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2024年後期のグローバル市場見通し:利下げへの期待

2024年後期のグローバル市場見通し:利下げへの期待

〔要旨〕
  • 地域差が広がる経済:地域差の広がりががテーマとして再浮上しており、各国は今後、様々な成長やインフレの状況を経ると考えられる
  • 「緩やかな緩和」:2024年後期には、ほとんどの国でインフレが低下すると予想されるが、その軌道は利下げを小幅に留まらせる程度のものとなるだろう
  • 利下げはいつ?:特に市場のシナリオが引き続き大いに変動すると予想されるため、現段階では利下げの正確な回数よりも、利下げ開始のタイミングが重要と考えられる
本見通しについて

基本シナリオ:トレンドを下回る(が底堅い)成長と「緩やかな緩和」

米国:成長に弱含みの兆し、2回の利下げが予想される

ユーロ圏:大幅なディスインフレと景気モメンタムの改善

英国:緩やかな回復と限定的な緩和が予想される

日本:より力強いインフレが追加引き締めにつながり得る

中国:前向きな成長サプライズへの注視

新興国:国による機会の顕著な違い

投資へのインプリケーション

その他のシナリオ

 

2024年には世界経済が減速すると幅広く予想されていたにもかかわらず、ほとんどの主要国で、成長とインフレがコンセンサス予想を上回る状態が続いています。私たちの2024年後期の見通しの軸は、インフレの道筋及び、中央銀行が金融緩和を開始する際のリスクバランスをどう量るかという点です。

 

本見通しについて

私たちは半期に一度、インベスコの主要な投資プロフェッショナルとソートリーダーを集めて見通しを策定しています。これは常に緊密な協力のもと行われる取り組みであり、健全な意見の相違や対話のもと形作られます。インベスコでは多様な意見を尊重しており、これが最終的な価値提供の強化につながると考えています。

本見通し策定のプロセスの一環として、私たちは、今後最も可能性が高いと思われるシナリオについて精査しました。また、いくつかの重要な変数次第で展開し得る、その他のシナリオについても精査しました。

(「2024年後期のグローバル市場見通し」全文をご覧いただく場合はこちらから)

基本シナリオ:トレンドを下回る(が底堅い)成長と「緩やかな緩和」

私たちの見るところ、需要サイドの底堅さにより、欧米主要国、特に米国のディスインフレのシナリオの進展は遅れました。しかし、2024年後期にはほとんどの国でインフレが低下し、米国以外の先進国ではより早く(ただし、利下げを緩やかに留まらせる程度のペースでの)ディスインフレが実現するとみています。

欧米先進国では、需給要因が一定期間でより整合的になっていくと予想されるため、インフレが中央銀行の目標値に向かって低下を続け、主要中央銀行による小幅な利下げも手伝って、トレンド成長率に徐々に回帰すると予想されます。しかしディスインフレの実現のペースは、以前の予想よりも大幅に遅れると予想されます。中央銀行の政策的引き締めの影響のパススルー効果の発現には予想よりも時間がかかっており、その効果はようやく現れ始めたばかりです。

私たちの見解の一部として、短期的には世界経済がソフトパッチ(軟化局面)にあり、抑制的な金融政策を背景に、トレンドを下回るものの、依然として底堅い成長を続けるとみています。各国が今後、様々な成長やインフレの状況を経ると考えられる中、2024年後半を通じて、地域差の広がりが中心的なテーマとなると私たちは考えています。

米国:成長に弱含みの兆し、2回の利下げが予想される

これまでのところ、米国経済は金融引き締め政策の影響をそれほど受けていないように見えます。しかし、米国のマクロパフォーマンスが何度も上向きのサプライズを見せた後、クレジットカード残高及び延滞率の増加、失業率の上昇など、基調的な成長には弱含みの兆しが現れているように見えます1。米国は、抑制的な金融政策の影響から、今年いっぱいはトレンドをやや下回る成長率で推移すると予想されます。

