Global markets in focus

決算シーズン初期の状況は、米国経済の底堅さを示唆

決算シーズン初期の状況は、米国経済の底堅さを示唆

〔要旨〕
  • 決算シーズンが開始:10月11日時点で、S&P500種指数構成企業のうち30社が7-9月期決算を発表しており、いくつかの明るいトレンドが見られる
  • 消費者の強さ:企業のコメントからは、米国経済が高所得層の消費者や堅調な企業バランスシートに支えられ、良好な状態で推移していることが示唆される
  • セクター間の差異:特定のセクター間では予想に大きな開きがあり、利益トレンドの推移を注意深く見守りたい
中国の景気刺激策の詳細が明らかに

今後の展望
 

決算シーズンは始まったばかりで、これまでにS&P500種指数構成企業の6%が決算を発表しました。現在、S&P500種指数構成企業の7-9月期利益成長率は、4.1%と予想されています。しかしセクター間で大きな開きがあり、テクノロジーセクターの利益成長率予想が14.9%なのに対し、素材・エネルギーセクターの利益成長率予想はマイナスとなっています1 。財務データの発表内容だけでなく、企業幹部が各々の見方や予想を語る決算説明会議事録も、経済について興味深い示唆をもたらしてくれます。

過去の四半期を振り返ると、S&P500種指数構成企業のほとんどで、実績が予想を上回ってきたことは重要です。実際、直近40四半期のうち37四半期で、同指数の利益成長率の実績が予想を上回りました1 。ファクトセット・リサーチは、7-9月期もこの傾向が続くと予想しており、同指数構成企業の決算が出そろった後の利益成長率は、現在の予想の4.1%を大きく上回る前年同期比7%程度となる可能性が高いとしています1 。これは株価にとって支援材料となるでしょう。

もちろん私は、決算シーズンから得られる、経済の強さ(あるいは脆さ)やリスク、様々な経済セクターや消費者セグメント、そして短期的な見通しに関する示唆についても関心があります。私は、先週決算を発表した(S&P500種指数構成企業とそれ以外を含む)数多くの企業の決算説明会議事録に目を通しました。そこから得られたいくつかのこととしては、以下の通りです:

  • 米国経済は引き続き良好な状態にあり、ソフトランディングする可能性が高いと考えられます。ある大手金融サービス企業は、「決算実績から、ソフトランディングとの整合性が見て取れる。このようなゴルディロックス的な経済状況とかなり整合的と言える」としました2
  • 全体的に、消費は堅調となっています。同大手金融サービス会社は:「全体的に消費のパターンにはある種の堅実さが見られ、これは消費者が堅実な財政基盤を持っているとの見方や、堅調な労働市場と整合的だ」としています2。 また別の金融サービス会社は、「消費の健全性の変化を引き続き追っているが、当社の消費者信用ポートフォリオを通してみた延滞関連の統計からは、トレンドに実質的な変化は見られない」と述べました3 。一方で、消費者の価格感度は全体的に引き続き高い状況です。いくつかの企業は消費者が「見極めを行っている」と表現し4 、他の企業は消費者が「価値」を求めていると表現しました5
  • 高所得層の消費者が、依然として米国経済を牽引しているようです。ある大手航空会社は決算説明会で、「消費者は引き続き上質な体験を優先しており、当社のコア顧客層の財政状況は健全で、引き続き旅行が上位の支出項目となっている」と説明しました6 。高所得層の消費が、低所得層の消費の弱含みを補っているように思われます。ある金融サービス企業の決算説明会で述べられたように、「預金・資産の少ない一定の顧客層では、インフレが堅調な雇用と賃金上昇を部分的に相殺しており、より大きなストレスが引き続き見られ」ています7 。高所得層の消費者が人口に占める割合は小さいものの、全体としては米国の個人消費の多くを担っていると考えられることから、辻褄が合っています。
  • 労働市場が、消費の健全性のカギを握っているようです。ある金融サービス会社は、「全体的に、当社の米国一般消費者向け事業の顧客は、堅調な労働市場と賃金上昇の恩恵を受け、比較的良好な状態を維持している」としました8 。消費に一定の弱含みが見られる企業は、労働市場にその原因があるとしています。ある飲料会社は、「...マクロ経済の逆風が続いており、特に失業率の上昇が、当社製品に対する需要伸び率の最近の減速につながっている...」と説明しました9
  • 企業の状況も良好です。ある金融サービス会社の決算説明会では、「企業のバランスシートは堅調で、経済において消費と投資の両方で貢献している...」との説明がありました10 。各企業は来年度について、楽観的な見通しを持っているようです。ある航空会社の決算説明会では、「出張需要は増え続けている...」との説明がなされました11 。同社の最近の企業調査によると、回答者の85%が、2025年に出張支出の増加を予想したとのことです11
  • 貿易紛争の高まりからくる経済リスクを忘れてはいけません。ある事業会社は、利益率を圧迫した1つの要因として、貿易障壁が増えたことを挙げました:「…一部の国で輸入関税が引き上げられ、製品の越境輸送コストが上昇した」 12

全体的に、今回の初期段階の決算発表により、直近の米国経済データに見られる底堅さが一定程度確認されるとともに、いくつかのリスクがあることが想起させられました。
 

中国の景気刺激策の詳細が明らかに

その他のニュースとして私は、中国当局が数週間前に発表した景気刺激策の潜在的な影響力の大きさについて言及してきました。週末に行われた記者会見で、中国財政省が、長期的な成長を支えるために財政省のバランスシートを活用する計画の詳細を発表しました。 新たな景気刺激策の具体的な金額は明らかにされませんでしたが、この計画には、地方政府のバランスシート改善のための政府債務の増加、国有銀行の資本増強、不動産市場の支援、資金的支援を要する人々への支援供与が含まれています。これは包括的な計画となっており、積極的な構造改革を意図したもので、中長期的には経済と市場に恩恵をもたらす可能性が高い、というのが私たちの最初の印象です。
 

