中所得者に対する2年間の減税の乗数効果は0.3~1.5であり、高所得者に対する1年間の減税の乗数効果(0.1~0.6)を大きく上回っています2

トランプ政権の政策綱領には、国内製造業の法人最高税率を21%から15%に引き下げる計画も含まれており、実現すれば米国は、大国の中でも最も法人税が低い国の1つとなります。しかし私たちは、この提案は、TCJAが投票権を持つ家計に直接影響すること、既に多額の連邦赤字を抱えていること、国防費引き上げへのプレッシャーがあること等を考慮すると、TCJAの延長よりも実現が難しいだろうと考えています。とは言え、TJCAが更新されるだけでも減税の環境が整うことになるため、規制緩和と同様、経済と市場に「アニマル・スピリット」を解き放つ可能性があります。

減税が財政赤字に与える影響についても考慮に入れねばなりません。当初のTCJAには、充分な財源がありませんでした(つまり政策当局が、税収減を歳出削減やその他の税収によって完全に相殺することをしていませんでした)。そのため財政赤字が拡大し、政府債務全体の増加につながりました。ブルッキングス研究所の説明で、「減税の財源は、減税が長期の成長に与えるインパクトに大きな影響をもたらす。非生産的な政府支出の即時削減により賄われる減税はGDPを増加させ得る一方で、政府投資の削減により賄われる減税はGDPを減少させ得る」とある通りです3。しかし、トランプの経済アドバイザー達は、減税(及び規制緩和)が投資、生産性、経済成長を促進し、最終的には間接的に減税分を賄うことになるだろうと主張してきました。いずれの見方が正しいかは時間が教えてくれると思いますが、減税に関連した高揚感が、短期的には米国市場を引き続き押し上げる可能性があります。

  • タイミング:TCJAの延長・拡大には議会の承認が必要であり、議会は歴史的に期限間近(この場合、2025年12月31日)にならないと動かないため、実施までには時間がかかるでしょう。発効は、早くても2026年1月1日になると予想されます。
  • 市場への影響:これにより「アニマル・スピリッツ」が解き放たれ、「リスクオン」の投資環境が促進される可能性があります。不動産投資信託(REIT)がその恩恵を受ける可能性が高いでしょう。TCJAによる20%のパススルー税特別控除が延長されれば、REITの株主は、キャピタルゲイン税率が適用される配当金を除き、受け取る課税対象のREIT配当所得の20%を控除できるようになります。
     

潜在的な成長課題:関税と移民規制

関税:トランプ次期大統領は、中国製品に対する関税を60%以上に引き上げ、他国製品に対しては一律の関税10%を導入すると約束しました。トランプ氏が財務長官に指名したスコット・ベッセント氏は、関税は歳入を増やし、戦略的に重要な米国産業を保護するためのツールであるだけでなく、トランプ氏の外交政策目標を達成するための交渉ツールでもあると述べました。

関税をめぐっては、それが単なる脅しに過ぎないのか、あるいは実際に導入されるのか―またそれがどの程度の期間導入されるのか(それに応じて経済への影響が変わる)は不透明です。

一般的に、保護主義的な措置は最適な経済成長をもたらさない傾向にありますが、株式市場にとっては必ずしも長期的なハードルとはなっていません。私たちは、これらの関税が短期的にインフレをもたらし、長期にわたって維持されれば、総需要を減退させる可能性が高いと予想しています。米中貿易戦争のさなかだった2018年12月、米連邦準備理事会(FRB)の地区連銀経済報告(ベージュブック)は、「関税によりコストが上昇したとの報告が、製造業、土木業から小売業や飲食業まで、より広範囲に広がっている」と指摘しました。また関税戦争は(あるいは関税の脅威だけをとっても)、企業投資の抑制につながる、政策の不確実性を生み出す可能性があります。例えば2018年の貿易戦争による不確実性は、米国の企業投資の停滞につながりました。

  • タイミング:米国の貿易協定に違反したり、「不当」または「不合理」な行為を行ったりした他国に対して米国が貿易制裁を課すことを認める1974年通商法301条を発動し、または特定の産業輸入が米国の国家安全保障に及ぼす影響に関連する1962年通商拡大法232条を発動することで、中国に対して比較的短期間(~3ヶ月)の関税政策を実施することが可能だと思われます。 その他の輸入品に対する一律関税も、301条の発動により実施されるかもしれませんが、一部の専門家は、10%の一律関税を迅速に実施するためには、1977年の国際緊急経済権限法による必要があると考えています。さもなければ、トランプ新政権は議会の承認を必要とし、実現にはより時間がかかるでしょう。
  • 市場への影響:第1次トランプ政権下で適用された関税は、長期的には大きな影響を与えなかったものの株式市場のボラティリティを高め、2018年にS&P500種指数がマイナスリターンに陥ることにつながりました4。中国株はさらにマイナスの影響を受け、2018年は2桁の下落となりましたが、長期的な影響は受けませんでした5。関税戦争は世界的な質への逃避にもつながり、米ドルは2018年を通して4.3%上昇しました6。ひとたび状況が解決されると、米国経済と金融市場は正常化しました。