私たちの予想では、インフレは年末までバンピーな(でこぼこした)道のりで下降を続ける可能性が高く、消費者物価指数(CPI)は低下するものの、FRB(米連邦準備制度理事会)の目標である2%を上回って年末を迎えると予想しています。インフレが目標を上回る水準で安定していることから、金融緩和の程度とペースは限定的となると考えられます。私たちは今年、2回の利下げを予想しています(おそらく7-9月期に始まるでしょう)。利下げのタイミングが11月の米大統領選の影響を受ける可能性は低いでしょう。

米国株式市場は、継続的な収益成長と低下しつつあるインフレ、そして人工知能の台頭といったテーマにより恩恵を受けています。私たちは、現在の米国株の高水準のバリュエーションは、クレジット・スプレッドの小ささや継続的な収益成長など、多くの前向きなセンチメントが織り込まれていることを示唆していると考えています。

まとめると、私たちの成長期待は引き続き底堅く、期待外れとなった場合のリスクを高く見積もっています。私たちはリスク資産を選好しますが、こうした背景から上昇余地は限定的とみています。

ユーロ圏:大幅なディスインフレと景気モメンタムの改善

ユーロ圏の景気モメンタムは、引き締め的な金融政策、より軟調なグローバル経済環境、多くの地政学的な経済的逆風にもかかわらず、改善しています。先行指標である購買担当者景気指数(PMI)は、ユーロ圏内で多少のばらつきはあるにせよ、トレンド成長率に向けた継続的な改善を示唆しています。ユーロ圏の労働市場はやや軟化しているように見えるものの、インフレが大幅に低下したため、実質賃金の伸びは改善しています。

ユーロ圏の成長は米国より弱いものの、ディスインフレについてはより著しい進展を見せています2。インフレ率が中央銀行の目標値に近づいていることから、欧州中央銀行(ECB)は6月の会合で、初の利下げ(今後も実施される可能性が高いものの、そのペースは不透明)を実施しました。これも、今後の成長を下支えする可能性があります。全体として、短期の欧州成長見通しは小幅な回復にとどまり、私たちは、今年いっぱいは成長率が徐々にトレンドに回帰すると予想しています。ECBによる利下げは、欧州のシクリカルな資産とバリュエーションに一定のカタリスト(誘因)をもたらすと予想されます。

英国:緩やかな回復と限定的な緩和が予想される

英国はユーロ圏と似たような動きをすると予想されますが、時間軸はより遅く、短期の政策的金融緩和の度合いはより小さくなると考えられます。経済活動は最近改善しており、見通しの数値が持ち直しつつあるのを見ても、緩やかな回復を反映しているとみられます。ディスインフレの進行も改善していますが、その程度はユーロ圏ほどではありません。

イングランド銀行(BOE)は、経済活動が引き続き軟調であることから、年内に少なくとも1回の利下げを実施すると予想されますが、高インフレが依然として難しい背景としてあり、追加緩和は限定的となる可能性があります。

日本:より力強いインフレが追加引き締めにつながり得る

日本では、能登半島地震と国内での不正による自動車出荷の一部停止が、1-3月期の製造活動に混乱を生じさせました。しかし、賃上げ、製造業の生産改善、財政刺激策に支えられ、経済活動は回復すると予想されます。実際、直近の春闘では、賃金上昇のペースがここ最近の実績と比べてかなり高いことが示され、私たちはこれが消費の伸びを下支えし、インフレの正常化の継続を後押しすると予想しています。

インフレが緩やかに上昇する中で、私たちは、日銀が2024年末までに少なくとも1回の追加利上げを実施し、持続的な2%のインフレが実現する可能性がより高まるとみて、量的引き締めを開始する可能性もあると予想しています。

私たちは、こうした要因がグローバルな投資家の日本株への配分引き上げに拍車をかけ、2024年後期に、他の先進国株に対する日本株のアウトパフォームをもたらす可能性があると考えています。短期的には円安が続く可能性がありますが、FRBによる政策的緩和と日銀による政策的引き締めが、今年末に向けて円安を緩和していく可能性があります。

