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運命の逆転

運命の逆転

〔要旨〕
  • 力強い株価上昇:8月5日に底を打った後、新しいデータを受けて米国株は先週、力強く上昇し、今年最高の週となった
  • 基本シナリオを維持:賃金上昇と金融緩和の開始により、米国経済は景気後退を回避し、今年の終わりから来年初めにかけて再加速するだろう
  • ジャクソンホールへの注目:ジャクソンホール・経済シンポジウムでパウエルFRB議長が講演予定であり、緩和に向けた計画がより明らかになる可能性がある
米国株式市場及びグローバル株式市場の力強い上昇

米国で一定の落ち込みの予兆

基本シナリオ:米国経済は景気後退を回避

日本の逆転

英国:見通しが改善

今後の展望:重要な一週間

今週の公表予定
 

この夏、私が何度も立ち返ることになったテーマは、「運命の逆転」です。このテーマは、ここ数週間の推移を正確に表していると思います。直近の良好なデータのお陰で、米国の景気後退に関する市場のリスク認識は、上昇した時と同じぐらい素早く低下しました。米小売売上高は、前月比1.0%増と予想を大幅に上回りました1。ベルウェザー(先行指標)となる小売業のウォルマートは、客数、平均客単価ともに前年同期比で改善したとし、予想よりも好調な決算を発表しました。更に米国の新規失業保険申請件数は、前週の23万4,000件(予想を下回った)から、これも予想を下回る22万7,000件に減少しました2。またミシガン大学消費者調査では、消費者センチメントが5ヵ月ぶりに改善したことが示されました3。ディスインフレの継続的な進展が助けとなっていることは、明らかだと考えられます。

 

米国株式市場及びグローバル株式市場の力強い上昇

市場では先週、これに対する反応として、米国株式市場が非常に力強く上昇しました―実際に今年最高のパフォーマンスを記録した一週間でした―また、グローバル株式市場も同様に力強く上昇しました。VIX指数は8月5日のピークから劇的に低下しました。ハイイールド債のスプレッドは、市場が底をつけた8月5日から0.6%ポイント以上縮小しました4。市場は、明らかに安堵の息をついています。
 

米国で一定の落ち込みの予兆

しかし、落ち込みの予兆が見られないわけではありません。ニューヨーク連銀の月次消費者調査に、「あなたが今後3ヶ月の間に債務の最低返済額を滞納する可能性は、どの程度ですか」という問があります。先週発表された最新の調査結果によると、この問で回答された滞納の可能性は平均13.29%に上昇し、パンデミックによる経済停止に見舞われた2020年4月の16.15%以来の高水準となりました5。数え切れないほどの企業から、米国消費者―特に低所得層―が更なるプレッシャーにさらされているとの声が聞こえてきます。ホーム・デポのCEOは最近、「今四半期中は、金利の上昇とマクロ経済の不確実性の高まりにより消費者需要がより大幅に圧迫され、消費の減退につながった」と説明しました6。またバンク・オブ・アメリカのCEOは、「... 毎週消費活動を行っている6,000万人の消費者についてみると、今のところ7-8月は、昨年から今年にかけての成長率と同じ、約3%の伸びで消費が行われているとみられる。これは昨年のこの時期の半分の伸び率でしかない。すなわち、消費は減速している。口座に残高はあっても少しずつ減りつつあり、職があり収入はあっても、消費は実際鈍化しつつある.....」と述べ、消費者へのプレッシャーを理由に、FRBに早期の利下げを促しました7
 

基本シナリオ:米国経済は景気後退を回避

以上をまとめると、今のところ私たちが2024年後期のグローバル市場見通しで示した基本シナリオに変わりはありません。私たちは、米国経済は、実質(インフレ調整後)賃金の伸びの改善と金融緩和の開始を追い風に、今年の終わりから来年初めにかけて景気後退を回避し、再加速することができるだろうと考えています。しかし、より深刻な景気後退を回避するためには、FRBが十分迅速に動くことが前提となります。既に実質賃金の伸びは改善しつつあり、今は利下げ開始を待っているタイミングです。利下げは間もなく開始されねばならず、それが私たちの基本シナリオが実現するかどうかの鍵となるでしょう。
 

日本の逆転

米国だけではありません。日本でもある種の「運命の逆転」が起きつつあります。日銀による7月31日の利上げ決定以降、米ドルに対して円高が進み、日本株は大きく売られました。しかし先週述べたように、8月7日に日銀の内田副総裁は、金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはないと表明しました。これを受けて、日本円は小幅な円安に転じました。日本株も上昇しましたが、これは円安だけでなく、好調な経済データによるものと考えられます。例えば先週、日本の4-6月期のGDP成長率が予想を上回ったことが発表されました。賃金上昇の伸びを受け、個人消費、特に耐久消費財消費が4-6月期に増加したことは重要です。私の同僚の木下智夫(グローバル・マーケット・ストラテジスト)は、減税や燃料補助金の延長など様々な政策的支援により、短期的には堅調な消費の伸びが維持されるだろうとみています。8月初旬に株式市場の調整があった後、内需関連株を支えたと思われるのは、こうした消費の伸びの改善でした。