移民抑制政策:トランプ次期政権が打ち出した移民政策には、2つの重要な要素が含まれます:アメリカ南部国境の実質的な閉鎖、そして既に米国内に居住している不法滞在者の強制送還です。

  • 国境を閉鎖するとの威嚇は、メキシコが集団移民を終わらせ、米国への不法入国を思いとどまらせるために行動するよう促すことを意図しています。移民労働者を雇用する産業への影響が、いずれ米国の経済データに現れるかもしれません。
  • トランプ次期大統領は、自身の政権で米国内の1,500万~2,000万人の不法滞在者の強制送還に踏み切るとしていますが、短期的な措置の中心は、裁判所から米国からの退去を命じられた約140万人及び、これまでの370万件の不法滞在案件と認定された移民の強制送還でしょう7。大規模な強制送還は経済成長にとって大きなマイナスとなる可能性があり、また現在の失業率が4.2%と米国の労働市場が既に非常にタイトとなっていることを考えると、インフレを引き起こす可能性もあります8。サービス業を中心とする一部の産業では、労働力不足が深刻化しています。また労働者が強制送還されれば、農業など一部の産業で価格が大幅に高騰する可能性があります。その結果、経済成長の速度が低下しインフレが上昇し、FRBの金融政策緩和を一時停止(あるいは逆方向への巻き戻し)に導く可能性もあります。

最悪のシナリオは、大量の強制送還が「スタグフレーション」環境につながることです。このシナリオでは、労働力人口の減少や伸びの鈍化が、経済活動の水準や潜在成長率の低下につながり、景気減速や景気後退を引き起こす可能性があり、同時に企業の賃金コスト上昇を通じてインフレを押し上げることが考えられます。

しかし、それほど劇的ではない強制送還措置及び、または国境がしっかり守られているとみなされた場合に、労働者の一時的な滞在ステータスを認める新しい移民ルールに軸足を移すことによって、こうした政策の影響が緩和される可能性があります。

  • タイミング:国境閉鎖は迅速に実施される可能性があり、議会はその支援のための追加的なリソースを承認する可能性が高いでしょう。近隣諸国は関税の脅威から、この取り組みに協力する可能性が高いと考えられます。しかし、強制送還には遥かに時間がかかり、また莫大な費用もかかるでしょう。現実問題として、第2次トランプ政権の4年間で何百万人も一気に強制送還することは、不可能ではないにしても難しいかもしれません。そのためには米国内に州兵や軍を大規模かつ長期的に、高い費用をかけて配備する必要があり、それには多くの州知事の承認や議会による財政承認を要し、数々の法廷闘争が起こり得るでしょう。そう考えるとこの強制送還は、少なくとも次期政権が約束した規模では実現しないかもしれません。
  • 市場への影響:国境閉鎖は、債券利回りの低下や企業(含む中小企業)の利益率のいくぶんかの低下を通じて、市場に緩やかな影響を与える可能性があります。もし強制送還がインフレを押し上げ、FRBによる緩和を停滞させる(さらに悪い場合は逆方向への巻き戻しを起こす)ことになれば、株式市場のリターンは低下するでしょう。もし強制送還が成長に悪影響を及ぼし、スタグフレーション的な環境を生み出せば、株式市場の大幅な低迷につながるでしょう。
     

政権が始まるまで政策の行方は分からない

まとめると、トランプ次期政権の政策の中には、トランプ政権の掲げる他の政策と相殺し合うような働きをするものが含まれることを認識しなければならない、ということです。つまり、私たちはこれら4つの観点について、政権がまだ始まっていない状態で分析を行いましたが、現実にはこれら全てが同時に起こり、経済に異なる影響をもたらす可能性があるということです。すなわちトランプの主要政策の中には、経済成長と市場にプラスの影響を与える可能性があると楽観的に見られるものがある一方で、経済成長と市場にマイナスの影響を与える可能性があると懸念される政策もあるということです。私たちは今後も状況を注視し、定期的に最新情報を提供してまいりたいと考えています。

(執筆協力:アーナブ・ダス)

 

  • 1.

    出所:全米経済研究所ペーパー、“Regulation and Investment”、Alesina, Ardagna, Nicoletti and Schiantarelli、2003年

  • 2.

    出所:米国議会予算局、2015年

  • 3.

    出所:ブルッキングス研究所、“Effects of Income Tax Changes on Economic Growth”、2016年2月1日

  • 4.

    出所:ブルームバーグL.P.、S&P 500種指数は、2018年1月からの1年間に4.4%低下したが、2018年1月からの3年間に年率換算リターンで17.6%上昇した。

  • 5.

    出所:MSCI、MSCI中国指数は2018年暦年に18.75%低下した。しかし2019年暦年に23.66%、2020年暦年に29.67%上昇した。

  • 6.

    出所:ブルームバーグL.P

  • 7.

    移民データの出所:アクシオス、“Trump's mass deportation plan could clog immigration courts for years”、2024年11月24日 

  • 8.

    出所:米国労働統計局、2024年12月6日

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