中国:前向きな成長サプライズへの注視

中国には、経済環境の改善及び前向きなサプライズの余地が十分にあると予想されます。輸出の回復や財政政策の下支えなどの要因に支えられ、成長は強まっているように見えます。

しかし、不動産投資の更なる減少、消費者心理の低下、地方政府資金の減少など不動産市場に関連する問題は、深刻な構造的課題の様相を呈しており、経済成長へのリスクとなっています。政府による不動産問題への適切な対応が一層重要となるでしょう。

最近の成長は、直近の輸出の伸びが示すように、外部要因の改善によって支えられています3。私たちは、市場心理が過度に悲観的となっており、コンセンサス予想に対して成長率がサプライズとなる可能性が高いことが示唆されると予想しています。

新興国:国による機会の顕著な違い

中国を除けば、新興国(EM)は全体として厳しい世界経済の状況に直面してきました。新興国は間違いなく、戦争によるグローバルなコモディティ価格ショック、高インフレ、急速な世界的金融引き締めにより、主要国に比べて大きな打撃を受けてきました。FRBが金利を「より長期に、より高く」するスタンスに戻したことや、ドル高が、多くの新興国にとって課題となっています。

とはいえ、比較的底堅い成長とインフレ抑制に向けた毅然とした努力について、私たちは引き続き前向きに捉えています。ひとたびFRBによる利下げが実現すれば、金利とドルの低下が新興国資産を下支えすると予想されます。

私たちは新興国の間でも、国によってマクロの状況と成長パフォーマンスに顕著な乖離が見られること、また一度低迷した国々の中でも、回復・回復への希望が説得力を持って見られる国々があることを強調したいと思います。従って、オーバーウェイト/アンダーウェイトの二元的な受動的スタイルではなく、新興国のファンダメンタルズ、マクロ的特徴や、国ごとの状況の違いを活用する、新興国への能動的なアプローチを推奨しています。

投資へのインプリケーション

私たちは、現在の市場は比較的楽観的なマクロシナリオを反映していると考えています。見通しを裏付けるデータ、矛盾するデータを含め、金利見通しの変化に市場が反応すると考えられるため、短期的には変動が予想されます。特に、市場のシナリオが引き続き大いに変動すると予想されるため、私たちは、現段階では利下げの正確な回数よりも、そのタイミングが重要だと考えています。また、一部の市場が過度にポジティブで、潜在的な問題を十分織り込んでいないという深刻なリスクもあり得ます。

マクロ的環境が好調であることから、私たちはリスク資産のオーバーウェイトを選好します。ただし、バリュエーションが非常にタイトでリスク資産の上昇余地が制限されることから、リスクの厳格なコントロールの維持が必要だと考えています。

株式。グローバルな経済成長は改善する可能性が高いと考えられるため、相対的に魅力的なバリュエーションと景気サイクルへの感応度の高さから、シクリカル銘柄と小型株を選好します。また同じ理由から、米国以外の先進国株と新興国株も選好します。中央銀行の利下げに伴い、割引率の低下もバリュエーションを下支えすると予想しています。

債券。債券利回りが過去数十年で最も高い水準にある中、スプレッドは小さいものの、特に保有期間が長いものについて、債券は魅力的な機会を提供すると考えられます。私たちの見解では、強力なファンダメンタルズが多くの債券資産を下支えしており、投資適格社債とハイイールド社債のクレジット・スプレッドが極めてタイトであることを説明する一助となっています。私たちは、このような底堅く、改善しつつある成長背景を活用するため、一定の信用リスクを選好します。また、投資適格社債と似たボラティリティを持つ傾向があるものの、現在の利回りが高いことから(私たちの見解では)より大きなリターンが期待できる、バンクローンの分散特性を好ましく思っています。デュレーションがほぼゼロであることから、バンクローンは他の債券資産クラスと比べても、金利変動の影響を比較的受けにくいと予想されます。また、新興国の現地通貨建て及びハード・カレンシー建て債券の堅調なパフォーマンスも予想されます。