サプライズとなった日銀による利上げを受け、混乱の中縮小した円キャリートレードは、直近では人気を回復しつつあります。しかし私は、FRBやその他の中央銀行が金融緩和を行うにつれ、米ドルやその他の主要通貨は、今後数ヶ月のうちに日本円に対して低下すると予想しています。とはいえ、日本の持続的な経済成長が期待されているため、日本株が必ずしも下落するとは限りません。円高は日本株にとっては逆風となる可能性が高いものの、乗り越えられないというわけではありません。首相の退任表明を受け、政治的な不確実性に直面しても、良好な経済データが続くことによって日本株が上昇する可能性はあります。
 

英国:見通しが改善

そして、英国です。リズ・トラス元首相及びその財務相が、英国の経済課題を映し出す、物議を醸した予算を発表し、英国債の利回り危機が生じてからまだ2年も経っていません。現在、英国はイングランド銀行の目標値近くまでインフレ率を押し下げることに成功し、6月の失業率も予想を下回る4.2%となりました8 。見通しは明るい状況です。私の同僚のポール・ジャクソン(グローバル・ヘッド・オブ・アセット・アロケーション・リサーチ)は、英国では家計貯蓄率(米国では歴史的低水準に近い)と同様に、実質賃金の伸びが米国よりも高く、実質小売支出が回復しつつあると指摘しています9 。彼はまた、米国の消費者へのプレッシャーが高まっていることから、英国の消費者(および経済)は、米国よりも良い状態にある可能性があると主張しています。またイングランド銀行は既に利下げを開始しており、これが心理的な押し上げ効果をもたらすと考えられます。先週、MSCI英国指数が3%以上上昇するなど、市場は英国株の見通し改善を反映しつつあります10
 

今後の展望:重要な一週間

今週は、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合議事要旨が公表されます。7月下旬のFRBの考え方を市場がよりよく知ることができるため、これは重要なイベントであり、短期的にボラティリティが生じる可能性があります。しかし、あくまで過去の振り返りに過ぎず、間もなくフォワードルッキングなガイダンスがいくつか得られることを考えれば、その重要性も短期に終わるでしょう。注目の対象は、ジャクソンホール・経済シンポジウムの開幕と、週の終わりにそこで行われるパウエルFRB議長講演に移ります。歴史的に、FRBはジャクソンホール会合を政策転換(あるいは新しい政策)を披露する場として活用してきたため、私はそこで、緩和に向けたFRBの計画が更に明らかになると考えています。これは特に近年、金融政策が市場に劇的な影響を与えてきたことに鑑みれば、マーケット・ストラテジストや投資プロフェッショナルにとって、まさに「必見のテレビ番組」となることでしょう。

結論として、この数カ月間、私たちは多くの「運命の逆転」を目の当たりにしてきましたが、今後数か月間、更に多くの「運命の逆転」を目の当たりにする可能性が高いでしょう。私は1995年から市場を見てきましたが、その間紆余曲折や驚きの連続でした。また基本シナリオが予想に沿って正確に展開することなど、まず無いことも学びました。だからこそ私は、長期の時間軸で構える投資家に対して、ポートフォリオを―オルタナティブ資産も含めて―幅広く分散し、定期的にリバランスを行うことを提唱しています。
 

今週の公表予定

公表日

指標等

内容

8月19日

カナダ銀行シニア・ローン・
オフィサー調査

経済・金融情勢が企業融資に与えている
影響について示唆を与える

8月19日

中国人民銀行ローンプライムレート
(最優遇貸出金利)

ベンチマークとなる貸出金利

8月19日

オーストラリア準備銀行会合
議事要旨

中央銀行の意思決定プロセスについて
更なる洞察を与える

8月19日

韓国消費者信頼感指数

消費者センチメントを追跡

8月20日

ユーロ圏CPI

カナダCPI

インフレの動向を示す

8月21日

FOMC会合議事要旨

中央銀行の意思決定プロセスについて
更なる洞察を与える

8月21日

オーストラリアPMI
日本PMI

製造業とサービス業の経済の健全性を示す

8月22日

ジャクソンホール・経済シンポ
ジウム開幕

カンザスシティー連銀が主催する年次経済
政策シンポジウム。世界中から中央銀行、
政策当局、学者、エコノミストが参加

8月22日

ユーロ圏PMI
ドイツPMI
インドPMI
英国PMI
米国PMI

製造業とサービス業の経済の健全性を示す

8月22日

日本CPI

インフレの動向を示す

8月22日

英国消費者信頼感調査

消費者センチメントを追跡

8月23日

カナダ小売売上高

小売業の健全性を示す

8月23日

米国新築住宅販売戸数

住宅市場の健全性を示す

  • 1.

    出所:米国勢調査局、2024年8月15日

  • 2.

    出所:米国労働省、2024年8月13日

  • 3.

    出所:ミシガン大学消費者調査、2024年8月16日

  • 4.

    出所:セントルイス連銀経済データ、2024年8月16日。ICE BofA 米国ハイ・イールド・インデックスのオプション調整後スプレッドを反映

  • 5.

    出所:ニューヨーク連銀消費者調査、2024年8月12日

  • 6.

    出所:ホーム・デポ決算説明会、2024年8月14日

  • 7.

    出所:CBSニュース、"Face the Nation with Margaret Brennan"、バンク・オブ・アメリカのブライアン・モイニハンCEOインタビュー

  • 8.

    出所:英国国家統計局、2024年8月13日

  • 9.

    出所:LSEGデータストリーム及びインベスコ・グローバル・マーケット・ストラテジー・オフィス、2024年7月31日

  • 10.

    出所:MSCI、2024年8月16日

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MC2024-106