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米欧株は迫り来るリスクにもかかわらず上昇

米欧株は迫り来るリスクにもかかわらず上昇
〔要旨〕
  • 米国株:米国株の投資家は明らかに、トランプ次期政権下で大幅な規制緩和が行われる可能性など、ポジティブな誘因に焦点を当てている
  • 欧州株:欧州株も、いくつかの困難な展開にもかかわらず、先週は懸念を見過ごし堅調に推移した
  • 正当化される楽観主義:特に金融政策が支援的な場合は、困難な状況であっても楽観主義が正当化されることが多いと考えられる
強気心理が低下し、弱気心理が上昇

高いバリュエーション

インフレの再燃は、市場が直面する最大のリスクの可能性

債券自警団もリスクを生じさせ得る

欧州株も不安の壁を登りつつある

金融政策が支援的であることが、株価上昇を正当化する可能性

不安の壁を越えた先に

これらは投資家にとって何を意味するのか?

感謝を捧げる

今後の展望

注目の日程
 

米国株は先週、個人投資家の懸念が高まっているにもかかわらず、小型株の力強い動きを含め、続伸しました。では一体何が、株式がいわゆる「不安の壁」を登るのを後押ししているのでしょうか?米国株の投資家たちは明らかに、関税や非常に厳格な移民政策から来る潜在的な経済的影響等のリスクについて見ないふりをする一方で、トランプ次期政権による大幅な規制緩和や減税の可能性といったポジティブな誘因に焦点を当てています。本レポートでは、リスクについて説明し、楽観的な見方が正当化されると考えに至る理由を深堀りし、世界の注目すべきポジティブなトレンドを紹介したいと思います。

 

強気心理が低下し、弱気心理が上昇

まず、不安の壁の高さについて感度を得ましょう。以下は、11月21日に発表された、米個人投資家協会(AAII)センチメント調査の直近の週の結果となります:

  • 強気心理は、今後6ヵ月間における株価上昇予想として定義されますが、8.6%低下し41.3%となりました(ただし過去平均の37.5%は上回っており、直近55週で過去平均を上回ったのは54回目となります) 1
  • 弱気心理は、今後6ヵ月間における株価下落予想として定義されますが、4.9%上昇し33.2%となりました。弱気心理が10週ぶりに過去平均を上回ったことは、注目に値します。
     

高いバリュエーション

私は昨年来、バリュエーションの高さを懸念するお客様の声もよく耳にしてきました。確かに一部の銘柄、特に米国の大型株は、株価収益率が非常に高くなっており、完璧あるいは完璧に近い価格となっています。しかし、現在進行中の株価上昇を見れば、ほとんどの投資家がバリュエーションについて見ないふりをしつつ、投資を続けていることは明らかです。
 

インフレの再燃は、市場が直面する最大のリスクの可能性

以前にも申し上げたとおり、関税と移民という2つの主要な政策リスクについて言えば、移民政策の方が、既に労働市場が(特に特定の産業で)タイトとなっており、人件費を押し上げる可能性があることから、私にははるかに大きな経済的懸念に思われます。移民を強制送還すれば、関税のように元に戻すということもできず、粘着的かつ高いインフレをもたらす要因ともなり得ます。従って、当然のことながら、私は今後の最大のリスクはインフレ再燃の可能性だと考えています。そうなれば、米連邦準備制度理事会(FRB)の緩和のペースは更に緩やかとなり、停止する可能性さえあります。

私は、緩和の道筋はよりゆるやかになるものの、重要なことに変わりないだろうと考えています。先週発表された米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨を読んだ後でも、今後のFRBについての私の見通しに変化はありませんでした。議事要旨では、緩和のペースは数ヶ月前の予想よりいくぶん緩やかになると考えられるものの、FRBは依然としてデータ次第で判断する姿勢を維持することが確認されました。私は、FRBが12月に利下げをするとは予想していません。従前からそのように考えていましたが、今回公表された議事要旨の以下の記述によってそれが確信に変わりました:「インフレ見通しの上方リスクにはほとんど変化がなく、雇用と成長の下方リスクはいくらか低下したとみられる」 2。これは、最新の個人消費支出(PCE)価格指数からも裏付けられる形となりました。予想通りではあるものの、インフレは依然高く、最近はディスインフレにそれほど進展が見られていません。これはFRBが、短期的により慎重になり得ることを示唆しています。
 

債券自警団もリスクを生じさせ得る

もう1つのリスクは、財政赤字を拡大させる政策への抗議として国債の売却を行う投資家の間で、債券自警主義が起こる可能性です。そのような売りは利回りの上昇を招き、株価の低下圧力となる可能性があります。