今後の展望

今週は更に決算発表が続き、米小売売上高や米鉱工業生産など、米国経済の強さについて更なる示唆をもたらす重要なデータの発表が予定されています。加えて、カナダと英国のインフレ率、ユーロ圏の景況感なども発表されます。

決算説明会議事録に目を通すにあたり、私は人員削減に関するガイダンスに注目しています。前述したように、今後の米国消費者の強さは労働市場の強さによって決まるようです。最近の経済データには明るい内容も見られますが、私はこれまで以上に米国経済の落ち込みを警戒しており、労働市場の弱含みが震源地になるかもしれないと考えています。先週、米国の新規失業保険申請件数が1年以上ぶりの高い水準に急増したことから、私は労働市場の弱含みの兆候に目を光らせています―それが間違いなく米国消費者の健全性の鍵を握っており、ひいては米国経済の健全性の鍵を握っていると考えられるからです。

(執筆協力:デイビッド・チャオ)

公表日

指標等

内容

10月14日

中国新規銀行融資

消費者・企業向け銀行ローン残高の変化を測定

10月15日

日本鉱工業生産指数

鉱工業セクターの経済の健全性を示す

10月15日

フランスCPI

インフレの動向を示す

10月15日

ユーロ圏鉱工業生産指数

鉱工業セクターの経済の健全性を示す

10月15日

ユーロ圏ZEW景況感指数

今後6カ月間のユーロ圏の景況感を測定

10月15日

カナダCPI

インフレの動向を示す

10月15日

韓国失業率

労働市場の健全性を示す

10月16日

英国CPI

インフレの動向を示す

10月16日

英国PPI(生産者物価指数)

生産者に対して支払われるモノ・サービスの
価格変化を測定

10月16日

英国住宅価格指数

住宅市場の健全性を示す

10月16日

カナダ住宅着工件数

住宅市場の健全性を示す

10月16日

オーストラリア失業率

労働市場の健全性を示す

10月17日

ユーロ圏CPI

インフレの動向を示す

10月17日

欧州中央銀行金融政策決定

金利の道筋に関する最新の決定を発表

10月17日

米国小売売上高

小売セクターの健全性を示す

10月17日

米国鉱工業生産指数

鉱工業セクターの経済の健全性を示す

10月17日

米国NAHB住宅市場指数

住宅市場の健全性を示す

10月17日

日本CPI

インフレの動向を示す

10月17日

中国固定資産投資

工場、道路、電力網、不動産などの非農村部の
総設備投資額を追跡

10月17日

中国国内総生産

地域の経済活動を測定

10月17日

中国鉱工業生産指数

鉱工業セクターの経済の健全性を示す

10月17日

中国小売売上高

小売セクターの健全性を示す

10月17日

中国失業率

労働市場の健全性を示す

10月18日

英国小売売上高 

小売セクターの健全性を示す

10月18日

米国住宅建築許可件数

建設業の今後の業況について示唆を与える

10月18日

米国住宅着工件数

住宅市場の健全性を示す

  • 1.

    出所:ファクトセット利益予想、2024年10月11日

  • 2.

    出所:JPモルガン・チェース決算説明会、2024年10月11日

  • 3.

    出所:ウェルズ・ファーゴ決算説明会、2024年10月11日

  • 4.

    出所:ティルレイ・ブランズ決算説明会、2024年10月10日、MTYフード・グループ決算説明会、2024年10月11日

  • 5.

    出所:コナグラ・ブランズ決算説明会、2024年10月2日、ドミノ・ピザ決算説明会、2024年10月10日

  • 6.

    出所:デルタ決算説明会、2024年10月10日

  • 7.

    出所:ウェルズ・ファーゴ決算説明会、2024年10月11日

  • 8.

    出所:ウェルズ・ファーゴ決算説明会、2024年10月11日 

  • 9.

    出所:コンステレーション・ブランズ決算説明会、2024年10月3日

  • 10.

    出所:ウェルズ・ファーゴ決算説明会、2024年10月11日

  • 11.

    出所:デルタ航空決算説明会、2024年10月10日

  • 12.

    出所:ファスナル決算説明会、2024年10月11日

ご利用上のご注意

当資料は情報提供を目的として、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社(以下、「当社」)が当社グループの運用プロフェッショナルが日本語で作成したものあるいは、英文で作成した資料を抄訳し、要旨の追加などを含む編集を行ったものであり、法令に基づく開示書類でも金融商品取引契約の締結の勧誘資料でもありません。抄訳には正確を期していますが、必ずしも完全性を当社が保証するものではありません。また、抄訳において、原資料の趣旨を必ずしもすべて反映した内容になっていない場合があります。また、当資料は信頼できる情報に基づいて作成されたものですが、その情報の確実性あるいは完結性を表明するものではありません。当資料に記載されている内容は既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。当資料には将来の市場の見通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における作成者の見解であり、将来の動向や成果を保証するものではありません。また、当資料に示す見解は、インベスコの他の運用チームの見解と異なる場合があります。過去のパフォーマンスや動向は将来の収益や成果を保証するものではありません。当社の事前の承認なく、当資料の一部または全部を使用、複製、転用、配布等することを禁じます。

MC2024-126