不動産。不動産にも、より多くの機会が見られるようになってきています。大きなネガティブセンチメントは既に価格に反映されており、環境の改善につれ、有意な上昇の可能性があると考えられます。例えば政策金利の引き下げは、不動産の負債コストやキャップレートを引き下げる余地をもたらし、新たな取引活動や価格回復への進展につながると考えられます。

通貨。私たちは、FRBの利下げ開始に伴い米ドルは今年減価し始めると予想しており、ユーロ、英国ポンド、ブラジルレアルなどの通貨を選好します。

基本シナリオにおいて私たちが選好する対象
  • 株式:
    • バリュー株と小型株を含むシクリカル銘柄
    • 米国を除く先進国と新興国の株式
  • 債券:
    • ニュートラル・デュレーション
    • バンクローンやハイイールド社債を含む、相対的に質の高い、非投資適格債
    • 現地通貨建て及びハード・カレンシー建て新興国債
  • 通貨:ユーロ、英国ポンド、ブラジルレアルなど、米ドル以外の通貨

その他のシナリオ

昨年後半に2024年の見通しを発表しましたが、私たちの予想よりも成長は底堅く、インフレはより頑強に推移してきました。地域差の度合いも大きくなり、主要国のインフレは異なる道筋を辿ってきました。こうした変化を反映させるべく、私たちは基本シナリオを修正しましたが、その他のシナリオについては、今年の初めからレビューに着手する中で、その核となる考え方は変えていません。

シナリオ1:ハードランディング

私たちは、「ハードランディング」を牽引する要因は1つないし2つあると考えています。いずれにせよ、最終的な投資インプリケーションは似たものとなるでしょうが、短期的な経験は異なる可能性が高いでしょう。

  • 既にコミットされた政策の過ちが米国経済にとって手に負えないものであることが判明し、その影響をラグをもって感じ始める可能性があります。この場合、成長はかなり低下し、政策的緩和が早まるでしょう。
  • インフレが長引けば、政策当局はより長期により高く金利を維持しなければならなくなり、その結果、現在予想しているよりも大きな経済的影響がもたらされる可能性があります。
ハードランディングにおいて私たちが選好する対象
  • 現金
  • 株式:生活必需品、ヘルスケア、ユティリティなどのディフェンシブ銘柄
  • 債券:ロング・デュレーションのソブリン債
  • 通貨:スイスフラン、日本円など、米ドル以外の非コモディティ・ディフェンシブ通貨
シナリオ2:ソフトランディング

米国については、既に実現した需要サイドの冷え込みがインフレ圧力の低下を促し、コアインフレが基本シナリオよりも着実かつスムーズな軌道で低下する、という上方シナリオも考えられます。これにより、FRBはより早期に、より大幅な緩和を実施することが可能になり、ドルが低下し、リスク資産や非米国資産に有利なバイアスが予想されます。

この「ソフトランディング」シナリオでは、米国経済は現在、景気サイクル半ばの減速期にあり(あるいは減速期を脱しつつあり)、2024年後半に再加速すると予想されます。米国外では、ユーロ圏のような黒字国だけでなく双子の赤字となっている新興国も、このような環境下で恩恵を受けると予想されます。

ソフトランディングにおいて私たちが選好する対象
  • 株式
    • 欧州、中国、新興国の株式
    • バリュー株、小型株
    • 素材、資本財、金融
  • 債券:ハイイールド社債
  • 通貨:豪ドル、カナダドル
  • コモディティ:工業用コモディティ、特に金属

 

  • 1.

    出所:FRB、2024年3月31日

  • 2.

    米国及びユーロ圏のGDP成長率、消費者物価に基づく

  • 3.

    中国の輸出は2024年5月時点で前年比7.6%増。出所:中国税関総署

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