しかし先週は、スコット・ベッセント氏が米財務長官に指名されたことが主な要因となり、利回り上昇の反転が見られました。ベッセント氏は、関税に関しては理性的で穏健派と見なされています。さらに重要なのはベッセント氏が、財政保守派だと考えられていることです。それはまさに今、米国が必要としていることでしょう。ベッセント氏は、連邦財政赤字を国内総生産(GDP)の3%まで削減する計画(欧州連合(EU)も加盟国に対して使用しているベンチマーク)を提案しました。同氏の財務長官指名と財政規律強化の可能性は、大統領選のかなり前からトランプがオッズでリードし始めて以来見られてきた、米10年物国債「利回りの上昇」の大部分を逆転させるのに十分でした。米10年物国債利回りは先週、4.4%を大きく上回る水準から4.175%まで低下し、投資家の懸念にもかかわらず、最近株価に追い風が吹いていることを説明する一助となっています3
 

欧州株も不安の壁を登りつつある

また世界の他の地域でも、不安を見過ごし、株価が好調に推移しているのが見てとれます。MSCI欧州指数で示される欧州株は、いくつかの困難な展開にもかかわらず、先週1.8%のリターンを記録しました4 。こうした最近の動きのほんの一部ですが、以下に記載しました:

  • ユーロ圏のサービス業および製造業の購買担当者景気指数(PMI)速報値はともに縮小領域に入り、期待はずれとなりました。ユーロ圏サービス業PMIは49.2と10ヵ月ぶりの低水準に落ち込んで縮小領域に入り、ユーロ圏製造業PMIも45.2に低下しました5。とはいえ、ユーロ圏内でも大きな差異が見られたことに留意する必要があります。ドイツとフランスはそれぞれ生産が低下しましたが、両国が直面している逆風を考えれば、驚くにはあたりません。ユーロ圏の他の地域では、企業活動が引き続き拡大しました。
  • 2024年11月のユーロ圏消費者信頼感指数(速報値)は-13.7と、長期平均を下回り、市場予想よりも悪化しました6。これは6月以来の低水準となりました。消費者の経済全般に対する評価と家計の経済見通しについて、大幅な低下が見られました。
  • 11月のユーロ圏インフレ率の速報値は前年同月比2.3%となり、10月の同2.0%から上昇し、ECBの目標インフレ率を上回りました。しかしコアインフレ率は安定しており、金融緩和のペースが鈍化することはないでしょう7
  • ドイツの10月小売売上高は、前月比1.5%低下と予想よりも悪化しました8
  • ドイツの11月の失業率は10月と同じ6.1%となり、2021年2月以降で最も高い水準でした8
  • フランスの10年物国債利回りは、予算をめぐる危機的状況から先週、ギリシャの10年物国債利回りを初めて上回りました。フランスはEUから、財政赤字をGDP比3%まで削減するようプレッシャーを受けています。目標はこれを2027年までに達成することでしたが、ミシェル・バルニエ首相は財政緊縮のペースをより緩やかにするため、目標達成を2029年に延期することを決定しました。フランスの今年の財政赤字は、GDPの6.1%となると予想されています。バルニエ首相の計画では、歳出削減と増税を組み合わせ、2025年の財政赤字をGDPの5.1%まで引き下げることとしていますが、これは大きな反対にあっています。極右の国民連合党首マリーヌ・ルペン氏は先週、フランスの予算案に変更―具体的には電力消費税の引き上げ見送りと年金水準の引き上げ―がなければ「不信任案」を提出し、フランスの少数政権を倒すと宣言しました。フランスの予算は欧州委員会から承認を受けたばかりでしたが、これにより当然、EUの財政目標達成はより困難となり、首相の座が再び空席となる可能性も考えられます。来年度予算案を12月21日までに可決しなければならないため、今後数週間が勝負となるでしょう。
     
金融政策が支援的であることが、株価上昇を正当化する可能性

まとめると、私は市場が不安の壁を登りつつあるのを見て嬉しく思っています―特に金融政策が支援的な場合は、困難な状況であっても楽観主義が正当化されることが多いと考えられます。またそれが市場に広がりつつあることも嬉しく思います。2025年に景気の再加速が予想されることに鑑みれば、それも正当化されるでしょう。
 

不安の壁を越えた先に

懸念材料ばかりではないことを付け加えておく必要があります。良い材料も見られます:

  • 「悪い報せは良い報せ」を完璧に示す例として、経済データの軟化を受け、欧州中央銀行(ECB)が従来予想されていたよりも迅速に緩和を実施するとの期待が先週高まりました。
  • 先週、日本政府は2500億ドル規模(GDPの約4%)の総合経済対策を発表し、国債利回りと日銀の引き締め観測が上昇しました。これにより円高が進行しました。この総合経済対策は、米国のCHIPS法など他の先進国でも見られるような産業政策の一形態です。人工知能や半導体産業を支援し、低所得世帯向けにエネルギー補助金を支給するとしています。これが国会を通過する保証はありませんが、日本の株式市場と経済にとっては朗報です。
  • 日本政府はまた、国内最大の年金ファンドの運用利回り目標を引き上げることを提案しましたが、これは結果として、株式買い入れの増加につながるでしょう。
  • 11月の財新製造業PMIは51.5と、予想を大きく上回って5ヵ月ぶりの高水準となり、中国製造業の業況は上向きとなっています9。さらに心強いのは、新規受注サブ指数が3年半ぶりの高水準を記録したことです。これは、中国政府による公式の製造業PMIで見られる改善と呼応しています。
  • カナダ独立企業連盟(CFIB)は、カナダにおける12ヶ月先の業績予想を反映した長期指数であるビジネス・バロメーターの11月分を発表しました。ビジネス・バロメーターは10月の55.8から11月は59.7に上昇し、2022年5月以来の高水準に達しました10。この好転は広範囲にわたっており、ほとんどのセクターで楽観的な見方が増えつつあることを反映しています。
     
これらは投資家にとって何を意味するのか?

これらのことは、株価が不安の壁を登りつつあるのが正当なことだと示唆しています。しかし私は、米国株式市場の割高なセクター(大型のグロース株、特にテクノロジー銘柄)への「適正な規模」でのエクスポージャーを有して利益を得つつ、バリュエーションが低く、来年の景気再加速の恩恵を手堅く受ける可能性のある米国中小型株へのエクスポージャーを増やすことが理にかなっていると考えます。

また、米国以外の株式や債券へのエクスポージャーを十分に確保する時期でもあると考えます。今はボラティリティが低く、誤った安心感に浸っているかもしれませんが、今後数カ月のうちに波乱や売り越しがあるでしょう。これは、歴史的に株式との相関が低いオルタナティブへのエクスポージャーを持つことの重要性を示唆しています;不動産へのエクスポージャーを増やすには、今が特に魅力的な時期かもしれません。
 

感謝を捧げる

先週木曜日は米国のサンクスギビング(感謝祭)でした。感謝祭は米国(そしてカナダ)の祝日かもしれませんが、感謝は世界共通です。だから、愛する人たちと過ごし、自分が何に感謝しているかを考える素晴らしい機会でした。家族(毛皮のある家族もそうでない家族も)だけでなく、私は毎日好きな仕事ができることに大いに感謝し、それが当然だと思わないように努めています。この仕事が好きな理由の1つは、多くの優秀で洞察力があり、かつ親切で善良な同僚たちと働く機会に恵まれているということです。特に、毎日私に示唆を与えてくれるグローバル・マーケット・ストラテジー・オフィスのメンバーには感謝しています。そして、毎週レモンをレモネードに変えてくれる、長年の(そして長く大変な思いをしている)エディターに感謝しています(編集部注:全く大変ではありません!)。そして、読者の皆さんに心から感謝しています。忙しい一週間の合間を縫って、私の記事を読んでくださることに、つつしんで御礼申し上げます。
 

今後の展望

今週は重要な一週間となるでしょう。FRBがこれ以上の雇用悪化を望まないとしているため、米国雇用動態調査(JOLTS)と11月の雇用統計に注目したいと思います。また、ユーロ圏の小売売上高、ミシガン大学消費者調査(速報値)、いつも良質な事例情報が盛りだくさんのFRBのベージュブックも注視しています。
 

注目の日程

公表日

指標等

内容

12月2日

インド製造業購買担当者景気指数

製造業の経済の健全性を示す

12月2日

ユーロ圏失業率

労働市場の健全性を示す

12月3日

米国雇用動態調査(JOLTS)

求人、採用、離職に関するデータを収集

12月4日

オーストラリア国内総生産

地域の経済活動状況を測定

12月4日

FRBベージュブック
(米地区連銀経済報告)

FRBの各地区における現在の経済状況に
関する事例調査結果に基づく情報を収集

12月5日

ユーロ圏小売売上高

小売業の健全性を示す

12月5日

日本全世帯家計調査

消費の健全性を追跡

12月5日

インド準備銀行金融政策決定

金利の道筋を追跡

12月6日

米国雇用統計

労働市場の健全性を示す

12月6日

カナダ雇用統計

労働市場の健全性を示す

12月6日

ミシガン大学消費者調査

消費者心理とインフレ期待に関する指数

  • 1.

    出所:米個人投資家協会センチメント調査、“Optimism Sinks”、2024年11月21日

  • 2.

    出所:FOMC議事要旨、2024年11月6―7日

  • 3.

    出所:ブルームバーグL.P.、11月22日から11月29日

  • 4.

    出所:MSCI、2024年11月29日

  • 5.

    出所:S&Pグローバル/HCOB、2024年11月22日

  • 6.

    出所:欧州委員会、2024年11月21日

  • 7.

    出所:ユーロスタット、2024年11月28日

  • 8.

    出所:ドイツ連邦統計局、2024年11月29日

  • 9.

    出所:S&Pグローバル、財新、2024年12月1日

  • 10.

    出所:CFIB、2024年11月29日

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